【閑話】乙女達の密会


 


              ◇◆◇◆秋堂 小鳥◇◆◇◆




 ユキ兄ぃがゲームを始めてからどれくらいの時間がたったか。

 ころんと横になっているユキ兄ぃを、ただ見ているのは至福の時だ。

 ただ、ゲーム機械のせいで顔の全体が見れないのは残念だけど。


 兄からユキ兄ぃが女の子になっちゃったと聞かされた時は、ショックやら戸惑いやらで色々とパニックだったけど、いまはもう落ち着いた。


 ――でもまぁ、コレはこれで……アリかもしれない。


 こんなに可愛くなっちゃって、一か所を除いては至高の一品ってくぐらいのお人形さんみたいな体付きなんだよね。


 今後、ゆき兄ぃ……。

 基、翡翠ちゃんをどう自分好みに染めていけるかが、今後のポイントなのかな、まずは過激なスキンシップを自分と翡翠ちゃんだけは当たり前っていう意識の植え付けから始めないとダメかな。

 あ、でも精神的には男の子のままなんだっけ。


 でも女子の日常を知っているわけじゃないんだし。

 刷り込み現象みたいにできれば問題は無いかな――。


 揉みしだいたら小さくならないかな。

 いや、揉んでもらった方が大きくなるんじゃあ。

 こんどお風呂に押しかけて両方ためそう。


 はぁ、いままで練ってきた計画の半分位はダメになりそう。

 けど、今までユキ兄ぃにしてきた事は逆に良い感じに利用できそうかな。


 ――まぁ、それはそれとして、

「ねぇ、貴方達は下に行かなくても良いの?」

 邪魔者の排除が先か。


 笑顔で明るく、この部屋にいる邪魔な二匹の雌猫に話しかける。


「お父様には私達が居るから大丈夫って言ってる?」


 もう一人のそっくりな子に私から隠れる様にして、こちらを窺い見る様に言う。


 ――さっきとは打って変わって、引っ込み思案な態度だね。


 ただ、こちらを覗き見る目は、内気って感じの目じゃあ無いんだけど。


「お父さんには何かあった時に対処できるように、私達が付いてるからって言ってるもんでね、この場を離れたくても離れられないのよね」


 もう一人の子はしれっと言うが、こっちを一切見ない。

 ジッと呆ける様にユキ兄ぃを見つめている。


「ふ~ん、そうなんだ~。二人ともちっちゃいのに凄いね~、機械に強いんだ?」


 いまユキ兄ぃはゲーム中。

 だから無闇やたらにユキ兄ぃの体に触れる訳にもいかない。


 お兄と二人だけで楽しく遊んでいるとか許せないんだけど、ユキ兄ぃが楽しんでいる時間を邪魔するなんてできないし、したくもない。


 まぁ、後でお兄は極刑に処すとして。

 この二人から、とりあえずユキ兄ぃを守らないと。


「機械に強いのはワタシじゃなくって、葉月の方なんだけど」


 ぽんっと隠れる子の頭を撫でる。


「この子ってば、人見知りが激しくって、こうやって私に隠れて相手を警戒してか、観察とかしだしちゃうから……不愉快な思いをさせてたら、ごめんなさい」


 そう言いながらもずっとユキ兄ぃを見ている。

 貴方こそ、不愉快極まりない。


「いえいえ、別に良いですよ」

「……貴女は、家にかえらない?」

「なんで?」

「兄? 帰ったよ?」

「お兄はゆ……翡翠ちゃんとゲームするために一時的に帰っただけですから」


「ここに居る意味、なくない?」


「居る意味ならあるじゃない。今日、初対面の人が部屋に残っていたら怖いでしょう、その監視の意味も含め、自分がここに残ってるってわけだから、気にしないで」


 そう強く言うと、葉月だったかな? そのこが小さくビクついて隠れてしまう。

 ちなみに、千代さん達大人組は下のリビングで談笑している。


 この子達の父親は凄く紳士的だった。

 「女の子の部屋に男がずっと居るのはよくないな」と自ら出ていって、千代さん達と積もる話もあるようで下に下りていったのだから。


 それで図々しくも残ったのが、この双子というわけだ。


 確かこのゲームは異変があればすぐに知らせてくれる機能があったはず、別に彼女達がこの場に留まって見ている意味は無いはずだ。


「ところで、貴女――」

「自分の名前は秋堂小鳥よ」

「そう、では小鳥さん、一つお聞きしたい事があります」


 あまり興味がなさそうに、自分の名前を呼ばれる。


「アンタさ、こっち見たら?」


 ついイラっとして粗い言葉遣いになってしまう。


「あら、失礼。私の名前は桜花です。特になんと呼ばれても気にしないの押す気によんでください。苗字で呼ばれるとどっちを読んでるか分かり辛いので」


「そう、で? 桜花ちゃんはなにが聞きたいの?」

「…………やはり「さん」で呼んでくれます? 何故か虫唾が走りました」


 ぱっぱと自分に見せびらかすように、腕の部分をはたきながら言う。


 ――もう、意地でも「さん」付けて呼ぶ気などなくなった。


「で? 桜花ちゃんはなにが聞きたいのよ」


 ワザとちゃん付けて呼んだのに、次は気にした様子もなく話を進める。

 次の瞬間、ちらっとユキ兄ぃの方を見てから、


「えぇ、こちらの風月幸十さんとは古くからの御友人ですか?」


 にこやかに、愛くるしい笑顔を浮かべて、そう自分に聞いてきた。

 驚きのあまり少しの間が開いてしまった事に後悔する。


「なに言ってるの? その子は翡翠って名前よ」


 それでも数秒程度の間だった。


 普通なら、行方不明扱いになっているユキ兄ぃの名前が出て驚いた。そう言えば誤魔化せるのかもしれないけれど、この子達はきっと確信を持って聞いてきた。


 だから、ワザと自分の目を追わせるようにして、ユキ兄ぃの事を見てからこっちに話を降ってきたんだと思う。


 しかも、自分をイラつかせた上で、だ。


「……2秒以内、合格点?」

「そうだね、合格点はあげても良いかもしれなくも、ないかもな」

「……それ、どっち?」

「む~、だってこの人、気に入らないんだもん」

「それは多分、向こうも同じ?」

「…………えぇ、全く、その通りだね」


 多分だけど、計画やら罠の考えは葉月と呼ばれた方の子だろう。そこまでに持っていく演技やら相手の感情を良く見ているのは、この桜花って子の方だ。


「なんでユキ兄ぃの事を知ってるわけ?」

「お父様のデータベース調べた?」

「……犯罪じゃないの」

「別にクラックはしてない?」


「ちょっとした娘の悪戯です……、良くない事だっていうのは分かっています」

「分かってるなら――」

「仕方ないじゃないっ! 知りたかったのだから――」


「首謀者達の行方や死亡はニュースで頻繁に取り上げられる。なのに恩人だけが行方不明? 納得できないのよ。何かあったら今度は私達が助けたいの!」


 その気持ちは痛い程に分かってしまう。

 分かってしまう為に、それ以上はなにも言う事ができなかった。


 自分だって人の事は言えない、お兄からユキ兄ぃの事を聞くまで結構ひどい事をした気がする。最終的に根負けして教えてくれたわけだけど。


「……まぁ、いいよ。で、自分を調べた理由ってなんなわけ?」

「取引、しない?」

「取引? いったいなんの――っ!?」


 こちらに見せつけるようにして、桜花ちゃんがチョコの一ブロック位の小さい機械を掌に載せて突き出してきた。


「小鳥さんにとっても、メリットのあるお話ですから」


 桜花ちゃんの差し出した機械を引ったくり、後ろ手に隠す。

 双子はニコニコと笑いながら、顔をこっちに近づけてくる。


「まず、小鳥さんにも【ズィミウルギア】をプレゼントします。それと――」

「ソレよりも高性能? なモノを幾つかと、私のPCをプレゼント?」

「……で、何を自分に要求するつもり?」


「定期的に私達にも、その貴女が所持しているデータをくれること。過去のデータ、そして幸十さんの過去の写真と、いまの翡翠さんの写真を何枚か……お宝写真をせめて5枚ほど欲しいかと」


 ――ん~、確かに自分一人じゃあ、あのゲームの環境を整えるのはちょっと難しいかもしれないし、コレの性能が向上するっていうのも悪くない。


「最新のMMO専用ゲーム機本体も付ける?」

「わ、分かったよ……連絡先の交換を――」


 三人でひそひそと喋っていると。


「んっ~、んっ!?」


 あっちこっち伸びをし、自分達の存在に気付いたゆ……翡翠ちゃんが驚き、両腕をパタパタとさせて、近くのケータイを取り出して文字を一生懸命に打ち始める。


『な、なんで君等がオレの部屋に居るの!?』


「ゲームの動作確認?」

「体調が悪くなったりしていません? あったらいってくださいね」

「自分はこの二人の監視……別に変な事はしてないから大丈夫だよ?」

『あ、そう? えっと、べつに大丈夫です』

「ゆ……翡翠ちゃんは、休憩? お兄は?」

『うん休憩~、もう二時間もやってたんだね。全然そんな感じなかったよ~』

「……ゲーム、楽しい?」

『うん、すっごく面白い』

「そうですか、お父さんも喜びます」


『あ、そうそう―ー――』


 ユキ兄ぃの休憩中、ゲームの中で琥珀ちゃんって子の存在や、その子と話しをすることが出来たんだと、色んな事をハイテンションで話してくれた。


 ちょっと後にお兄も来たが、二人だけで楽しく遊んでいたことに嫉妬した自分達三人でちょっとだけお仕置きしたことは翡翠ちゃんには内緒だ。




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