【オンライン】08話:不安の始まり、一人じゃないこと




 ――大変です、母さん。

   ただ、畑を作ろうとしただけなんです。

   オレは今、モンスターに追われています。

   無駄に可愛いスライムさんに、ウサギさんという雑魚モンスター。


 オレは逃げながらテキスト画面に文字を打って、助けを呼ぶ。

 だがしかし、そんなオレを微笑ましく見守っている、二人の役立たずがいます。


『ねぇ! ちょっと~~、助けてって言ってるじゃんか~っ!?』

「ひゃあ!? こっち来た。ボクじゃなくて狙うなら、そっちそっち、ひぃっ!?」


 シュネーのヤツがオレを盾にしようと必死に逃げ回る。


『裏切者っ!? やっ!? 何とかしてよ、わっわわぁ、ふみゅぅ!!』


 口論をしていると、ひんやりと冷たくて弾力のある球が複数飛んでくる。


 普段はゼリー状の手触りで子供が遊ぶゴムボールみたいな弾力なのに、襲い掛かって来るときはテニスボールくらいの硬さで飛んでくる。


 地味に痛い上に、数が多いからたちが悪い。


「ぎゃ~、痛い痛い」


 マイホームの真後ろだというのに安全地帯がありません。



  ♦♢♦♢



 ==ほんの数分前。


「ねぇ~、ほんと~にここから始めるの?」


 目の前には小綺麗な一軒家と掘っ立て小屋が一つ。

 それを見上げながらエフケリアさんが不安そうな声を上げる。


「無駄無駄、一度でも決めちまったらそうそう変えないから、コイツは―ー」


 過去の事を思い出してか「あの時だって」とブツブツ小言を言い始めた。

 こういう時の樹一こと、ティフォには触れず触らず無視が一番だ。

 後ろの二人はほっといて、とりあえず家の中を確認しよう。

 ドアノブに手を掛けると、光の粒がオレの手に巻き付いて緑色に光る。

 すぐに光が収まるとガチャンと鍵が開く音がする。

 家の中はモノ一つ無い広いスペースがあるだけ。

 水は出る様で、流し台と風呂場のシャワーは使えるようだ。


 小さい部屋が二つ大きめの部屋が一つ、

 大きめなのはエフケリアさんに使ってもらおう。


 どの部屋も机も何もないから、とりあえずはたきと掃き掃除をしよう。

 家の中の倉庫に掃除用具があってよかった。

 というか掃除してわかったが、ゲームだというのに無駄に凝っている。ちゃんと履けば埃や塵が出るのだから、これは定期的にゲームの中でも掃除が必要そうだ。



 そして、掃除が終わって家を出ようとした時だった。

 コンコン――とドアをノックする音が響く。


 皆で顔を向かい合わせ、全員が首を傾げながら玄関による。


『はい?』


 ドアを開くとムスっと膨れっ面なオジサンが仁王立ちしていた。


「おまえら、ここでなにしとるんじゃ?」

『今日からここに住むんですけど?』

「なんじゃチビッ子、俺みたいなヤツととは口で話す事さえせんのかか?」


 ドスを利かした声に、思わず体が震えてしまう。


「ちょっと、ひ……スノーは喋れないのっ! 自分より小さい相手に威圧して食って掛かるなんて、そっちの方が礼儀知らずなんじゃないの?」


 妖精であるシュネーを見て驚いた様子のオジサンは、更に気まずそうな目でオレを見る。


「……それは本当か?」

「本当よっ!」


 そう叫ぶように言うシュネーに合わせて、コクと頷いて答える。


「それは……その……すまない」

『いえ、別に気にしていませんよ』


 片手で髪を掻き、オレとシュネーを視線から外して、きまりの悪い思いをしながらもとりあえずの体裁を保とうと後ろの二人には、威圧的な態度は変えない。


「まぁ、お前らが何処に住もうがかまわんがなぁ、此処でのテメェらの居場所は無いと思えよ、俺達はお前らを絶対に認めないからな」


 オレの事はほったらかしで、後ろの二人を指差して怒鳴る。


 ――この人、案外に良い人っぽいな。


「お、おい、チビッ子。な、なんだよその目は」


 きょとん、と首を傾げるオレ。


「その、のほほんとした顔に生暖かい目で、こっちを見るんじゃあねぇ」


 オジサンが片方の眉毛をピクつかせて、戸惑った様子でオレを睨む。


 ――そんな目で見ていたのか、コレは反省。


 かるく頬をペチペチ叩いて、顔を引き締める。


 取り繕った顔でもう一度オジサンを見ると、何故か一瞬ビックリした表情をして、なんかワザとらしい咳込みをしてから、また険しい顔に戻ってしまった。


 周りの三人が何故か微笑ましく笑っているか、一体何があったのだろう。

 訳の分からない状況に戸惑いながらも、とにかく話を勧めよう。


『過去に何があったのかは知りませんが、オレ達にチャンスをくれませんか?』

「チャンス?」


 ちょっと険しい顔をオレ……じゃなくて、後ろの二人を見る。


『どうしたらちょっとは認めてくれます?』

「あぁ? だからみとめ……ねぇ……って……………………」


 なんかジッーと見つめていたら次第にオジサンの態度が変わってきたので、しばらく見つめていることにした。


「……あのなぁ、チビッ子……オレ達はだな、その……」


 ――やっぱりダメかなぁ。

   過去の人達は過去の人、いまのオレ達を見てくれないかな。


 後悔はさせないとは言い切れないが、簡単に投げ出さない自信はあるんだけど。


 少し気持ちが落ちてしまう。真っすぐに見ていた顔を下げても、視線だけはオジサンをちゃんと見ようとじっと見つめる。


「だぁ~もうっ! わぁった。い、一度だけチャンスをやる」

『本当っ!』

「お、おう……(そんな嬉しそうな顔でこっちを見るな)ったく」


 ――なんか顔やら耳に赤みがかっているように見えるけど。


 調子が悪いのだろうか?

 大丈夫かなと思い、顔を除こうとすると慌てた様子で顔を逸らされてしまう。

 嫌われたかな、そう思うも、今は認めてもらってから仲良くなっていこう。


『それで、どうすれば少しは認めてくれます?』


「あぁ、そうだな……じゃあ、このあたりなら何処でも良い、一から畑を作って、その畑で何でもいいから育ててみろ。そんで、その畑で生ったモノを収穫できる状態にしてみろよ。それができりゃあ俺を含めて、このあたりに住んでるヤツら全員が認めるだろうよ」


 挑発的に言われたので、エフケリアさん以外はオレと同様に息巻いて、畑を作ろうと外へと飛び出して行く。


 ただ、エフケリアさんだけは、

「はぁ、大丈夫かしら」と、不安な表情でオレ達の後に遅れて付いてくる。


  ★☆★☆


 とにかく、必要な道具やモノを色々と買い込んで戻り。

 城下町から戻ると、空は暗くなっていた。


『夜っ! もうそんな時間!?』

「違うぞスノー、30分で昼夜が変わる。ゲーム世界の1日が現実の1時間だ」


 ボンっと説明書を取り出して調べてみる。


「ホントだ~、そう書いてあるね」

『30分……もっとやってる感覚だった』

「だよね~、リアルの時間を全然気にしてなかったね」


 説明書を一緒に見ながらシュネーと騒いでいると、頭をガッシリ掴まれる。


「お前ら、俺の言った事を信じろよ」

「いや~、スノーが徐に説明書を出したから……思わずね~、えへへ」

『ティフォの言った事にウソは無いって信じてるよ? でもね、調べるのはお約束かなって?』

「なんでだよっ! あと一々言葉の最後に疑問詞っぽくするなよなっ! 泣くぞ」


 てへっ、と小さく舌を出しておどけてみる。


「いたたっ!」

『ギブ、ギブですティフォさん』


 シュネーと共にちょっとお説教された。

 そして意気揚々とホームに戻ると、おもしろ……大変な事態になっていた。


 ホームの中にはモンスターは居ないし、入ってこないが……その周りには転々とモンスターの小さい影がチラホラと見える。


「あ~、やっぱりねぇ~」


 エフケリアさんが右手を頬に当てて、困ったようにた大きなため息をつく。


「やっぱりって事は、これが問題だって言ってたことか?」


「えぇそうなのよ。まぁホーム、つまり室内には湧かないんだけどね、それ以外の場所にはモンスターちゃんがポップするのよ」

 ケリアさんが、ため息交じりに言う。


「でも、アイツらってアクティブモンスターじゃあないよな」

「それは、そうなんだけど……まぁ、畑を作ってみれば分かるわよ」


 オレとシュネーはホームに農業道具が一式まるっと揃っていたのでそれを使い、エフケリアさんとティフォは適当なクワやら熊手などを買ってきたのだ。


 そして畑を作っている最中。

 しかし何故か、スライムやウサギが邪魔をするようにすり寄ってきて、イライラしだしたシュネーが暴れて攻撃してしまい、追われる羽目になった。



   ◇◆◇◆



「なぁ、エフケリアさん」

「なぁ~に……ティフォナスちゃん」


「………………ファーマーってさ、戦えるんだよな」

「…………ごめんなさい、そこまでは知らないわ」

「……そうか」

「えぇ、うっかりしてたわね……PTじゃあないから手が出せないわね」

「ホームに一回もどったからな~、フレンドならホームには入れるんだっけか」


「そうよ、フレンドで許可を許したものならその人のホームに出入り出来るわ……PTが解除されるってことはすっかり頭から抜け落ちてたけど」


「クワってさ、武器……じゃあないよな」

「攻撃は、多分出来ると思うわよ」

「そうか、ならスノーがさっきから攻撃しようとして止まるのは……」


「多分、モフモフでかわゆいウサギちゃんや、デフォルメっぽい可愛さ重視の見た目のスライムちゃんに攻撃が出来ないんだわね、スノーちゃんが……」


「鬼気迫る状況なんだろうけどさ、和むな」


「スノーちゃんとシュネーちゃんにじゃれついて居る様にしか見えないわね」




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