【オンライン】07話:不安の始まり、一人じゃないこと





「さてと、腹ごしらえも澄んだし、行きましょう。まずは……管理塔かしらね」

『管理塔?』

「えぇ、家を買ったり借りたり、お店を出す時なんかもそこに行けばいいわ」


 そう言いながら「あそこよ」と、ここから少しだけ見える塔を指差す。


 塔を核む様にある中央に近い中間のぐらいの大きさだろう。

 中央の塔に一番近い塔だということは、見てわかる。


「それじゃ、とっとと行って早く外に出てみようぜ」

「ねぇ、ティフォナ~。その姿と口調があってないよ~」

「五月蠅いぞ、ほらほら、グズグズしない」


 半場強制的に椅子から降ろされて、手を引かれる。

 ただ、それにちょっと待ったをかけたのがエフケリアさん。


「ねぇえ、ちょ~っときになったんだけど。ティフォナスちゃんは分かるんだけど……スノーちゃんって今までスカートとかって履いた事が無いのかしら?」


 しまったな、今まで樹一の事とか琥珀やらこのゲームの世界観で忘れられていたのに。とりあえず、エフケリアさんの言葉に頷く。


「そう……このゲームって無駄に作り込まれているから。その、見えちゃうわよ」


 最後の言葉はオレ達の耳元に近づき、小声で言ってくれる。

 見える、という言葉が何を差して言っているのかは分かる。

 さっとスカートに手を押さえてしまう。


「あらあわ、まぁ~。二人そろってカワゆい反応ね~」


 二人というと、つまり……。

 ティフォ……いや、この場合は樹一と呼ぼう。


 樹一も顔を真っ赤にしてオレ同様にスカートを手で押さえて俯いている。


「ま、服装に関してはいまは手持ちがないし、次に会った時にでも見繕ってあげるから、今は注意して、大股で歩かないように、お淑やかに歩きなさいね」


 それから、管理塔までの道のりは長かった。


 エフケリアさんに歩き方を注意され、風でスカートが揺れ足を撫でる感覚に気恥ずかしさが一々込み上げてくるという地獄のような時だった。


 管理塔の中に入ってすぐの広間はフリースペースとなっていて、色んな人が何やら呼びかけをしていたり、風呂敷を広げて露店を開いていたりする。


 中には看板を片手に寝ている人なんて猛者もいた。


 ……取られたりしないのだろうか。


 そんな人達を横目にしながら、壁沿いを添うような螺旋階段を上がっていくと、二階にはまるで銀行の様なカウンターに受付嬢の人達がズラッと並んでいる。


 中央には待っている時に寛げるよう、机やら椅子がいくつか並んでいる。


「なぁ、エフケリアさん。あの壁際のデカいの二つ、アレなんだ?」


 ティフォが指さした場所には、黒板の様なボードが二つ並んでいる。


 一つは緑色の紙が数多く張られ、もう一つの方には赤い紙が点々と張ってある。


「あぁ、アレはクエストボードよ。緑色はこの世界の住人達から、この城下に住む人々から近くの村々から私達に向けられた、お仕事やらお願いやら頼み事の類ね。赤いのはプレイヤーからの依頼事を示すものよ、主に私の様なクラフターが素材を求める感じね。


 紙に書かれている英数は難易度と参加上限人数。SSが一番難しいクエストで、底辺がFランクってところかしら」


 なんか凶悪っぽい名前のモンスター討伐から希少な動物? の捕獲とあるのに、下のランクは城下のごみ拾いから庭の手入れと、本当に幅広い依頼があるようだ。


「そんな事よりほらほら、こっちよ」


 背中を押され、橋の方のカウンターへ向かう。


「こちらはホーム管理の受付ですよ~、クエストやら依頼事は向こ~うで~す」


 やさぐれた様子でオレ達にチラ見した後に、投げやりに言う。


 すぐ隣に居る受付嬢が、ワザと聞こえるほどの大きなため息をついてみるも、目の間に居る受付の子は全く気にする様子は無い。


 オレは不安に刈られながらも、だいじなモノのアイテム欄からマイホームチケットを取り出して、やさぐれた受付嬢に見せる様にして、そっと机に置く。


「はぁ、なに……へ?」


 オレが出したものを手に取る。

 初めは不機嫌そうだった顔が徐々に変わっていく。


 徐々に見開かれた目は、何度も瞬きをしてチケットを確認、オレを二度見する。


 そんなに何度も見られても……。

 そのチケットは偽物とか別のチケットじゃあないですよ。


『えっと、あの……なにか?』

「い、いえ。しつれいしましたっ!? しょ、少々お待ちください」


 受付嬢は一礼すると、カウンターの奥の方へと消えていった。


 隣の受付嬢もオレの出したモノに驚き、やさぐれていた受付嬢の後を追う様にして、カウンターの奥に引っ込んでしまう。


「さて、ちょっと時間があるから、現状を簡単に説明しておくわね」

「現状? なんの現状?」


 シュネーがころんと頭の上で寝転がりながら、エフケリアさんに聞き返す。


「四つの島についてはそれぞれに聞いたでしょう。それぞれの島で起きてるちょっとした現状ってやつよ」


「それって、町やら村を大きくって感じのか?」

「えぇ、それぞれに大きな町があるのよ――


 火山や鉱山などが多い険しい土地。

 まず、ここにあるのが【ヴァルマイン】って国よ。ドワーフの作った山丸々一つに洞穴を開けて何層もの洞窟で出来ている変わった国ねぇ。

 ここの連中は変人が多いわね。ただ屈強な人が多く居るのよ、強敵との戦いを好んだり、誰よりも強い武具を作る事に精を出す者達が多くいる場所よ。


 実際、少し山に入って行けばランクの高いモンスターがウジャウジャ居るわ。

 ただ、家作りは下手ね、大体の人が山小屋や洞窟内に住んでるわ。



 運河やジャングル、湿地帯が多い土地。

 綺麗な街並みが特徴かしらね【ジャンシーズ】という水の都があるの。

 ここの連中はクラフターよりね、美味しい食べ物やセンスの良いアクセサリーが数多くあるわよ。効果の高いアクセサリーはもっぱらここで生まれるわね。

 街並みは、そうねぇ。ベネチアに近いかしら。移動に小舟を良く使う所とかね。



 深い森と荒野が広がり、魔力が多く特殊なモンスターが多く住む土地。

 ここは【フォレストヒル】って場所なんでけど。

 ちょっとここは面倒な連中の集まりね、森と荒野に分かれていて東西で毎日のように領地を求めて争っている場所ね、

 荒野の方は機械を生み出そうと研究やら実験を繰り返しているのよ、ちょっと前に汽車を作るのには成功したらしいんだけど、まぁ、ロボットはいつ作れるのか分からないわね。逆に森の方は魔法の研究を中心にやって居る感じね、どっちも相いれない油に水って感じで中の悪さは、この世界で一番有名な場所よ。


 荒野の町は【ヒルフォ】っていう、西部映画みたいな街並みね。森の名前はね、【フォレル】って世界樹って巨大な木に寄り添うように町が作られているわよ。



 草原や山や川と豊かでも、モンスターが数多く住む土地。

 ここは残念ながら国と呼べる大きな都は無いわね。

 皆は【グランスコート】って呼んでるわ。正式名はまだ無いのよね。


 小さな町が点々とあるだけ、このゲームのβテストや正規版が発売されて一週間ぐらいはここから始めようとホームを構えた人が多かったんだけど、ちょ~っと色々と問題ありな場所で、みんな挫折して止めてしまったわ」


「え? でも豊かな土地なんでしょう?」


 シュネーがチョコンと顔を出して聞く。


「えぇ、豊かで良い土地よ、あそこで育つ作物はかなりのモノだったのよ」


 思い出すように頬に手をあて腰をくねらせるエフケリアさんは、「美味しかったわ~」なんて頬を染めながら呟くように言った。


「いまは居ないのか? 一人ぐらいは……」


 ティフォの問いに残念そうに首を振って答える。


「居ないわ。正直、初めは運営側のバグなんじゃないかって皆が騒いだんだけれどね、運営からの返答は「コレは仕様です」だもの」


「バグってそこまで酷いのか?」


「ひどいって言うか、なんていうか……まぁ、その名残でグランスコートに住むこの世界の人達は、私達の様な冒険者を毛嫌いしてるのよね~」


 村を作ろうとした人達にとっては、たしかにたまったものじゃあないだろうな。


 ――なんか専門用語的なのが出て来たな。

   きっと当たり前の事なんだろうけど。


 クイクイとティフォの袖を引っ張って、こっちに注目してもらう。


『ねぇ、バグってなに?』

「スノーって知らないの、虫の事でしょう」


 何故かシュネーが誇らしげに答えるが、すぐにティフォとケリアさんが「違うよ」って、ハモりながらツッコミをいれる。


「えっ! 違うの⁉」

「ゲームやコンピューター関連では、不具合とか欠陥って意味で使うのよ」

『じゃあ、仕様っていうのは、不具合は無く正常に動いているってこと?』

「あぁ、そうい感じだな」

「そんな感じで、プレイヤー達はみ~んな嫌気が指して投げ出しちゃったのよ。残されたのはゲーム内の住人達って訳よ」


 信じて着いて来たらほっぽりだされ。

 そのままそこに住まう羽目になっちゃったんだ。


 でも、美味しい野菜とか……ちょっと食べてみたいかも。


 他の場所じゃあ畑作りは大変そうだしな。


 問題があるみたいだけど、ゲームの制作者が問題なしって言ってるって事は…… 何か解決方法があるって事だよね。


 そんな思考を巡らせていると、受付の人が誇りを頭から被って、さっきまで整えられた髪がちょっとボサボサになっていた。


「お、お待たせしてすいません!? こ、こちらが、今現在、貴方様にお渡しできるマイホームの場所です」


 ざっと見ると確かに、各地の至る場所が載っている。

 パラパラ見ていって、ある一枚の場所に目が留まった。


『じゃあ、ここで』

「はい、かしこ……まり……まし、た」

「ちょ、ちょっと、スノーちゃん⁉ 私の話し聞いてたかしら?」

『ん? 聞いてたよ?』


 オレは小首を傾げながら言う。


「スノー、なんだってこの場所を選ぶのさ」


 シュネーも呆れながら言う。


『え? えっ? なにかダメ?』

「いや、だめじゃあねぇけどよ」


 ティフォは乾いた笑いでオレを見る。


「ほ、本当にこちらで宜しいのですか?」

『うん、大丈夫です』


 受付嬢の手に渡した場所の紙。

 オレが選んだ場所は【グランスコート】この地に置かれた最初の家。


 そう、書かれている。



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