【オンライン】06話:不安の始まり、一人じゃないこと





 しばらくオレとティフォは落ち込み、人数分のココアが机に置かれる頃には何とか落ち着きを取り戻せていた。


 ココアをゆっくり飲み干しながら、エフケリアさんがオレ達を注視する。


「ねぇえ【双子】や【乙女】、彼女達と話してみて、貴方達はどう思ったかしら」


 エフケリアさんの聞き方は、何処となく真剣な雰囲気があった。

 いや、実際に真剣にオレ達の心根を聞きたいんだと、そう思う。


「どう、とは?」


「彼女達は運営が動かしているプレイヤーキャラーじゃないわ。AIつまり、このゲームの人工知能によるNPCと呼ばれるノンプレイヤーキャラクターよ」


 樹一は少し驚いた顔をしていたけれど、オレには良く分からない。

 そういえば、あの二人はデータを元に作られたって言ってったっけ。


『普通にこの世界に生きてる子達……ですよね?』

「そうだな、アレはもうこの世界で生きてるって感じだな」

「性格は悪かったけど、まぁ~、面白い子達だったしね。今度会ったら泣かすけど」


 オレ達のやり取りを見て少し目を見開き、柔らかい笑顔を向けてくる。


「人を見る目には自信があるけど。この出会いをくれた神様に感謝、かしらね」


 エフケリアさんが呟く様に言った言葉の意味が分からず、小首を傾げる。


「この世界はゲームの世界。ここに暮らす人々はただのゲームのキャラで生きていない……そういう人達も居るのよ。でも、この世界の住人達は自ら考え、悩み、答えを探し、傷つく事もあれば、感動したり嬉しくて泣ける、そんな心のある人達だと私も思う」


 悲しいことよねっと、最後に小さな声で言ってこの世界の空を見上げる。


「おっと、暗いのはダメね。本題はそこじゃなくって~、貴方達ぃ、私とフレンドにならない? っていうかなりましょうよ~。私ってば友達が少なくってねぇ」


 先ほどとは打って変わって、体をしならせながらティフォにすり寄っていく。

 低く男らしい声なのに、どこか子猫や赤子にする甘える様な声でだ。


「大丈夫、お礼に私の知っている範囲だけど、この世界の事を色々と教えてあげる」

「え、いや、その」

「説明書に載っていない事も、お・し・え・て・あげるわぁ~」


 ティフォはその場から飛び退いて、オレを盾にするよな位置に立つ。


「ど、どうするよ」


 助けを求める顔でこっちを必死に見られてもな。

 特にしてやれる事はオレ達には無い。


「ん~、ボクは別に良いと思うけど? エフケリアさん面白いし」

『オレも特に…… 良い人そうだよ?』


 ココアの入ったコップを持ち上げて、味わって飲む。

 ほろ苦くもスッキリとした甘さが口の中に広がる、美味しいココアに舌鼓。


「お前らがそう言うなら、まぁ、良いか」

「あ~ら、それじゃあさっそく交換ね★」


 ウインクをすると、星のエフェクトが――キランッ!

 という無駄に良い音を立てて飛ぶ。

 ピコンと申請の表示が届くと、それを承諾する。


「ねぇ、エフケリアさん――」


「んもぅ! ケリアとかエフりんとかでいいんだってばぁ~、もう、私たちはお・と・もだち、でしょう。それでなにシュネーちゃん」


 ハートを振りまき、星とハートの雨をオレ達に振らせてくる。


「えっと、その星やらハートのエフェクトが出るのってなんでなのかなって」

「あぁ、コレはこの服の効果よ。いわゆるネタ装備ってヤツね」


 エフケリアさんが椅子から立ち上がって、無駄にスカートを摘まみ上げ、ヒラヒラト見せびらかすようにして全身を見せる。


 片足で綺麗に回るとクルンッとまた妙な効果音が鳴る。


「私のメインはクラフターよ。いつか自分の装具やを持つのが今の所の目標かしらね。戦闘職は舞踏家って事になるのかしら。あまり戦いとか好きじゃないけど」


 ――や、それだけの肉体美をしていたら納得かと思われます。


 服もぱっつんぱっつんで、上半身に思いっきり力を籠めたらはじけ飛ぶんじゃないでしょうか? あまり見たくはないけど、簡単に想像できてしまいます。


「そうそう。このゲームじゃあ基本的にレベルアップではステータスの上昇はしないから、気を付けなさい。レベルが上がって増えるのは主にHP・MP・TPだから」


 ボンッと説明書を取り出してみる。

 HPとは体力値の事で、腕輪の緑色に光る棒ゲージのこと。

 このゲージが無くなると瀕死になり、時間経過で死亡扱いになる。


 死亡した場合は、オレ達が初めになっていた中央広場に出るか、マイホームの場所、または記憶の剣やクリスタルというセーブ登録の場所に復帰する。


 死亡した場合、半日は能力値が全て半減する。

 (半日はゲーム時間内の事を差す)


 MPとは精神力の事で、腕輪中央の蒼ゲージで魔法や精神力を中心とした技を使う場合など、使用時に減少する。精神力が無くなると、倦怠感の症状が出るでしょう。


 TPとは気力の事で、黄色のゲージ。

 主に身体を駆使した技や体力の代わりに使われる。

 というモノらしい。


 オレにはさっぱり分からん。


「じゃあパラメーターはどうやって上げれば?」


「それはこの世界で何をなしているかで変わるは、毎日重いモノを持っていれば筋力系統が上がるし、走り込みや反復連取をすれば素早さや体力が上がるのよ」


「なるほど……」


 と、ティフォは呟き何かを考え始めてしまう。


「ねぇ、ケイアさん」

「んもぅ、まだ他人行儀……まぁ、少しずつでいいかしら。それで今度はなに?」

「ボク達にはメリットがあるけどさ、フレンドになるだけで良いの?」

「シュネーちゃんは、私が損をしていると思うのね」

「え、うん……違うの?」


 まぁ、オレもシュネーと同じ様に考えていた。


 ただ友達になるだけにしては、破格な条件だと思う。


「ふふ、大丈夫よ。お友達になる事は正直に言っちゃうとね、私の方がはるかにメリットが大きいのよ」


 いつの間にかティフォもオレ達の話しに耳を傾けていた。


「この中で一番の価値と言ったらスノーちゃんになるんだけど。とりあえず貴方は自分の価値を自覚して知ってもらわなきゃだわね、本当に気を付けなさいよ」


 ――え? オレですか!?


 目をパチパチさせてエフケイアさんを見る。


「このゲームって色々と面白い要素がありすぎてね、技や魔法を自分で創造できたり、理想の形だったり能力を有した武具を生み出せたりするのよ。ある地方じゃあ魔法工学なんてモノもでき始めたらしいから、ロボットとかも出来るかもね」


 その話はオレと一体どんな関係があるのだろう。


「まだまだこの世界ったら広く、未だに未開のダンジョンやら塔やらお宝が各地方にあって、敵だって色々と居る、というかまだ分からない事だらけなんだけど」


「それは燃えますね」

「楽しそうな場所がいっぱいって事だよねっ!?」


 あぁ、ティフォもシュネーも目をランランと輝かせている。

 オレはこう~、まったりと皆で和気藹々とのんびり楽しむ方が好きなのだがね。

 確かに、冒険と聞くと心が少しだけ疼く。

 でもやっぱり、のんびりのほほんと過ごしたいな~。


「まぁ、そのせいで殆どの人が今や冒険家という職でごった返しているのが現状なんだけど、最近になって、ある可能性っていうか噂が浮上してきたのよ。


 ある地方の町が大きくなったら、世界が広がり新しい土地や資源、新たなモンスターに武器の類から職業までふえたって。


 スノーちゃんの今の職業って一般人って書かれているけどね、多分だけどマイホームチケットっていうのを貰ってると思の、それってね一般人の間なら何度も使えて、拠点を転々と変える事が出来るって代物なのよ。


 そして、一般人と職業に掛かれるけど私達クラフターや冒険者はこう呼ぶのよ。


【ファーマー】っていう愛称で、開拓者という意味を込めてね」


「えっと、一つ質問いいですか」


 ティフォが手をあげて声を上げる。


「なぁにティフォナスちゃん?」

「そういった情報はどこから? ゲーム外での情報交換は出来ないはずでは?」


「えぇそうね、知り合いじゃないとゲーム外では無理だけど。ゲーム内の公式掲示板や、え~っと、確か何処かに今月号があったはず」


 ケイアさんがアイテムボックスを開いて何やら探している。


「あぁ、あったあった。こういった新聞を作るプレイヤー、あるいは情報屋っていう集団、ネトゲで言うならギルドってやつかしら? そういう連中が情報を売り買いしているわ」


「じゃあ次、ボクが質問です」


 なんか授業をしているようで、ちょっと和むな~。


「冒険者が町を開拓すれば済むんじゃあないの?」


「冒険者になったらホームチケットは使えないの、それに町の開拓は必ずその街にマイホームを借りる、もしくは作るなどをして拠点としなければダメなのよ。そして、ファーマーはいまのところ、私の両手で数えられる人数しか居ないらしいわ」


『冒険者から一般人にはなれないの?』


「端的に言えば成れる。でもね村人との好感度は上がり辛いし、ホームチケットは無いの、それにファーマーの初期能力は一々覚えなくちゃならない手間があるのよ」


『初期能力?』


 ステータス欄を見ても、どこにも能力があるとは書いていない。


「隠れ技能っていうモノがあるのよ。シュネーちゃん、ティフォナスちゃんも説明書を開いてみて」


 言われた通りに二人が本を取り出す、シュネーのはオレ達のよりも少し小さめ。


「そこにこの世界の逸話が載っている最後と最初のページがあるんだけど。シュネーちゃんとティフォナスちゃんは読めないんじゃないかしら?」


 そういわれてる、二人は確かめる様に何度も見る。


「確かに読めねぇ」

「なに、このミミズがのたうち回ったような字は、棒人間みたいな絵もあるし」

『あれ? シュネーも読めないの? ファーマーでしょう』

「うん、読めないね……なんでだろう」

「もしかして、シュネーちゃんてば加護を受け取ってないんじゃいかしら?」

「良く解ったね。なんか物すっごく怪しかったから、ボクは要らないって答えた」

「加護を受け取るかどうかで、隠れ技能が変わるって情報があるのよね。ただ、確定的な情報じゃないから、分からない事も多いんだけど。それじゃないかしら」


 自分も同じページを見てみるが、二人とは違い、普通に読める。


《この世界は二人の天神によって作られた、塔を作ると彼らは四枚の花に似た大地と四の大神を生み出し、十二の小神に世界を管理させることにしたのが起源だという――》


 それ以上先は破れたページみたいな感じになっていて、読むことができない。


「えぇ~~っ!? なんでスノーは読めるのさ」


「さっきエフケリアさんが説明したろうが……」


「他にもファーマーには隠し技能があるんじゃないかって言われているわね。ちなみに技能の【言語解読】っていうのを覚えれば、この世界の本や文字が読めたり書けるようになるわ」


「ったく、また。とんでもないもん引いたな、お前は」

『ごめん、説明を聞いてもいまいちピンと来ない』

「ボクも、スノーがレアな存在だってのは分かったけど」


「あら、アナタだってレアな存在じゃないの。妖精のアバターなんて選べないはずなのよ。種族についてバージョンアップなんて情報は無いし。私があそこで連れ出さなきゃあ今頃はアナタ達二人を大勢が取り囲んでパニックよ」


 だからここに来るまで道中の人達が何度もチラ見してきたのか、密かに着いて来てた人達も居たっぽいしね。

 希少なモノを欲しがるというのは理解できるのだが、こういうゲームをした事のないオレには理解しやすい比較対象がパッと思い浮かばない。


 ただ漠然と、本当に何となくてティフォやエフケイアさんの言っていることを理解している程度の認識でしかない。


「お前、ゲームやらんも――」


 くぅーっと小さくお腹の音が、ティフォの言葉を止めた。


 皆の視線がオレの一点に集中する。


 ………………なにも、皆に聞こえる大きさで鳴らなくても。


 徐々に顔が熱くなって、すぐにボンッと火が上がる様な熱さに変わる。

 なんだ、この気恥ずかしさは、顔が熱いし、なんか皆の顔をまともに見れない。

 目の前に出ている説明書でゆっくりと顔を隠す。


「あらあら、けっこう話し込んじゃったから仕方ないわよ。此処は私が奢るから好きなモノを食べなさいな、お友達になった記念にね★」


 そういってエフケリアさんは、近くのウエイターさんを呼んだ。


「覚えておきなさい、この世界で空腹になると体力・精神力・気力は半分以下でそれ以上は回復しないし、パラメータも半減して状態異常になったりするからね」


 そういう事は、オレのお腹が鳴る前に言ってほしかった。



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