【オンライン】05話:不安の始まり、一人じゃないこと




「マスタ~♪ 二階のテラス席を借りたいのよ。今って大丈夫かしら?」


 連れてこられた場所は、中央広場から東へしばらく歩いたくらいの距離だ。

 店内は定食屋と飲み屋が半分くらい混ざった雰囲気で、けっこうだだっ広い。


「ケリア嬢か……まぁ、今は人もいないし別に使ってかまわんぞ」


 チラッとこの店の店主らしき人がオレ達を見て、なにか納得したようすで言う。


「ありがとうマスタ~、だから貴方って好きよ」

「へいへい、ありがとさん」


 軽くあしらって厨房にすぐ引っ込んでしまう。


「んもぅ、いけずね~。さ、付いてらっしゃいな」


 店の中央にある螺旋階段を上がって、テラス席へと案内される。


「ここまでくれば、安心かしらね。ほら、遠慮しないで席に座りなさいな」


 オレ達三人とも顔を見合わせて、促されるまま席に着く。

 椅子がちょっと……………… ほんのちょっとだけ、高く、よじ登って座る。

 もちろん、足は地面に着かずプラプラと遊ばせているしかない。


「えっと――」


 ティフォが何かを言う前に、手を叩いて筋肉さんが話し始める。


「あらヤダ、私の自己紹介をしてなかったわね。私はエフケリア。皆からはエフとかケリアって呼ばれているから、好きに呼んでね。私的には可愛い方が好みよ」


「お、俺はティフォナスです」

「ボクはシュネーだよ」


 二人とも妙に背筋を伸ばして挨拶する。

 オレも慌ててチャット欄を開いて名前を打ち込んだ。


『スノー』

「ありがとう。ごめんなさいね行き成り声かけてこんな所まで連れてきちゃって」

「あの、エフケリアさんはどうして、俺達を、その……此処に?」


「そうね、あのままだと貴方達ってばオオカミさんに食べられちゃいそうだったから、かしらね。新規プレイヤーでしょう貴方達。それと~、敬語は要らないわよ❤」


 ムッチュと投げキッスをすると、何故か唇からハートマークのエフェクトが飛び出し、ティフォの方へと飛んで弾けた。


 あぁ、樹一のヤツってば全身に鳥肌が立ってる。

 それよりも、オオカミ? 町中にオオカミが居るのか? 物騒な所だな。


「ひ……じゃなく、スノー。エフケリアの言ってるオオカミって動物じゃあない」

『へ? 違うの』


 というか、心を読まないでよ琥珀さん。

 オレの言葉にため息をつかれてしまう。

 しかも樹一も琥珀と一緒のタイミングで。


「うふふ、可愛いわねぇ。私があそこで声を掛けなきゃいまごろは有象無象の連中に囲まれていたわよ貴方達ってば。途中まで何人か後を付けてきてたようだしね」


 エフケリアさんが通りの一画を睨む様に見下ろすと、何人かがそそくさと慌てる様にして何処かへと、去っていった。


「えと、あ、ありがとうございます」

 ティフォナがお礼を言うのに合わせて、オレ達も頭を下げて礼をする。

「良いのよ、たまたま通りかかった縁ってヤツかしらね」

 ちょっと気恥ずかしそうに顔を背けながら、手をパタパタと降る。

「でも、何かお返しを――」


「ほんとに良いの♪ だって私も貴方達に興味があって、他の誰よりも先に声を掛けた一人なんだから、気にすることなんてないわ」


 なんだろう、一瞬だけ目がティフォを捉えていたような気がする。

 ティフォをチラ見すると、背筋に悪寒でも走った様子で震えていた。


「ねぇティフォナスちゃん、貴方……どうして最初に涙ぐんでたのかしら?」


 ――あ~、この人、何を聞きたいのか分からないけど。別に知りたい事があるな。


「あ~、いやちょっとですね――」

「ふふ、あらあら良いじゃない。そこまで化けるのは才能よ」


 そう言われてティフォのヤツが凍ったように固まる。


「周りの人達は気付いてないから大丈夫。まぁ、私の目は誤魔化せないけど、ね❤」

 ティフォがどうしてという顔で立ち上がっている。


 ――いや~、どうして分かったかなんて。この人の恰好を見ればそれなりに納得がいくと思うんですが、まぁ、初対面の一瞥で見破れたのは凄いけど。


「まぁまぁ、落ち着いて一から話して見なさいな」


「実は――」

 落ち着きを取り戻したティフォが、ゆっくりと語り始めてくれた。


 乙女チックな女神風な人? が言葉巧みに樹一を誘導して容姿を決めて、今度は【加護】を貰うときにも、相手に術中にハマって受け取ってしまったらしい。


 その人って双子とやり取りしてた女の人かな、もしかして。


 乙女チックな女神と言うのであれば、多分だが同一人物だろう。


「あ~ら、【乙女】にあたったのね、それはご愁傷様ね」

「なに【乙女】って? ボク等は双子の子だったよ?」

「え? あの説明するヤツって人によって違うのか?」

『あれ? ティフォが事前に調べてないなんて珍しい』

「あぁ、いやそれは、だな」


 もしかしてオレのせいだったりするんだろうか? それだったら申し訳ないな。


「うふふ、スノーちゃんが何を気にしているのかは知らないけど。多分、違うわよ」

『え? ちがう?』


「このゲーム、【ズィミウルギア】はな、公式ゲーム情報やゲーム内で出来る掲示板以外の情報公開ややり取りが禁止されているせいで、どういうモノかが良く分からないゲームなんだ」


 ――え~っと、つまり、どゆこと?


 琥珀の方を少し見たが、彼女も知らないと首を振って答える。


「あ~、つまりだな。他のゲームだと攻略方法とかそのゲームがどんな世界観で物語はどんなんだとか、キャラクターはどういう奴が居るのか、そういった情報のやり取りが完璧に禁止されているせいで、調べようがないのさ。分かっているのは公式ホームページなんかで流されている動画だけだ」


「広告の動画でも「やらなきゃ分からない」って豪語してるほどだからねぇ~」


 あのゲームに関してだけは情報通の樹一が分からないなら、よっぽどなんだな。


「にしても、貴方達ってば【乙女】に【双璧の双子】なぇ。ラッキーだったわね」


 ラッキーって事は当たり、的なことだおるか?


「【双子】は悪戯好きのイジワルで、【乙女】は腹黒で我儘な子達だって聞くわ。彼女達が渡す【加護】はね、かなり良い効果なモノが多いと聞くわ。性格はさっき言った通りだからバッドステータスでとんでもない爆弾を渡されるらしいけど」


 ティフォは力なく机に突っ伏した状態で、声にならない声をあげて嘆く。

 一体どんなバッドステータスなんだろう。

 哀れな奴だな、樹一ってば。同情だけはしてやるよ。

 ふと、シュネーがジト目でオレの事を見ている事に気が付いた。


『な、なにさ、シュネー?』

「そんな顔でティフォナを見てるけどさ、スノーだって【加護】貰ったじゃん」


 ――そういえば、そうだった。

 さっきエフケリアさんが【双子】は悪戯好きでイジワルっていってたっけ。


 ………………ん? いや、まさか~。

 オレは慌ててメニューのモニターを展開させて、ステータス欄を大急ぎで探す。


 ……そんな事ないって、悪戯好きなだけだもん。ちょっと意地悪なだけでしょ?


 どこだどこだ、早くバッドステータスに何て書いてあるか調べないと。


 ――えっと、えと……加護ってどこの欄を見れば良いの?


 ようやく【加護】の欄を見つけて、そのページを開く。


【騎獣の心】騎乗もしくは騎獣に成り得る者達の好感度を上げやすく、好かれやすい。が、バッドステータス――小動物や小さいモンスター、主に効果の持ち主より少しでも小さければ好かれ辛く、相手に無意識に恐怖を与えてしまう。

【補足】簡単に貴方へ近づく事は無く、小さき者達は逃げ出してしまう。


 オレも樹一に続いて、体から力が抜けて机に突っ伏し、上げられない声の代わりにジタバタもがいて暴れる様な事しか出来なかった。


「はっ、だからっ――」


 シュネーが何か言う前に捕まえ、そのまま大きく手をぶんぶん回してやる。


「ぎゃ~~、ギブギブ、理不尽でしょうが~~~~~、放してよ~~~~」


 そんな様子を楽しそうに見て笑いながら、エフケリアさんは店員を呼んで何やら注文をしていた。




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