②
30分程でしょうか、それなりに長い事話をしていた私達は、とうとう座り込んで寛ぎながら話し続けていました。
レーナ、国に着いてから、まさかの彼氏が出来たそうですよ?。
……大丈夫、別に羨ましくなんて無い。でも心が痛いから、のろけ話は聞きたくない。
「そう言えばレーナ、話が途中でしたが、災難な村で何を?」
話を逸らす様に私は言います。
「あぁそうだった! それでね、その村は国にとっても大事な何かを作る場所があるらしくて、村を守る為に地震の発信源を探す任務を言い渡されたんだ」
「一人で?」
「いや、本当は先輩の魔女が二人いたんだけど、国で殺人事件があったらしくてさ、その調査で来れなくなっちゃんだよ」
「……物騒ですね。所で1つ提案なのですが、良いですか?」
「何? エレナさん」
首をかしげるレーナに、私は微笑みながら言います。
「その地震の原因を探る調査、人数を一人増やしてみませんか?」
「はは、エレナさんが居れば一人所の話じゃないよ。……でも良いの?」
私は頷きます。
「村を救えるのなら、喜んで手を貸しますよ!」
「……変わらないね、エレナさんは」
「そこまで時間も経って無いですしね。だけどレーナは大きく変わりましたよ、何と言うか……大人の色気が出てきた……?」
「……そう言われると、ちょっと恥ずかしいな」
もじもじするレーナ、可愛いです。
さてと、協力すると言った訳ですし、そろそろ動き始めましょう。
「レーナ、早速ですが村に案内してください」
「うん、崖っぷちの村だよ!」
ほうほう、崖っぷちですか……。私は周囲を見渡します。
…………。
その村って、ここじゃない?。
私が何を見ているのかに気付いたレーナも、周囲を見渡しながら言います。
「えっと……到着だよ、エレナさん」
「……みたいですね」
はぁ、何だか締まらない感じはしますが、宿を取ってから調査を始める事にしましょう……。
〇
早速宿を取った私達は、魔女の代名詞でもある筈の大きな三角帽子とローブを脱ぎ、かなり涼しい格好で村の中を歩き回りました。
いやね、確かに今は寒い時期ですよ。でも何と言うか……暑いんですよね、この村。
さて、村の中を調査するにあたって、私はまず村の人達に聞き込みを始めました。
「すみません、少しだけお時間をよろしいでしょうか?」
私が話し掛けた相手は、村長っぽい人です。その年季の入った顔のシワは、きっと村の事を長く見て来た証でしょう。
「何じゃい? 露出狂のお嬢さん」
「……随分なご挨拶ですね?」このシワくちゃお婆さんめ。
一応、私はニッコリと笑って見せています。でも横からレーナが小声で「エレナさん、ダークな面が出てるよ」とか言ってきますが、それでも私はニッコニコです。
「だってのぅ……露出が多いじゃろ」
私は自分の格好を確認しました。
白いブラウス、黒いスカート。……別に普通な気がします。
「……もしかしてさ、袖が無いのが駄目なんじゃない?」
「何故? ノースリーブなブラウスは普通に市販品で、変な服ではない筈ですが」
「うぅん……私とエレナさんに服の違いって、それ以外に思いつかなくない?」
「確かに」レーナの服装を見ながら、私は頷きました。
レーナの格好ですが、私と同様に白いブラウスと黒いスカートです。何でも私の事を意識して服装を似せたそうですが、唯一違うのは袖の有無でした。
はてさて、これでどうして私だけが露出狂認定なのでしょう?
…………。
いやいや、こんな下らない事で悩んでいないで、早急に地震の調査を進めないと。もうこの際、私が露出狂だろうと構いません。
「それで? 何が聞きたいんじゃ?」
「あぁ、そうでした。お婆さんは最近、この村の地震が増えた様に感じませんか?」
「そうじゃな、山神様が怒ってるのかもしれんのぅ」
「山神様って?」レーナが聞きます。
「そりゃ、あの山に住む神様の事じゃい」
そう言ってお婆さんが指を向けたのは、活火山でした。神様はともかく、確かに変な魔物が住んでるかのように、時折赤い色をした煙が上がっているのが確認出来ます。
「とりあえず、あの山を調べてみますか」
私達はお婆さんにお礼を言うと、早速山の方に飛んで行くのでした。
因みになんですが、あのお婆さん……村長ではないそうです。村長の隣の家に住む、自称かつて魔法使いだったお婆さんだとか。
さてさて、早速火口に到着した私達ですが、今すぐにでも着ている物を脱ぎ捨てたい程に暑いです。
とは言え私達にも一応の恥じらいはありますし、水魔法でも浴びて我慢する事にしました。
しかしまぁ不思議なもので、さっきまで温かい場所を求めていた筈なのに、今は寒い場所が恋しいです……。
「エレナさーん、まさかとは思うんだけどさ……」レーナが火口を覗き込み、その煙の中を指差して言います。「山神様、この中とか言わないよね?」
「山の神様って言う訳ですし、その中の可能性は高いですよ?」
まぁ本当に神様が居るのなら、ですけどね。
「…………入る気?」レーナが青ざめた顔をしながら聞いてきます。
私は少し悩むと「それは最後にしましょう」と言い、山の周辺を調べる事を提案してみました。それに見た限りでは火口の奥底に神様は居ませんし、きっと地震の原因はもっと別の事でしょう。
私の意見に賛成なのか、レーナ凄い勢いで顔を上下に揺らして頷きました。
それから1時間ほど周囲の探索をした私達ですが、これといって地震の原因になりうるものは見つけられませんでした。
調査の方法は普通で、私が低空飛行しながら山の周囲を回り、レーナは少し高い位置で旋回しながら違和感を探す、という方式を取っていました。
「ふむ、そろそろ火口に飛び込む覚悟をしておいた方が良いですかね」
箒から降りて腰に手を当てた私は、タメ息を吐きながら言いました。
その時です、レーナが大急ぎで私の下に降りて来る姿が見えました。……何か叫んでる気がします。
耳を澄ましてみると、レーナは大声で「エレナさーん! 飛んでー!」と言っています。よく分かりませんが飛んでおきましょう。
しかし私が箒に乗ろうとした瞬間でした、急に地面が揺れた事で体勢を崩した私は、そのまま斜面を転がり落ちてしまいました。
「エレナさん!」レーナがバレルロールしながら急速に私の所まで飛んで来ます。
レーナの伸ばす手をギリギリで掴んだ私は、彼女の後ろに乗って火口から離脱しました。
――ドォォン。
火山が小さく噴火して、私の居た場所は溶岩に飲み込まれました。
もし、この場にレーナが居なかったとしたら、もしかして私……。いや、怖い事を考えるのは止めましょう。
「助かりました、ありがとう」自分の箒に乗り移りながら、私はレーナにお礼を言います。
「気にしないで、エレナさんの役に立てて、私も嬉しいし」
ニコッと綺麗な笑顔を向けるレーナは、とても眩しく見えました。私には勿体無いほど良く出来た弟子です。
「それにしても、よく地震に気付けましたね」
私がそう言うと、レーナは悪だくみをする子供の様な笑みを零しながら、顔を山の方に向けて「犯人を見つけたからね」と言いました。
しかし犯人ですか。山神様じゃないのは分かっていましたが、山の外に犯人が居るのも不思議な話ですよね。……と言うかそれって、外から意図的に地震を起こせてるって事になる訳で、そんな事が出来ちゃったら色々とパワーバランスが崩れる訳で、最悪テロ紛いな地震を起こす輩も出て来る事が容易に想像出来る訳で……。
つまり何が言いたいかと言うと……どちらにせよ放って置くのは悪手だという事です。
このレーナの言う犯人が本当に地震を起こしてるのだとすれば、それは意図的に自然災害を起こせる事になります。
それが原因で死者が溢れ返ろうとも、自然災害をコントロールする悪党が居ると誰も気付きません。はい、完全犯罪。
「エレナさん? ボーっとしてるけど平気?」
どうやら呆けていた様で、近寄ってきたレーナが私の頬をぺチペチと叩いてきました。
そんな彼女の手を払いながら「すみません、ちょっと考え事をしてました」と返して微笑んだ私は、レーナに話の続きを求めます。
しかし駄目ですね、集中し過ぎると周りが見えなくなります。
「えっと、犯人なんだけど、多分人じゃ無いよ。魔物か何かだと思う」
「ほう?」
「ちゃんと確認出来た訳じゃないんだけど……影は大きくなかった」
なるほど、相手が人間じゃないとすれば、私の危機感は杞憂に終わりそうですね。
とは言っても、未だにどうやって外から地震を起こしたのかが分かりません。慎重に接近しましょう。
こうして犯人の居場所が特定出来た私達は、溶岩が落ち着いてから移動を開始するのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます