「……まぁ、この様な感じですかね。それから直ぐに「北風の魔女」になった私は、2年の間は一人で悪党や魔物を殺して回っていました。ですが12歳のある日に力の限界を感じた私は、魔女に弟子入りしようとして色々な人に声を掛けて回ったのです」

 私の昔話を終わらせて、その後の補足説明をしていた私を見て、リディは驚いた表情で固まっていました。

「……聞いた事がありますわ。小さな魔女が、悪人を殺して回っているって。しかもその魔女、二つ名以上の実力を持っていて、最高位の魔女でさえ殺せてしまうんじゃないかって……そう言う噂が立っていましたわ」

「そうですね。ですがその事を知らなかった私は、色々な魔女の元を訪れては門前払いを受けて、誰も修行をつけてくれなかったのです。ですがここで変わり者の魔女こと、レミィ先生の登場です。彼女は何を思ったか、いきなり私を爆撃で吹き飛ばしながら「私が貴女の師になってあげますよ」って言ってきたのです」

 それ以降の事は必要ないと思い、私の話は此処で途切れました。

 外を見てみると、既に子供達は昼食を食べ終わっていて、庭には後片付けをするシスターだけが残っていました。

「……何か食べに行きませんか?」

 私の提案に乗ったリディは、一緒に修道院の入り口前まで来ていました。

「あれ?何処行くの?」ケビンが私のスカートを掴みながら聞いてきました。脱げるから離してください。

「今からちょっとお出かけして来ます。シスターに伝えてもらっても良いですか?」後スカート離してください。

 ケビンは笑いながら返事をして、シスターの居る庭までトタトタと走って行きました。

「そうだ、今の内に話しておきたい事がありますの」真剣な表情のリディが少し声を抑えながら言ってきました。

「……どうしました?」

 私も声を抑えながら、リディに顔を近付けて聞き返しました。

「……貴女がまだ「北風の魔女」だった頃、この少女は裏の魔女じゃないかって話も上がっていたんですのよ。裏の魔女……知っていますわよね?」

「えぇ……確か魔女が貴族の様になる「魔女主義社会」を作ろうとする謎集団ですよね?」

「そうですわ。……わたくし1度、本物の裏の魔女にあった事がありますの。何とか勝つ事は出来たのですが……核戦争前の兵器、銃と言われるものを使ってきましたわ」

「今だに動く銃があったのですか?」

「らしいですわね。で、こんな機会は二度と無いと思って、彼女から裏の魔女の事を沢山聞き出しましたのよ」

「無茶をしますね……。話さない方が良いですよ?、裏の魔女達は情報秘匿の為に自分達の事を話す人を暗殺するって噂じゃないですか」

「構いませんわ。なんせ此処には、老いぼれたシスターとチビ共、後は出来損ないの魔女だけですもの」

「ですが――」

「良いから聞きなさい。大体の事はこの紙に纏めてありますので、後で国に提出しようと思っていますわ。ですがその前に、貴女には話しておきたい事がありまして……」

「……それは?」

「この裏の魔女、どうやら魔女の人数はそこまで多くないみたいですの。大体は裏の魔女創設者のカリスマ性に惹かれて着いて来た一般人で、その者達は電撃の様な物を放つ銃を所持しているそうですわ。そしてこの銃……魔法を強制的に打ち消して、魔女が絶対に死ぬ弾丸を放ってくるんだとか」

「……一応注意はしておきます。ですがリディ、もし本当に裏の魔女が存在するなら危険です、今臨在その事は話さない方が良いです」

「そのつもりですわ。……さて!さっさとお昼を食べて、また決闘をしに行きたいですわねぇ」

 しかし裏の魔女ですか……。何だか嫌な予感がします、このまま何も起きなければ良いのですが……。


 その後、何事も無く近場の屋台でカレーとナンを食べて修道院に戻って来た私達は、シスターが言っていていた例の盗賊みたいな集金者が子供の一人を無理矢理捕まえている所に遭遇しました。

「――っ!」

「ほら婆さん!さっさと金を出せって!」

「……今月の集金は3日前にしただろう!」

「はぁ~?記憶にございませんがぁ~?」

「…………」

「…………」

 話には聞いていましたが……本当に野蛮な連中ですね。同じ人間かと思うと恥ずかしくなってきます。

「まっ、婆さんが金を出したくないなら、このガキは貰ってくぜ」

 そう言って野蛮な連中は子供の手足を縛りあげて、荷車に放り込みました。

「……リディ、私のタイミングに合わせて、奴等を殺さない程度に吹き飛ばしてください」

「エレナ……無茶はお止めなさいな」

「…………」リディの警告を無視した私は、集金者の前まで行くと「その子を離してください。私が代わりに縛られます」と申し出ました。

 流石は野蛮な連中。私がそれなりの年の女の子だと分かると、さっさと子供を逃がして私を縛り上げました。

「ねーちゃん……」

「……行ってください。そしてシスターに、このような野蛮な連中にお金は渡さなくて良いと伝えてください」

 私が笑顔で言うと、子供は頷いてシスターの元に走って行きました。

「お前馬鹿かぁ?」私の顎を持ち上げながら、舐め回す様に全身を見てきたリーダー格の集金者は、鼻で小さく笑うと「お前、死ぬまで遊ばれるぜ?」と脅す様に言ってきました。

「さて……準備は整いました」

「……あ?」

 私の言っている事が理解できない集金者は、三角帽子を没収して「ナメた事言ってんと、この場で殺すぞ……」と言ってきました。やれるものならやって見せてほしいものです……まぁ無理でしょうけど。

 私は指先に魔力を溜めると、風の魔法でかまいたちを作って手足を拘束していたロープを切り、同時に雷の魔法で光を発生させて、私の周りに居た彼等の視界を奪いました。

「リディ!」

 私の声に応えたリディが、風の魔法で彼等を空中に拘束、死なない程度の落雷で失神させて吹き飛ばしました。お見事です、流石は「雷雲の魔女」ですね。

 さて、人間とは人生で1度位、思いっきり格好良くドヤりたい生き物です。私だってそれは例外ではありません。……という事で此処は1つ、リディと共に格好良く決めてみましょう。

「貴方達が何者なのか、それは分かりません」と、私。

「ですが、公的機関の者ではありませんわね」と、リディ。

「まぁ構いません」と、私。

「何はともあれ、修道院の金とチビを奪うって言うのなら……」と、リディ。

「「星屑の魔女」エレネスティナ・フリクセンと」

「「雷雲の魔女」リディアーナ・フリクセンが」

 ほんの一瞬だけ、間を置き、そして。

「「全身全霊を持って、貴方達をぶち転がしますっ!!」」

 修道院のドアの前で杖を構えて立つ私達は、高らかな声で野蛮な集金者達に告げました。

(……決まった!。今のは格好良かったのではないでしょうか!?)

 真剣そのものの表情で、でも心の中ではドヤ顔を決めながら、杖を集金者に向けて立つ私達を見て、彼等も動揺が隠せなくなり、何やら小声で作戦会議をし始めました。

「あ、兄貴!。魔女が出て来るなんて聞いてねぇっすよ!?」

「しかも「星屑」と「雷雲」なんて……並の魔女じゃないですッス!」

 おーい。丸聞こえですよー。

「うっせぇ!怯んでんじゃあねぇよ!。たかが小娘二人だぞ!、さっさと始末しちまえ!」

「そうだな……俺達が公的機関じゃないってバレてるんだ。コイツ等を放って置いたら、俺達は間違い無く牢獄行きだ……。何とかしてコイツ等を消さないと」

「どうやって魔女と戦うってんだよ?」

「そうだな……俺達に魔法は効かないって思わせれば、後は囲んで殴るだけでどうにかなるんじゃね?」

 だからー、丸聞こえですってばー。

「いいじゃんソレ!やってやろうぜ!」

「「おうっ!」」

 ……とりあえず魔法が効かない様に見せる為、踏ん張って私達を怯ませる作戦で来るそうですね。ですが彼等は忘れているのでしょうか?、先程リディの落雷でノビている仲間達の事を。

「……馬鹿ですね」

「えぇ、馬鹿ですわね」

 その後、作戦通りに私達に魔法は効かないアピールをしようとしてきた男性を、私は風魔法で宙擦りにして木に引っ掛け、どうしようもなくなった彼等が再び作戦会議を始めた所に、リディの落雷が炸裂……あっという間に決着が着くのでした。

 とりあえず全員を風魔法で拘束した私達は、国の騎士に連絡して彼等を連行していく姿を見届けた後、近所の誰も住んでいない石造りの屋敷前まで来ていました。

「それにしても、何だか面白い人達でしたね。作戦がダダ漏れでしたし」

「そうですわね」

 心、此処に在らずな返答をするリディ。そもそも彼女は、どうして私を此処に連れて来たのでしょう?。

「エレナ、貴女の二つ名……あれは本当の二つ名なんですの?」

「「星屑の魔女」ですか?。えぇ、本当の事ですが……」

 私は魔女の証であるペンダントをリディに渡して見せました。

 ペンダントの中心には、魔力で作った宝石の様に輝く石が付いています。そしてその石の中には、持ち主の名前と二つ名、歳と魔女になった日付が彫り込まれています。

「……確かに本当の二つ名の様ですね。という事は「流星の魔女」様の弟子と言うのも、嘘では無い」

「えぇ。その様な事で嘘は吐きませんよ」

「…………」

 何かを考え込んで黙るリディ。大切な事なのかと思って黙って待っていたのですが、そんな私に、彼女は杖を向けて来たのです。

「……何のつもりですか?、リディ」

「貴女を倒せば、わたくしは最強の魔女に近付ける。いつか「流星」も超えられる。だから私と決闘なさい!」

「待ってください、私は魔法で誰かを傷付けるつもりはありません。そもそも決闘を受けたとして、私が勝った時のメリットが何も無いです」

「ならわたくしに勝った時に、このペンダントはお返ししますわ!」

 リディの目は本気でした……。本気で私に決闘を挑んで来て、本気で私の命を……。

「……手加減はしませんよ?」

 私はまだ死にたくありません。此処で私が逃げたとしても、間違いなく彼女は私を追撃して来るでしょう。だとしたら、もう戦う以外の選択肢は私にはありませんでした。

「…………」

「…………」

 私達の間を、冷たい風が吹き抜けました。ポツポツと大粒の雨も降って来ました。

 そして空で雷が鳴り響いた次の瞬間、私達の決闘は突然始まるのでした。

 私の放つ各属性の魔法を、リディは箒で飛んで軽々と躱しながら、杖の先端から雷を横薙ぎで払ってきました。

 私は走りながら雷を避け、火の玉をリディの目の前で爆発させました。

 ですがリディは怯む事無く、周囲の瓦礫を魔法で私に飛ばしてきたのです。

 私も応戦する様に、周囲の瓦礫や岩を飛ばして、その全てを相殺させました。

 ですが私の方が多く瓦礫を扱っていた事もあり、空を飛ぶリディの箒に小さな岩をぶつけて、地面に降りさせました。

「……ちぃっ!」

 思った以上に苦戦してる事に、リディは苛立っている様でした。そして彼女の魔法は、その苛立ちに比例して荒々しくなっていきます。

 そんなリディの魔法を身体能力だけで躱しきった私は、箒の柄の部分で彼女の杖を弾き飛ばしました。これでもう高位の高い魔法は使えない筈です。

「槍術!?」

「えぇ。魔女と言えど、魔法が使えない場面は多々あります。その時の為の護身術の一つです!」

 リディは下級魔法で権勢をしつつ、私の様に箒で殴り掛かって来ました。

 私も下級魔法を飛ばして全てを打ち消すと、踏み込んで来たリディの足を箒で引っ掛けて転ばします。

 それでも転ばずに踏ん張って私の方を振り返るリディに、私は箒の柄で胸を突いて追撃しました。

「ぐぁっ!」

 痛みに声を漏らしながらも、リディは懸命に魔法を飛ばしながら私に挑んできました。

 そしていつの間に回収したのでしょう、リディの手には再び杖が戻って来ていて、空へ浮かびながら上級魔法を発動してきたのです。

「これで!消し炭にしますわっ!」

「――っ!!」

 ――ドォォォォォォン。

 大きな雷が私の頭上から落下した直後、その周辺では大きな爆発が起きました。

 焦げて穴の開いた黒い三角帽子が、風に乗って宙に舞い上がり、もう一度落ちて来た落雷で完全に焼き払われてしまいました。

 落雷が直撃した私は、燃えるマントを脱ぎ捨てて、魔力のヴェールで防ぎきれなかった足から血を流し、その場に崩れていました。

 足は単純に電撃で麻痺して動かないだけで、折れてる訳でも腱が切れてる訳でもなさそうです。とは言え、あの様な殺人魔法……何度も受けきれる訳ではありません。

「そろそろ……潮時ですかね」

「まさか下級魔法程度しか防げない筈の魔力のヴェールで、わたくしの上級魔法を防いだのは驚きましたわ。でも、もう終わりにさせて頂きますわね」

「……もう、無理です」

「あらあら、レミィ様の弟子のクセに、随分と諦めが早い――」

「さっさと魔法を放って来たらどうです?。下らない事を言ってると、少しずつ削りますよ?」

 ――バァァン。

「……えっ!?」

 急にリディの箒がバラバラに砕け散りました。

 どうにかバランスを取りながら滑空して降りるリディの帽子も、また急にボロボロに斬り裂かれていきます。

「一体……何が起きているんですの……!?」

「リディには見えませんよね。貴女の箒と帽子を消滅させたの……私の魔法ですよ」

 箒で体を支えながら立ち上がった私は、リディの目を見つめました。

「貴女……魔力で右目の色が青く変色してますわよ?。それに見えない魔法って、一体……」

「リディ、確かに貴女は強いです。だから私にはもう手加減は無理でした」

「…………」

「貴女は強い、それは間違い無いです。ですが、到底レミィ先生や私の足元にも及ばない」

「――っ!!」

 怒ったリディは、雷の中級魔法を大量に飛ばしてきました。ですがその全ては、私の放った雷の初級魔法が打ち消します。

 今度は先程の上級魔法を使おうと、リディは魔力を溜め始めました。私はあえて何もしません、正面からぶつかって、その上で私には絶対に勝てない事を教えてあげるつもりです。

「消え、なさいっ!」

 再び私の上空から、上級魔法の雷が落ちてきました。

 ――バシュゥゥゥゥッ。

「――っ!?!?」

 ですが雷は私に命中する事無く消滅し、代わりに私が放ったリディのと全く同じ雷が、空まで突き抜けていったのです。

「知ってますか?雷って、条件次第では"下から上に落ちる"事もあるのですよ?」

 そう言い放つ私の体の周りには、雷雲が纏わりついていました。

「まさか……わたくしの必殺技を、一度見ただけで真似たというんですの!?」

「必殺技ですか……まぁ確かに高威力でした。ですが言ってしまえば、結局は普通の雷です」

 私は纏わりついている雷雲を払い除け、杖を取り出しました。

「良いですか?一度だけです。今から一度だけ、火と雷の究極魔法を見せてあげます。ですが約束してください、貴女がこの魔法を会得するまで、もう絶対に決闘はしないでください」

「…………」

 小さく頷いたリディは、全力で魔法を防ぐ姿勢を取りました。

「……いきます」

 私が杖を空に向けた瞬間、辺りの風も雨雲も消え去り、ありとあらゆる物体が眩く光り始めたのです。

 そして目が開けられる程度まで光が消えた時、そこには私とリディを残し、それ以外のありとあらゆる物体、木や岩や瓦礫や石造りの屋敷も、何もかもが音も無く消滅していたのです。もちろん、リディには一切の傷を負わせていません。

「なに……これ……?」目を見開いて固まるリディ。

 まぁ無理も無いです。この魔法を使えるのは私を含めて10人足らずなのですから、まず見る事も無いでしょう。

「今のは、上級魔法を遥かに超える……究極魔法と言われるものです」

「究極魔法……」

「そうです。究極魔法には2種類あるのですが、分かりますか?」

 私の質問に、リディは大きく首を横に振りました。

「それは光魔法と闇魔法です。私は闇魔法も一応ですが使えます……まぁ見た目が綺麗では無いので使う事は無いと思いますが」

「…………」相も変わらず驚いた表情のまま固まるリディ。黙っていれば可愛いのですよね、彼女。……まぁ黙っていればですが。

 そんなリディをなるべく置き去りにしない様、私はゆっくりと光と闇の魔法について話し始めました。

「まず光魔法ですが、これは火と雷の究極魔法です。先程言いましたよね?」

「え、えぇ……」

「それで、闇魔法なのですが、これは水と風と土の究極魔法です。効果は……まぁどっちも似た様な物なので、特に気にしなくて平気です」

「似ているんですの?」首をかしげながらリディが聞いてきました。色々と飲み込めたのか、平常心は戻ってきてるみたいですね。

「えぇ、ほぼ一緒です。自分の指定した物以外の全てを消し去る魔法ですから。まぁ光魔法は超高温で燃やし尽くし、闇魔法はバラバラにして元素に戻す……いわゆる高周波みたいな感じです。しかも360度全ての方向から飛んで来ますので、まず回避は諦めた方が良いですね」

「……危険な魔法ですのね」真剣な声でリディが言ってきました。

「そうですね。ただ危険である分、取得難度は異常です」

 まぁ私はレミィ先生と会うより前から光魔法を使えていたのですが、その事は黙っておきましょう。

「……貴女が本気になったら、わたくしに勝機はありませんわね」

 戦う事を諦めたリディは、悔しそうにそっと杖を降ろしました。

 さて、そんなこんなで決闘が終わり、ペンダントも無事返して貰えた私は、リディと共に修道院まで帰るのでした。

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