第8話 恭介君との時間と恭一郎さんとの時間と。

 翌朝早朝に目が覚めた私は急いでいつもの通り恭一郎さんに朝食作りと、お弁当の準備に追われていました。恭一郎さんはまだ出勤はしないものの早めの行動をした方が彼の為だと思って、一生懸命に朝食作りとお弁当を同時進行でやっていた。それにしても恭一郎さんはまだ起きてこないのが不思議で仕方なく寝室に向かうも誰もいなくて、もしかしたらと思ったら案の定恭介君の部屋でこっそり朝の支度の手伝いをしていたのだった。

そんなこんなで出来上がった朝食をテーブルに並べて彼を呼びに行くと、少し疲れ切った様子の恭一郎さん。それにどこか顔色が・・・。

「恭一郎さんご飯出来ましたよ・・・って顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

「あぁ。少し頭痛がするだけであって別に出勤する事に対しては何の支障も無いから安心しろ。今日の朝食、中々おいしそうではないか。」

「あまり無理すると倒れちゃいそうなので心配ですが、そこまで言うなら大丈夫だと思いたいです。一応頭痛薬をバッグの中に入れて置くので、あまりにも酷かったら飲んでくださいね?」

「すまないな。それと今日は恭介の登校日だが今週は手段登校の週らしいから、友達が迎えに来る事があったら宜しく頼むぞ。恐らく下校の時は大丈夫だと思うがあまりにも帰りが遅いとかあったら学校に連絡するか、俺のスマホか学園を通して俺に直ぐに連絡をして欲しい。最近何かと物騒な事が多いからな。」

「分かりました!」

「では行ってくる。」

「行ってらっしゃい、恭一郎さん。」

彼を送り出した後に急いで次の支度にとりかかる。やがて恭介君を起こす時間になったので、恭介君の自室に向かって起こしに行くとベッドの上で体を起こして起きていた。

「おはよう恭介君。何か元気無いけど何かあったの?」

「・・・何でも無いよ。あっ、今日の朝ごはんは何!?」

「今日はハンバーグとサラダよ。」

「わーい!」

何処か元気の無い様子の恭介君だけど私の前ではいつも通りの明るい笑顔を見せてくれて、リビングに向かって駆けて行った。

そして午前8時頃になると恭介君のお友達が迎えに来てくれたので、恭介君を玄関までお見送りした。でも本当に今日のあの子は様子がおかしい・・・。


 一人になった時間を有効に使う為に家事や洗濯を中心にマイペースで取り組んでいると、リビングの机の下から何やらプリントらしき物が落ちていたので拾ってみた。するとそれには恭介君宛ての手紙みたいに見えたがその中身はまさしく酷い物で、いじめに近い様な感覚に捉われてしまった私はこっそりそのプリントを持ちポケットにしまった。でもこんないじめを受けていたのに何で誰にも相談しなかったんだろう。

私はお昼過ぎくらいに恭一郎さんのスマホに、恭介君がもしかしたらいじめに遭ってるかもしれないという内容のLINEをした。数分後にはすぐに恭一郎さんから電話がかかってきた。

『俺だ。さっき書いた内容は本当なのか?その内容ってどんな物だ?』

『偽物の家族。本当の母親でも無い人と暮らしていて、本当は兄貴と暮らしている。気持ち悪い。と書かれていて他にも書いてあるのですが私はもうこれ以上見る事が出来なくて・・・情けない私ですみません。』

『情けない事は無い。いじめの件を知らせてくれてありがとう。そういえば今朝の恭介の様子はどうだった?今の事が事実なら何かしら様子がおかしかっただろ?』

『元気が無かったのですが私が恭介君を起こしに行った瞬間に笑顔になって、いつもの様に振舞っていたのですが私はその時から何かあったのではないかと思っていました。』

『そうか・・・。なら俺が今日は恭介の学校に迎えに行くから学校側に連絡をしておく。』

『でも恭一郎さんはこの時期はお忙しい時期では?私だったらいつでも行けますので私が代わりに行きますよ?』

『お前はさっきの内容を覚えていないのか?・・・信じたくないし信じていないがお前の事を偽物の母親の様に書いてあったのが気に食わない故に、それこそ恭介と結衣に何か被害が及ぶかもしれん。今日は下校時刻に合わせて俺も早めに帰る様にするから、心配しないで夕飯でも作って待っていてくれ。』

『分かりました。気をつけてくださいね!』


 そして夕方になるくらいの頃になって、本当に恭一郎さんが恭介君を連れて帰ってきた。

「恭一郎さん、お帰りなさい!恭介君もお帰り、大変だったでしょう?」

「ただいま。結衣、取り敢えず夕飯食べながら話をしよう。さっき恭介には話をしたし俺も話を聞いたから、改めて本人から話をさせようと思う。」

「分かりました。」

荷物を受け取ってみんなで食卓を楽しんでいると、ふとした瞬間に恭介君が話し始めた。

「さっきお兄ちゃんには話したんだけどもう一回話すね。実は僕学校でいじめられていてずっと辛い思いをしていたんだ。だから本当は集団登校も嫌だし、あの集団登校のメンバーの中には僕をいじめている子がいるんだ。登校中の時にも雨の日には傘を取り上げられて僕をびしょ濡れにさせたり、休み時間にトイレから帰ると僕のノートに暴言が書かれていたりして泣きたくなった時もあった。お弁当も一人で食べるしペアワークも一人でやってる日々がずっと続いていて、僕は本当に嫌だったんだけどその子達にどうやったら良いのか悩んでいて何も復讐が出来ない自分も嫌になって、どうしたら良いのか分からないまま僕は今ここに居るんだ。」

「恭介君・・・なんでそんな言辛い思いをしていたのに相談もしなかったの?」

「僕の家族を馬鹿にされると思ったから。」

「えっ?」

「僕とお兄ちゃんは事実上の兄弟だけど、お兄ちゃんと一緒に居る人は家族でも無いし偽物の母親なんだろって言われたんだ。・・・僕はそうでは無いよって言ったんだけど信じて貰えなかったし、僕はあなたの事を・・・結衣さんの事を実のお母さんだと思っているし何ならお兄ちゃんも本当のお父さんだと思っている。そんなある意味特別な家族を僕のせいで台無しにされたくないんだ。」

「恭介はお前の事を例え本当の母親ではなくても本当の母親だって言ってた。そして俺もお兄ちゃんでもあり父親だと言ってた。俺はそんな弟を持てて幸せだ。」

恭介君がそんな風に私の事を思ってくれていたなんて思いもしなかったけど、そこまで思っていてくれたなら私もそれに応えるためにも、今直ぐに学校と連携してこの事件を解決させないと!

「恭介君、明日から学校お休みしよう?このまま辛いのは嫌だと思うし、何よりこのままだと恭介君自身が壊れちゃうかもしれない。私が・・・お母さんが学校と協力していつか恭介君を学校に行かせてあげられる様にするから、それまでは一緒に家でお母さんと居よう?」

「授業遅れちゃうし着いていけなくなっちゃう。それにもしも進級出来なかったら僕はもう一生恥ずかしいし、学校だって辞めないといけなくなっちゃうかもしれない!」

「大丈夫。お母さんがそんな事にはさせないし、恭一郎さんもどうにかして一緒に助けるから安心して。」

すると恭介君は初めて私の腕の中で泣きだした。そしてその姿に動揺したのか恭一郎さんも優しく恭介君を抱きしめ、私も一緒にさり気なく恭介君を抱きしめたのだった。


 翌朝恭一郎さんは珍しく朝早い時間からリビングに居たので、何事かと思って様子を覗くとなんと恭介君用の手作りドリルを作成していた。流石数学教師とだけあって算数の問題を書き出し、しっかり解説も添えて分かり易い様に書いてあった。

「結衣、そこに居るのなら朝の紅茶でも出したらどうだ。」

「分かっていたなら声を掛けてくださいよ・・・。今紅茶を用意しますので待っていてください。それにしても恭一郎さんは数学教師なので算数とかはどうやって書くのかなと思っていたのですが、数学と変わらない解説で算数の問題を作っているんですね。」

「数学教師である以上しっかり教育しないといけないし、算数も教えられない俺だったら教師にもなっていなかっただろうな。それに俺は仕事の量にもよるが帰りが遅くなってしまって恭介との時間もまともに作れていない処か、結衣との時間も恐らく作れていないと思う。しかも恭介に至っては今のこの辛い状況下で、少しでも勉強をもっと楽しんでもらいたいしせめてもの俺からの・・・兄としても父親としての出来る事だ。」

私はそれ以上何も言えなかった。別に何か彼にとって悪い様な事は言っていない気がするけど、彼なりの考えを私が曲げる事は出来ないからだ。そして恭一郎さんはいつも通りの8時過ぎに家を出て、その頃には恭介君が起きて来たので朝食も作り終えていた私は一緒にご飯を食べる事にした。

「おはよう、恭介君。実はさっきお父さんが恭介君用にドリルを作っていたから、朝食を食べたら一緒にやってみようか!」

「お兄ちゃん・・・お父さんが作ってくれたの?」

「うん。恭一郎さんは家でも恭介君が勉強出来る様にって手作りで作っていて、朝早い時間から問題も解説も書いていたんだよ?」

「そうなんだ!じゃあ勉強しないと!でももうすぐあの子達が僕の家に来て登校の誘いに来る時間だから、僕今凄く怖いの。」

「大丈夫だよ。お母さんが追い返してちゃんと守ってあげるから、その間にでも問題を解いておいてね。」

こうして少し我が家には大問題が起きているけど、私と恭一郎さんとの絆が今ここで試される時でもあり例え本当の家族ではなくても、私に出来る事は母親としてしっかり恭介君を守ってあげる事だと自覚を改めて持った。

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