第5話 やっと芽生えた専業主婦感

 発熱をしてから数週間が経過し、すっかり熱も下がって復活した頃には恭一郎さんもいつも通りに出勤してくれる様になりました。そして弟さんも今となっては偶に私達の家に遊びに来る様になり、小学生さながらの元気さを見せてくれるようになりました。

そんなある日の夕方、恭一郎さんが帰宅してくると早速家事に取り掛かろうとしている彼を見て私は急いでキッチンに走った。

「結衣、もう体調は大丈夫なのか?まだ悪いようなら俺が今日も家事をするつもりだが。」

「もう大丈夫です!熱も無いですし、特に体の調子が悪いとかでは無いので。」

すると恭一郎さんが私をギュッと抱きしめてきた。

「なら良いのだが、俺も正直凄く心配だった。藤城学園で生活していた頃のお前は滅多に体調を崩す事は無かったのに、今となっては回数こそ少ないが体調を崩す事もある。俺は結衣が体調を崩している間、勤務している時も帰り途中でもずっと心配だった。」

「心配かけてすみません。でも私は専業主婦をやらせてもらっている立場なのに、こんな事で御心配を掛けるようなら自分で何もかもした方が良いのではと思ったんです。この家の財産は全て今まで恭一郎さんが働いてくれた分しかなくて、私は専業主婦だから特に仕事に出れる訳でも無いので、全て何もかも恭一郎さんにご迷惑や負担を掛けてしまっているのではないかと思ってしまって。」

「結衣は結衣らしく自分のやる事をやればいい。俺は教師で結衣は俺の妻でもあり専業主婦。それぞれやるべき事があるのではないか?」

それでも少しでも貢献したいのに。そんな思いを抱えて私は晩御飯を作り上げて二人で食事をした。恭一郎さんは何かと私の事を考えてくれていつも傍に居てくれるけど、私はその代わりに何も出来ていないのがいつも心の中で引っ掛かっていた。専業主婦でも旦那の事を支えるのは当たり前なのかもしれないのに、これだとまるでただの居候みたいな存在になっているのではないかと思ってしまう。

「結衣、お風呂に行ってくる。」

「あ、はい!」

「洗濯物は俺があらかたやっておくから今日はもう休め。明日も俺は朝早いから結衣も早く起きるだろうし、あまり夜更かしは良くないぞ。」


 翌日の朝になり私は急いで朝の支度を始めた。恭一郎さんが起きる前に朝ご飯の支度とお弁当を作り、それが終わったら洗濯物をしないといけないからだ。でもそれだけ早めにしても恭一郎さんは起きてきてしまうのだった。

「おはよう。・・・相変わらず朝から忙しそうだが大丈夫か?」

「おはようございます。これくらい朝飯前なので気にしないでください。もう朝食出来ているので食べちゃってください!私はこれから洗濯や掃除をしないといけないのであまり恭一郎さんにはお構いは出来ませんが、ゆっくりしていってしっかり出勤に備えてくださいね。」

「分かった。」

そして私は朝食を抜いて洗濯を始めた。ここの所あまり洗濯が追い付いていなかったから少し溜まっているので量が多くて困っている。それに掃除だって家が広いという事もあり中々細かい所も出来ないのが欠点だが、だからと言ってお掃除ロボットに頼りきる訳にはいかなかった。恭一郎さんの為に何でも熟して恭一郎さんが住みやすい環境にするのが私の務めでもあるのだから。

「では行ってくる。今日は会議があるから帰りが遅くなるかもしれん。でも遅くまで俺の帰りを待たなくても良いから早めに休めよ?」

「分かりました。会議頑張ってくださいね。それから藤城学園の先生方にもよろしくお伝えください。仲良かった先生方もいらっしゃると思うので。」

「気が向いたらな。・・・それといつも専業主婦してくれてありがとな。俺は結衣が頑張っている事自体は否定しないし俺も何かあれば手伝う。だから何もかも背負い込むな。」

「分かりました!」

その時私の中での専業主婦感のイメージは大きく変わった。少しくらい弱音は居ても良いし恭一郎さんに頼るのも悪くないんだ。今まで専業主婦という事に関して自分なりの考えしか持たなかったけど、こうして他の人の意見も取り入れるのも悪くないかもしれないと思った一日なのでした。

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