第4話 熱日和と看病日和

 私が熱を出してしまってからというもの、恭一郎さんは出勤の時間ぎりぎりまで看病してくれて出掛ける時はいつも手の甲にキスをしてくれた。そして私は今日も一日ベッドの上でずっと寝込んでいるだけで、本当に家事もしないままの所謂引き籠りの様な感覚になっていた。恭一郎さんが居ない生活でしかも家に一人でいるのは何だか寂しくなってしまった。何で自分はこんなに体調が良くないのだろうと反省していると、私のスマホが鳴り誰からだろうと思って画面を見ると恭一郎さんの母親からだった。

『もしもし、結衣さんかしら?』

『お義母さん、一体どうなされたのですか?というか私の連絡先はどの様にして入手されたのですか!?』

『恭一郎のスマホを覗き見ておいたのよ。そんな事より結衣さん、あなた最近私達の実家に顔を出しに来ないけど何かあったのかしら?』

『すみません、私今熱を出してしまいまして動けないんです。回復したらすぐにお伺いするので、少し待っていただけませんか?』

『まぁ、何で大事な時にこの様な事を!』

『大事な時とは・・・一体何があったというのですか?』

『実はお父さんが倒れちゃって私では手に負えなくてねぇ?恭一郎は仕事だろうし頼れるのはあなたしかいないのよ!なのに体調不良だなんてなんて嫁なの!?』

『お義父さんが!?・・・分かりました、少し遠いかもしれませんがすぐに向かいますので待っていてください!』

電話を切って直ぐに私は解熱剤等の薬とスマホと救急用のセットとカギを持って家を出た。恭一郎さんは今藤城学園で勤務中だから繋がらないだろうから、後で事情を説明する事にした。


 こうして私は重い体とふらつく意識の中急いで電車やタクシーを乗り継ぎ、数時間かけて恭一郎さんの実家に到着した。急いで玄関に向かいチャイムを鳴らした。するとお義母さんが出て来てくれて私を迎えるなり、私にありえないことを要求してきた。

「結衣さん、やっと来てくれたのね。」

「遅くなり申し訳ございません。お義父さんの様子は如何ですか?悪化しているのが酷ければ救急車呼びますけど。」

「お父さん?お父さんなら元気よ?」

「えっ、でもさっき倒られたって仰っていたではないですか!」

「あれは嘘よ。結衣さんが本当に熱なのかを確かめる為に、お父さんの体調を利用させてもらっただけ。」

「そんな!」

「そしてすぐにここに来れたという事は、結衣さんの熱は仮病だったという事ね!じゃあ悪いけど早速家事をお願いしても良いかしら?近くのスーパーでお買い物をしてきて欲しいのと、買ってきた食材で昼食と夕食を作って欲しいのよ。」

「私本当に具合が悪いんです!そんなことしたら倒れちゃいます!」

「姑に逆らうなら恭一郎とは離婚させますわよ?・・・まぁ、結婚式の際に両親が来なかった非常識の女なんかと結婚させた私もどうかしてるけど。」

私はそれ以上何も言えなくなり家を飛び出してスーパーに買い物に出かけた。私が何も出来なくて姑である恭一郎さんのお義母さんをがっかりさせたら、本当に離婚させられてしまうかもしれない。そして私は昼食は素麺にして夕食は冷やし中華にしようと考えたので、急いで食材を買い占めて恭一郎さんの実家に戻ってきた。

「ただいま戻りました。」

「何を作るか知らないけどさっさと始めて頂戴。私はもうお腹空いているのよ!」

「はい。」

私は台所を借りて素麺を作り始めた。そういえば恭一郎さんはお義母さんと私のことを心配していたけど、もしかしたら今から起こる事を予想しての事だったのかな?

数時間後、やっとお昼ごはんが完成したのでお義父さんもお義母さんも呼んで皆で食べるようとした時だった。

「あら結衣さん、あなた何で一緒に食べようとしているの?」

「えっ、私もお腹が空いたので一緒に食べようかなと思ったのですが。」

「そんなのダメに決まっているでしょう!あなたは私達に食事を作るのが義務なんだから、あなたが食べたら意味ないじゃない?しょうがないから私達が食べている間に、庭の掃除でもしていて頂戴。いくら非常識のあなたでもそれくらいの事は出来るでしょう?」

「分かりました。」

私は黙って庭の掃除を始めたけど、段々空腹が酷くなり意識も朦朧とし始めて気が付いたらその場に倒れこんでしまった。


 目を覚ました時には布団の上に居て私は思わず飛び起きた。急いで庭の掃除をしないとと思って体を起こすが、思い通り動けずにまたその場に倒れてしまった。何とか動いてリビングに行こうとした時、恭一郎さんとお母さんの言い合いの声が聞こえてきた。

「なぜ結衣を騙してこんな無茶をさせたんだ!そもそも結衣は少し前から熱で動けない状態だったのにも関わらず、親父が倒れたと嘘をつき実家に呼び挙句の果てには昼食を作らせて、食べさせないで庭の掃除をするように言いつけるとは一体どういう神経をしているんだ!」

「仕方ないじゃない。だって結衣さんは恭一郎との結婚式の時に結衣さん側の御両親が参列しなかったし、その事を私たちに伝えていなかったという非常識な事をしたのよ?そんな非常識な女には家事をやらせて当たり前で、ご飯も食べさせないのが当たり前なのよ。」

「俺が家に来た時に結衣が居なかったからもしかしてと思って実家に来たから結衣を救出できたから良いが、そうじゃなかったら結衣の事をどうするつもりだったんだ!」

「そんなの放置するにきまってるじゃない。」

「とにかく今回の件でおふくろとは縁を切らせてもらう!もうこれ以上結衣を危険な目に合わせる訳にはいかないし、結衣だってダメージを負いたくないだろうからな。」

「恭一郎!?あなたは真山家の長男だし後継ぎだってまだ居ないのに、縁を切ったらいろいろと困る事だってあるのよ!?」

「俺には弟が居るだろ?弟に何もかも任せるつもりはないから俺も支援はするが、おふくろに関しては一切の支援はしない。親父には支援をするつもりだし縁を切るつもりは一切ないから、もしもこの事がバレたら離婚するかはともかくとして別居は確定だろうな。」

私は思わず恭一郎さんのお義母さんの前に立ちはだかった。いくらなんでも私を騙して陥れようとした事に対して、今しか言えないはっきりとした事を言おうと思ったのだ。

「お義母さん。」

「結衣!?体調は大丈夫か?」

「恭一郎さん、心配かけてごめんなさい。今から私は恭一郎さんのお義母さんに言いたい事があるので、少しだけ待っててもらえますか?」

「分かった。」

そして私は大きく深呼吸して話し始めた。

「私はお義母さんと少しでも仲良くなりたいと心から思っていました。それは私達の結婚式の際に私の両親が居ないという御無礼な事をしてしまった時から、せめて何かお義母さんの役に立つ様な事をして嫌われながらでも良いので、少しでも距離を縮めたいと思ったからです。なので今回の件に関しては本当にお義父さんが倒られたのではないかと思って体調不良でも駆け付けたのに、まさかそれがお義母さんの私に対する裏切り行為だった事には大変ショックでした。私はあなたと一緒に仲良くなれるかもしれないと思っていたのに、この様な結果になるとは思いもしませんでした。・・・このような事が無ければもしも私達に子供が出来た際には、お義母さんとお義父さんにお見せしようと思いましたがお義父さんにしかお見せ出来ないのも残念です。短い間でしたがありがとうございました。」

恭一郎さんのお義母さんはその場で泣き崩れてしまい恭一郎さんにどうにかして復縁出来ないかと言って居たけど、勿論そんな事がある筈も無くきっぱりと恭一郎さんは自分の母親との縁を切った。それと同時にお義父さんも別居する事を決めたらしく、お義母さんは一人ぼっちになってしまった。恭一郎さんの弟さんはまだ小学生という事もあり、私達の家で引き取る事にしたので3人家族としての生活が始まろうとしていた。そして私は高熱が悪化してしまった事もあり恭一郎さん協力の下で、お義母さんから治療費と病院代を請求する事に成功。多分もう暫くは恭一郎さんと弟君に付きっ切りで看病させてしまう事になりそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る