第42話 交渉
オーバン達に話を付けた直後にアリエル達はオラリアンの王城へと戻って来ていた。ただオーバン達を城へと入れるわけにはいかず、黒龍に殺さない程度に遊んでやれと言い残し草原において来た。何かお願いごとがありそうであったウリエルも必ず言うことを聞けと念を押して帰って行った。
アリエルとティアナは廊下を走り、一室に飛び込んだ。
「シュリル! いるか!?」
「ひゃあ!」
「ん?」
ウリエルが転移させたものだろうか、身に覚えのあるメイド達に囲まれ、両腕を広げて白い背中がこちらに向いている。近くの台の上には蒼いドレスが置かれている。
メイド達はアリエル達を見て少々驚きを見せている。
「ノックをしてください! 早く閉めて!!」
「悪い」
シュリルが顔を真っ赤にして怒鳴ってくる様子に慌てて扉を閉めた。
そして近くのテーブルの上に置いてあったグラスを取り陶器のケトルを持ちグラスに水を注ぐと一気に飲みほした。
「なぜドレスなんか着るんだ??」
「陛下から夜会にご紹介されているじゃありませんか!!」
「ああ。それか。断ればいいんじゃないか? 面倒くさいし」
「そういうわけにはいきません。親書の内容お話ししたじゃありませんか」
「そうか。頑張れよ」
あまりに他人事みたいな言葉にシュリルは顔をしかめる。
アリエルは参加しない前提でおり、ティアナもそれにつられるように参加しないと言っていた。
本来であれはアリエルとティアナが夜会に出席しなければいけないのだが、今回ばかりはアリエルのわがままをすんなり認めていた。
親書の内容はペルセリカとオラリアンの過去のいざこざを忘れ、不可侵を約束してお互いの危機については助け合うという重大なものであった。だがアリエルの王子とティアナを会わせてもいいのかという問いに、シュリルは納得せざるを得なかったのだ。
「今日は夜まで街を見るとおっしゃってましたが、何かありましたか?」
「例の獣人達の件で頼みがある」
「何でしょうか。やはりお咎めなしでは不服でしたか?」
「あいつらをペルセリカの騎士にする」
鏡越しにアリエルを見ていたシュリルは振り返る。
「はい?」
「あいつらをペルセリカの騎士にする」
「聞こえています! 正気ですか? そんなもの認められる訳ありません」
「認めるもなにも第二王女として私が決めた事だ。従え」
真剣な眼差しを向けてくるアリエルにため息を漏らすと、再び鏡に向かい合う。
「これのどこがお願いですか……」
「お願いはここからだ……あいつらを父上から守ってやってほしい。父上が落ち着くまで……」
「本当に……もう少し後先考えてから行動してください。自業自得ではありませんか。ご自分で何とかしてください」
「そこを何とか頼む! お前しか頼める奴がいないんだ!」
両手を合わせて頭を下げるが、シュリルは無視して何も口に出さない。
アプトランでは激昂したフェルバートが出兵を命じ、それを騎士団長のダニエルとランファニアが必死に止めている状況らしい。
シュリルの任務はアリエルを止める事と一刻も早くオラリアンと友好的な関係を結ぶ事。
今回の事はあくまでアリエルが企んだことであるため、まだ解決策はある。
良い報告さえ持ち帰ることができれば、娘達を巻き込んだオラリアンへの怒りに勝る結果で有れば間違いなくフェルバートは止まる。
「……私に守りきれるとお思いですか?」
「お前ならできる。私とティアを使っても構わん。私にできることであればなんでもやる」
数年前のあわや開戦とは比較にならないほどフェルバートの怒りは燃え上がっている。
そんな状況でアリエルの提案は火に油をぶっかけて消火しろと言っているようなものだ。
「なんでも……ですか?」
「ああ」
「ならお二人とも私と共に夜会に出席してください」
「は?」
「あたしは構わないわよ。エルが出るのなら」
「どうして私がそんな面倒くさいことしなければならない」
「何でもするとおっしゃったじゃありませんか。それにフェルバート様もお二人がこの国を気に入ったという事が分かれば怒りを鎮めてくださるやもしれません」
「なるほど。そっちについても協力しろということか」
「そもそもこれはお二人のお仕事ですよ。時間がないし、こちらが有利な今を壊す訳にはいかないから手伝うまでです」
親書の内容を見たの反応は悪くなかった。ペルセリカを襲った黒龍のようにあちこちで魔獣の被害が多発しているらしい。
取り決めを結ぶ事は難しくはないだろう。ただ問題は時間がないという事。
「分かった。この国をペルセリカに従属させればいいんだな。簡単だ。任せろ」
「違います! 友好関係を結んでください! ちなみに一人でも夜会に参加している人に不快に思われるような言動を取った場合。フェルバート様の怒りを収めるためにあの者たちを使います」
「な!?」
「本来であれば極刑に処すのが妥当な処置です。でも幸い演技の練習はされたのでしょう? 」
「あれか……」
魔道具や荷物は酒場の店主に預けてから動いたため、その後のことを根掘り葉掘り説教を受けながらに聞かれ、オーバン達を油断させるために気弱な妹を演じたこともティアナが嬉しそうに話していた。
「従属、いや、この都の占領でまけてくれないか……?」
「譲歩になっていませんよ……」
丁度着替えが終わり、シュリルは立ち上がり椅子を鏡の前へと運ぶ。
「こちらへ」
手招きされるのを嫌そうに固まっていると、手を引っ張られて椅子へと座らされた。
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