第35話 旅立ち
翌朝、アリエルの元にはランファニアにお願いしていた杖の代替になる魔石を組み込んだ手袋が届けられていた。
「ご苦労だったな」
「いえ。外交の道中のご無事でお祈りしております! 失礼いたします!」
出て行く兵士を確認しながら手袋を手に取りくるくるとまわし一通り見回す。
「外交? ハッ! 何言ってるんだ、ただの手紙を渡すだけのおつかいだろ」
バッグの中に手袋を突っ込み肩にかけ、剣を腰につけた。
「さてと……いくぞクロ」
「もう行くのか。ティアナは待たなくてよいのか?」
「なぜ私があいつとまた仲良く旅しなくちゃならんのだ。私のことを散々言っていたが、私にだって言いたいことは山のようにあるぞ」
廊下を確認するとそのままテラスの扉を開け放った。
黒龍がアリエルの肩からテラスの床に下りると巨大化してもとの大きさへと戻る。それを見るやアリエルはその背中に飛び乗った。
黒龍は大きな翼を羽ばたき、テラスから空へと舞い上がる。
空は雲ひとつない青空、旅立には申し分ない。
晴れやかな笑顔を浮かべるアリエル。
だが唐突に頭上から紅葉色の閃光が降ってくると黒龍を庭園へと叩き落した。
翼を出して地面に着地すると、黒龍が墜落したクレータを覗き込む。
「クロ!」
「大丈夫よ。手加減したから。気を失ってるだけよ」
クレーターの底から吊り上げた目を向けてくる猫耳天使が肩乗りサイズに戻った黒龍を掴み、坂を上ってくる。
「これはどういうことかしら」
「お前こそどういうつもりだ! 殺す気か!」
「あたしを連れて行かないのならあんただけこの街に残る選択肢もあるのよ」
「うっ……分かった好きにしろ」
「それとほら、パパから預かってきたわ」
片手に黒龍もう片方には手紙の束を手渡してくる。
「待て、親書って一通じゃないのか!!」
「パパの話聞いていなかったの? 周辺諸国って言ったじゃない!」
「面倒な……。まぁいい。さっさと行くぞ。誰かさんが盛大に大穴空けてくれたおかげで、兵たちが集ってくるからな」
「そうだ。これ着なさい」
ティアナは手に持っていたローブをアリエルに着せると、黒龍を取り、フードの中へと入れる。
「うん。なかなか似合うわね」
「重いんだが……」
「あんたの使い魔でしょうが」
「誰がやったんだ……」
アリエルが歩き始めようとした時、城のバルコニーの一角が目に入った。
そこにはフェルバートとセリーヌがこちらを見て、セリーヌは笑みで手を振り、フェルバートはテラスの手すりにしがみ付き号泣していた。
手を振りながら城の裏口から出て行く。
そしてそのまま街の外門に向けて歩き出した。
「これからどうするの?」
「まずは一番近い国だな」
「まさか歩いていく気?」
「そんなわけないだろ。本当はクロに乗せてもらっていくつもりだったんだがな。誰かさんのせいでこのざまだからな。回復するまでは馬車とかを乗り継ぎだな」
「うぇ。またあのお尻が痛くなる物に乗らなきゃいけないの?」
「誰のせいだと思っている、少しは後のことも考えてから動け!」
「あっあんたに言われたくないわよ!」
街の大通りのど真ん中で言い争いを始める2人を見て、通行人が集ってくる。
だが通行人たちは2人の顔を見て驚き少し遠巻きに見守り始めた。
二人が周りの様子に気がつき言い争いをやめると歓声が巻き起こった。
「なんだ?」
「やっぱりアリエル様とティアナ様だ!!」
「聞きましたよ! 黒龍を倒して眷族にするなんて信じられません」
あっという間にもみくちゃにされ、体を揺すられ続けているとアリエルの顔が青ざめていく。
「酔った。もうだめだ……吹っ飛ばすか……」
「ちょっやめなさい」
「なんだこれは?」
「クロ、目が覚めたか? 怪我はないか? 飛べるか?」
「ああ。問題はない」
黒龍が少しだけ浮き上がると大きさが膨れ上がった。
群がっていた人達は降りてくるその黒き巨体に恐れ、大通りの端と端にまで下がっていく。
羽ばたきの風圧が更に人々を下がらせた。
アリエルはその黒龍へと飛び乗ると首筋を叩き上昇を促す。
羽ばたきで風圧が下方に流れる。
「あっ、ちょっと!」
ティアナは慌てて飛び乗るとアリエルは顔をしかめる。
「あたしを置いていくつもり」
「少なくとも連れていきたくはないな」
アリエルは黒龍の首をしっかりと持つと
「クロ。急上昇しろ! 振り落とせ」
「ちょっやめなさい!」
「はははっ残念だったな。忌々しい呪いは私にしか効果はない」
一直線に直上に上昇していくのをティアナは黒龍の体にへばりつき耐えながら上へと昇る。そしてアリエルの足を掴む。
「離せ! さっさと落ちろ」
アリエルは足でぐいぐいとティアナの頭を押す。
「もう付き合ってられん……」
黒龍は上昇を止めて滑空する。
黒龍の背の上でもみ合いながら、街の上空を滑空してあっという間に地平線の向こうへと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます