第30話 宮廷魔道士長と大賢者

城の敷地内にある闘技場。

騎士団が管理し、いつもは騎士たちが訓練に勤しんでいるが今はその姿はない。

上部は観覧できるように席が設けられ、そこには王と先程部屋の中にいた面々。下部のフィールドにはアリエルとランファニアが向かい合っている。


アリエルは目の前でやる気になっているランファニアを面倒臭そうに見た後に、上部へと目を向けた。

アリエル達が城に戻ってくるまでに話したことはアリエルとティアナのことだけではなかった。ウリエルはランファニアに弟子のユリアを要求し、ランファニアはそれを一蹴していた。


いつのまにか決闘の報酬にアリエル達の今後のみではなくユリアがどちらの弟子になるのか、ということまで含まれていた。


「うまく利用されているんじゃないか……」


話の流れで気がついたらここにいることに憤る。そして達が悪いことにアリエルには戦う以外に選択肢はない。


「不服そうだね〜。王と王妃には申し訳ないけど、単純に私としては楽しみなんだけどね」

「そうか。とはいえ負けてやる気はないがな。とある世界で魔道の頂点に君臨した魔道士の力を見せてやろう」

「それは楽しみだね」

「クロ、離れてろ」


アリエルは杖を抜くと構える。

黒龍はアリエルの肩から離れて、ふわふわと飛んで一番最前列から下に降りた、ウリエルの肩に止まった。


「それじゃ始めるぞ。このコインが地面に置いたら開始でいいか?」

「ああ」


ウリエルが指でコインを弾いた。コインは高く舞い上がり、弧を描きながら2人の間へと落ちた。


魔力の光が2人から溢れて渦を巻く。フィールドの土を巻き上げ、風が吹き荒れる。

そしてその光は2人の体の周りに収束すると風が吹き止んだ。


お互いの正面に魔方陣が現れ、金色と漆黒の光が交差する。魔力同士がぶつかり合うのに伴い、衝撃波が生まれ、ウリエルは再び上に戻ると障壁を貼る。


「すごい……」

「うん……」


ユリアは中央の2人を食い入るように見つめる。その横にはミーシャがいる。

アリエルとランファニアの決闘が決まったと同時にウリエルが迎えに行って連れてきていた。


「あの婦人もなかなかやる。魔力量は互角といたところか。2人ともしっかり見ておきなよ。あいつはあれでも若干12歳で大賢者と呼ばれた神童だ」

「でもそれは天使の力が大きいんじゃないですか?」


ティアナの問いかけに笑みを浮かべ


「ふっ、その時はまだ天使の力はまったく覚醒していなかったんだがな」

「えっ」

「どうやら始めるみたいだ」


魔力弾を打ち合いながら、アリエルは手を前に出した。前方に展開している魔法陣に重なるように出現すると巨大な氷の塊が放たれた。


ランファニアが地面をつま先で軽く叩くと、漆黒の壁が姿を現し、氷を防いだ。

だがその瞬間目を見開いた。

ランファニアの周りを囲むように魔法陣が5つ浮かんでいる。


「トゥインクル・ライトニング」


純白の雷撃が全方位から襲い、ランファニアは後ろに飛び退いた。

飛び退いた先の地面には魔法陣が既に浮かび上がっている。ランファニアはアリエルの周りを走りながら魔法を繰り出し、アリエルは一切動かずに魔法を無数の魔力弾で相殺しながら魔法を繰り出していく。


その様子をティアナとウリエル以外、驚きを露わにして見守る。


「ランファニア様が……こうも押されるなんて……」


ユリアがフィールドを見つめたまま呟く。


「確かにあの婦人は強い。恐らくこの世界屈指の魔道士だろうな。魔力の量も正確には馬鹿弟子より高い」

「それなら何故……」

「君は魔道士の強さはなんだと思う?」


突然の問いかけにユリアは首を傾げる。


「魔法の知識と魔力でしょうか……?」

「半分正解といったところだな。もしも仲間がいる前提の戦いを想定した場合は完璧な正解だが一対一の戦いは違う」

「あ……」

「基本的に魔道士は一対一の戦いに弱い。一撃の重さであれば剣士の比じゃないだろうが、捨て身で迫られればどうしようもない」


ユリアは下で戦う二人を見て口を開く。


「魔法詠唱の速度……ですか」

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