第25話 修行の場
王都アプトランの東側には森が広がっている。
西側は魔獣の生息地となっており、地元の者も近寄ることはないが、東側の森には湖や遺跡が点在に子供達の遊び場にもなっている。
そんな遺跡の一つ。
最下層にある祭壇には1人の茶髪の少女が座禅を組み目を閉じている。膝の上には杖を置き、添えられている手には薄っすらと光が灯っている。
一定の間隔で光は薄く地面を奔り、そして光が花びらのように地面から舞い上がる。
「悪くない」
「っほわぁ!!」
何の前触れもなく真後ろから聞こえてくる声に少女の体は飛び上がった。
後ろには桃色の髪の少女が両足を抱え込む形で座っていた。
「アリエル様……いつから」
「20分ぐらい前かな、集中していたから邪魔したら悪いと思ってな」
「どうしてここが?」
遺跡はここだけではない。祭壇がある遺跡だけでも広大な森に数十はある。
「こんなでかい魔力を発していたら、誰でも分かるぞ」
「ところで……その羽はティアナ様に作ってもらったんですか? アリエル様もそういうの好きなんですね」
「なっ好きではない! 私はこんな羽つけて出歩く趣味はない! 私の魔力でできている羽だ! 邪魔しないからさっさと続けろ!」
「はぁ……」
顔を真っ赤にして怒るのを見ると再び座り、目を閉じた。
集中するが後ろで僅かにする物音が気になるのか、ユリアの眉がピクピク動く。
後ろではアリエルが翼を羽ばたかせたり引っ張ったりしている。昨日までは計4枚だった翼がなぜ6枚になっているのか考えていた。
「あの……アリエル様」
「ああ。すまない。静かにする」
再び足を抱え込むように座ると顔を伏せた。
そのまましばらく考え込んでいると。
「ひゃっあ!」
翼を誰かに掴まれて思わず声を上げた。
「アリエル様やっと追いつきましたよぉ」
振り返るとミーシャが幸せそうに翼を頬ずりしている。
「ふわふわだぁ」
「やめろっ、ばか……」
翼を触られてアリエルは地面にうずくまりピクピクと体を震わす。
それを見てミーシャは笑みを浮かべた。
「あれれ。アリエル様どうしたんですかぁ? 翼も感覚あるんですねぇ」
楽しそうに翼を触り続けるミーシャだが、その後ろではティアナの顔が引きつっている。
「ミーシャ……あんたそんな性格だったっけ……」
ミーシャは片側三枚の翼を抱え込むように抱きしめると、根元付近を咥えた。
小さな悲鳴と共に翼が大きく浮かび上がり、ミーシャの体は翼に跳ね上げられ、前方に向かって吹き飛ばされた。
飛んで行った先には、ティアナと同じように呆気に取られていたユリアがいたが、その直前にユリアが張った障壁にぶつかり、地面へと落ちた。
「あ……ごめん。ミーシャ大丈夫?」
「いたた。油断した。大丈夫だよお姉――っ」
頭を擦りながら見上げていたが、首元に冷たい金属の感覚。視線を落とすと剣が首元を通って、後ろからは殺気を感じていた。
後ろを振り返ると、アリエルが顔を真っ赤にして目に涙を貯めて顔を曇らせている。
「おい。言い残すことはあるか?」
「ひっ」
「ちょっと! やめなさい!」
だが後ろからティアナに羽交い絞めにされ離される。
「離せ! 馬鹿! こんな屈辱ゆるせるものか!」
「分かったわ」
両腕が自由になった瞬間、ミーシャ目掛け突っ込んでいこうとするが今度は首に腕が通って固められる。
「おいっ……やめ……」
一瞬で体から力が抜け、両腕がだらりとぶら下がった。
同時に翼は消え、剣が地面に転がった。
「ふぅ……静かになったわね」
「おいエル。エル!」
黒龍がアリエルの顔をぺしぺしと叩くが反応がない。
「大丈夫よ。気を失っているだけだから」
「野蛮ではないか!」
「ティアナ様。何を……」
「ん? 大人しくさせただけだけど?」
「そっそうですか……」
◇
アリエルが気を失った後、ユリアは再び瞑想を再開した。
ティアナとミーシャはアリエルと抱え祭壇の一番端に移動して、ユリアの日課の瞑想が終わるのを待っていると。
「あれ……私は」
アリエルの視線の先には石の天井。
そしてそれを遮るかのようにティアナが覗き込んでくる。
「あっ起きたようね」
「ちっ何が起きただ。今の私は華奢な美少女なんだぞっ」
ムッとして頭突きをかます勢いで起き上がるが、かわされる。
「アリエル様。本当に申し訳ございませんでした!」
「ん?」
横にはミーシャが見事な土下座で謝罪している。
アリエルの顔は曇るが声からは申し訳ない気持ちが十二分に伝わってくる。への字にしている口を不機嫌そうに開いた。
「もういい。気にするな」
「あっありがとうございます」
「ふん……ん?」
顔を上げるミーシャだがアリエルの顔を凝視した後、もじもじとしながら口を開く。
「でも……できれば……たまにでいいのでまた……触らせてもらえたりは……」
「次やったらぶっ殺す」
「はい……」
殺気を向けられ、シュンとして肩を落とす。
アリエルが瞑想を再開しているユリアを見るとどこからともなく、お腹が鳴る音が聞こえてきた。
音のしたほうを見るとティアナがお腹を抱えて恥ずかしそうにしている。
「そろそろ戻りましょうか? よろしければ家でご飯食べていってください」
「いいのか? 夜勤明けで疲れているんだろう?」
「大丈夫です。アリエル様のためなら……羽触らせてくれます?」
「なら飯はいらん」
「冗談です。冗談……アハハ」
ため息と同時に、再び肩を落とす。
「さてと、お姉ちゃん! そろそろ戻ろ!」
立ち上がりユリアの元へと駆け寄っていく。
だが祭壇の階段の手前で急に動きが止まった。
「なんだ、これは」
アリエルは立ち上がり周りを見渡す。様々な物から色が失われ天井の吹き抜け部分から空を見上げるが、灰色の空が写った。
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