第24話 散策
父の発狂をその身で受けたアリエルは、城から出て街を歩いている。
フェルバートがあれからも泣き続けていたのだが、ランファニアが自分に任せるように言ってきたため、再び夕方に話し合いをする約束をした。
それまでは暇なため、街を見てみようと思ったのだ。
今までは城の中から出してもらえなかったが、今日は城の衛兵達も特に何も言ってくることはなく、普通に出ることが出来た。
「どうしてお前まで付いてくる?」
アリエルのすぐ後ろにはティアナが疑い深そうにじっとアリエルを見つめながら付いてきている。
「逃げる気じゃないでしょうね?」
「今は逃げる気はない。安心しろ。だからついてくるな」
神聖魔法と、その中でも天使の翼の件は絶対に隠しておくつもりだったため、こそこそと逃げることを最優先にしていたが、そのことが知られている今となっては実力行使でなんとでもなる。
魔剣を手に入れて全盛期の力に迫りつつあるティアナが相手でも、逃げに徹した場合、逃げる事はそれほど難しくは無い。
街の広場での決闘は本気ではないにしろ、ティアナの戦闘能力はほぼ把握出来ている。
いつも戦いを後ろから見ていた内容と決闘での内容を合わせれば実力を見誤ることはまずない。
そして最盛期から劣化しているティアナに対し、アリエルは違う。
身体が保有する魔力量は前の身体とは比較にならないほど高く、魔法は知識に依存した部分が大きいため、発動に関しては知識が変わらないため体が変わろうと関係なく、前よりも大魔法を連発できる。
もっともそんな事をすれば街は半壊。小さな街であれば容易く消えさるだろう。
「どこいくのよ?」
「どこでもいいだろ」
アリエルは何かを思ったのか急に方向を変えて歩き出す。
「それにしてもジロジロ見られるのは好きじゃないな」
「仕方がないわよ……」
すれ違う人全員が足を一度止めてこちらを見てくる。
この前とは異なり2人はローブは着ていない。王都の民は他の街の住人とは異なり、式典等に参加している2人を見ているため、こんな街中に護衛の一人も付けずに王女がいることに信じられないのだろう。
だが通りを抜け、開けた場所に出ると人々の視線は代わった。
今いる場所はティアナと戦った天女の広場だ。たくさんの作業員が復旧を行なっている手を止め。2人に驚きを見せるが、同時に警戒を露にしている。
「さっさと広場を抜けるわよ……」
気まずい雰囲気にティアナは逃げるようにアリエルの手を引っ張り広場を抜けようとするが、遠くから誰かに呼ばれ足を止めた。
振り向くとアルトが遠くから駆け寄ってくる。
「なにやってるの?」
「騎士様になったばかりで早速仕事か」
「仕事じゃないさ。街を見て回ってたら手伝いをお願いされてな。……それにしても王都までも魔獣の襲撃を受けているとは思わなかったぞ」
「え……いや、これは……」
リシュテンに黒龍が襲来したと同様に、王都にも被害があったのだと思い込んでいるアルトを見て2人は黙り込んだ。
「大噴水なんてこの街の象徴みたいなものなんだろ? 黒龍がエルの使い魔になっていなければ討伐できるんだが」
アルトはアリエルの肩の上の黒龍を睨むが、黒龍はアルトの様子を不思議そうに眺めている。
「何の話だ? 我はこの街を襲えなんて――むぐぅうむ」
疑いの目を向けられ黒龍が言葉を発しようとしたが、ティアナが口を必死に塞ぐ。
アルトの誤解は聞いているだけで耳が痛い話。直ぐにばれることではあるのだが、もしかすると復旧が終わり、そのまま日常が戻れば事実を聞かないかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら笑顔作る。
「あたし達……急いでいるから行くわね」
「別に急いではいないぞ」
「いいから!! 行くわよ!! 何処か行きたいところあるんでしょ!」
アリエルの背中を押して急いで広場を出て行った。
しばらく歩くとアリエルは一軒の家の前で立ち止まる。ノックをすると、眠そうなミーシャが目をこすりながら出てきた。
「アリエル様! それにティアナ様まで、どうしたんですか?」
「仕事明けで悪いな。ユリアはいるか?」
「すみませんお姉ちゃんなら、久しぶりに昨日帰ってきましたが、今は瞑想しに森に行ってます」
「瞑想?」
「ランファニア様の言いつけで森の遺跡の祭壇で午前中は瞑想しているみたいで……」
「そういうことか」
魔道士の修行は大きく分けて三種類
魔法の知識を書物から学ぶ。
学んだ魔法の鍛錬
そして魔力の向上を目的とした瞑想
その中でも一番時間を必要とするのは瞑想。単純に魔力の向上のみではなく魔力操作も身につく。細かな魔力操作を覚えるにはひたすらこれを繰り返すか、魔法を使いまくるしかない。
しかし魔力は有限。魔法を使い覚えるよりも瞑想で魔力を伸ばしながらに覚えた方が効率がいい。
「お姉ちゃんに何か用事でした? ひとまず中へどうぞ、呼んで来ますので中でお待ちください」
「うん〜いや、いい。私が行こう。遺跡か結構距離があるな……仕方がない……」
翼を出すとミーシャとティアナが驚き翼を見た。
「なっなんですか! その羽!」
「ちょっと、何それ」
「ん?」
ミーシャが驚くのは初めて見るのだから当然の反応。だがティアナまでもが驚くのはおかしい。後ろを振り返り自身の背中から生えている翼を見て固まった。
「は? また増えてる……」
純白の翼は片側2枚のはず。しかし目に映るのは3枚あるように見える。
手で持ち確かめるように数えるがどう見ても3枚の計6枚。
「これも魔法なんですか?」
「そうだが……その手は! その顔は何だ!!」
両手を前に出し、顔を緩ませながらアリエルに迫ってきている。
翼を小さく折りたたみ背中で手を組み後ろへと隠す。
「触らせてもらっても?」
「ダメだ」
「少しだけですから」
「絶対にダメだ……」
「痛くしませんから」
「触ったら殺す……」
「そうですか……残念です」
悲しげにうつむくミーシャを見て、ほっと胸を撫で下ろす。アリエルの視線が一瞬ミーシャから逸れた瞬間。ミーシャはアリエルに飛び掛り抱きしめに行った。
しかしその腕の中には何もない。
上を見上げるとアリエルが目を細めて見下ろしていた。
「油断も隙もないな。んじゃ私は行ってくる」
「あっちょっと!」
「あ~~~! 一掴みさせてくださいぃい~!」
叫びと共にアリエルは飛び去っていった。
「置いていかないでよ!!」
置いていかれたことにティアナは走り出そうとしたがミーシャに肩を掴まれた。
振り返ると目を血走らせた少女がいる。
「ティアナ様! わたしも連れて行ってください!!」
「ええ……いいわよ……」
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