第23話 弁解と話し合い
アリエルはシュリルに案内され城の一室へと入る。
真ん中のテーブルにはいつも通りの笑顔を浮かべた母セリーヌ・フォンティナ・ペルセリカと父であるフェルバートが座り、その前のティアナが気まずそうに座っている。
いつもであれば2人の前ではだらしなく顔を緩ませているフェルバートは、今に限り王としての威厳を感じ取れる表情でいるからだ。
「来たか。アリエル。座りなさい」
言われるがままティアナの横へと座るとうつ向きテーブルの上で手を組んでいた、フェルバートが視線をアリエルに上げる。
視線に気圧されアリエルの肩が少しビクついた。
そして控えていたダニエルがアリエルの座る椅子の真後ろに立った。緊張感が漂い、それが何を意味しているのかは考えるまでもない。
「エルよ。こやつらを始末するか?」
肩にぶら下がっていた黒龍がアリエルの肩に立ち呟くが、目の前をアリエルの手が遮った。
「やめとけ」
「アリエル。ランフォードという貴族をやったのはお前か」
「……そうです」
「何か弁明はあるか? 何もなければそれ相応の処分は覚悟しろ」
アリエルは何も言わずにローブの中に手を入れると紙の束を取り出した。
「シュリル」
「はっ」
アリエルから紙を受け取りシュリルが中身を確認すると、目を見開いた。
そしてテーブルを回りフェルバートへと差し出した。
「これは何だ」
「……こちらはおそらく奴隷商売で売買されている、取引明細とリストですね。街で行方不明になっている者の名もあるので間違いないかと……」
「父上。ランフォードが家ぐるみで誘拐した街の者を奴隷売買していた証拠です。奴の別邸に囚われていた少女達は解放済みですので、その行方不明者の関係者に確認すれば分かることかと思います」
「その必要はありません。王都内の詰所から保護を求める少女が多数来ているとの報告が上がっておりますので」
「うむ……噂は誠であったか」
フェルバートは紙に目を通しながら顎をさする。
「事の顛末は分かった。今回の件は不問にし民には包み隠さずに全て公開せよ」
アリエルの後ろからダニエルが、テーブルに勢いよく身を乗り出した。
「陛下! よろしいのですか? このようなことを公開すれば国に対して疑念を持つ者が現れないとも言い切れません」
「構わぬ。なくした信頼はまた一から築けばよかろう。幸い解決したのはアリエルだ。そこまでの問題にはならぬだろう。それにこのことを防げなかったのは騎士団の責でもあるのだぞ」
「申し訳ございません。噂の真偽は確かめたのですがそのような事実はないとばかり……」
「私にも責はある。お前でも確信までは見抜けなかったということは、何か策を打っておったのだろう。攫われていた者が帰ってきた。ひとまずはよい結果となったからいいとしよう」
ダニエルの加護の力を持ってすればその者がよからぬことを行っていれば人目でわかる。だがダニエルが噂を確かめに屋敷を訪問した時はそのような気配は一切感じられなかった。
「それにしてもなぜ分かった?」
「私にも加護があるからです。国王陛下」
「加護だと……アリエル。加護を持っていたのか」
一般的に加護は特殊な魔法でその者がどういった加護を持っているか見ることによって判定する。アリエルとティアナも幼い時にランファニアによって加護を持っているか見られたがその時は何も反応がなかった。
加護の中には神魔と呼ばれる他の加護とは一線を画して、唯一の加護も存在し、その加護は魔法によって確認することはできない。
だが他の加護と異なる点は圧倒的な力のみではなく、生を受け物心がつくのと同時に当たり前のように加護の名前と力を正体を保持者が理解している。
「どういった力だ」
「言いません。いい結果になったのだから別に知らなくてもいいのでしょう?」
自身の言葉を繰り返されフェルバートは言葉をなくす。無礼な態度に業を煮やしたのか、シュリルが再びテーブルを回りアリエルに迫るがアリエルは黒龍を空中に放り出して、それを遮った。
「ふっ」と笑みを浮かべるアリエルであったが、横でティアナが口を開いた。
「使ったのって、妖精の聞き
「おい!!」
「ティアナ、なんだそれは」
「加護の力は一定領域内の魔力の低い者の隠し事を見抜くの」
「何で言った!!」
「別にいいじゃない。あんたの加護の中じゃ一番使えないものでしょ?」
「まだ持っているのか!?」
「馬鹿が……」
フェルバートだけではない、直接戦ったダニエルとシュリルも興味津々でアリエルの話しに耳を傾けているが。
「私の加護についてはもういいでしょう」
「ティアナ様の加護といい、なぜ今まで誰にも言われなかったのですか?」
アリエルが話しを終わらせようとするが、シュリルの質問にティアナに笑みを送った。
「ティアの加護に興味があるのか?」
「ちょっと……」
「あの加護は断魔の羽衣と言って、体に触れた魔法を無力化するものだ」
「無力化ですか。でも私の結界破れなかったようですが」
「無力化と言っても魔法で生まれた事象についてのみだから、衝撃波や重力魔法は防げない。しかも結界のような複雑な術式で常に膨大な魔力が供給されている魔法には効果は薄い。今度やる時は魔力が含まれていない事象の魔法がいいぞ」
「なるほど。そういうことでしたか」
「ちょっと! 対策まで言う必要あるの!」
「お前も私の加護について話しただろ。おあいこだ。なんなら全ての加護を解説しようか?」
「卑怯よ。あたしはあんたの加護数個しか知らないのよ」
「そんなの知るか。馬鹿みたいに使いまくるからだろ」
勇者をしていた頃、ティアナは強敵に対しては加護の力を出しきり戦っていた。
そんな戦いをエルは魔道士として後ろから眺めていたのだ。
名前は分からなくてもどういった加護を持っているかは分かっている。
「まぁ、いい。とりあえず私が呼ばれた理由は終わったようだな」
アリエルは立ち上がろうとしたが、後ろからシュリルが椅子を押した。
アリエルの腰は再び椅子へと戻る。
「何だシュリル、まだなんかあるのか?」
「もう一つ。アリエル様が城を出られた理由を陛下にもお伝えください」
「理由をか……」
フェルバートからは先ほどまで感じていた威圧感は消え、悲しげにアリエル達を見ている。自分の夢を正直に伝えるべきか、はぐらかすべきか悩んでいた。
だがもうティアナ以外にもこのことを伝えていることを考えれば今更隠してもじきに伝わる。
「私は魔王になる」
「魔王だと……何を考えている!! 自ら暴君になろうというのか! そもそも王位継承権はティアナにあるのだぞ」
(やっぱりか……もう慣れたな)
声を荒らげるフェルバートの言葉は明らかにアリエルが王位を欲していると誤解している。誰に言っても信じてもらえないことに悲しくなったアリエルは肩に乗る、唯一信じてもらえた存在にすがる様に視線を向ける。
「パパ……いえ。陛下、あたしは王位を継ぐ気はありません」
「おい、私も継ぐ気はないぞ」
「よいのかティアナ」
「はい。王位はエルに譲ります。昨晩の件で民の信頼もエルに集るでしょう。女王にふさわしいと考えます」
「そうか、なら」
「ふざけるな!!」
室内にアリエルの声が響き渡ると立ち上がり机を思いっきり叩いていた。
「私の言う魔王は、魔族の王のことだ。私は世界を手に入れる。人間の王になど興味はない」
「何を言っている……覇王にでもなるつもりか」
「……なぜそうなる」
フェルバートからは悲しそうな目線。後ろからは痛い子でも見るような哀れみの視線を感じていた。
「もういい。私は旅に出る。邪魔をするな」
「許さん」
「あぁあん?」
アリエルが睨みつけると同時にフェルバートは席を離れ横にいるセリーヌにしがみ付いた。
「セッセリーヌ、私はどうしたらいい。これが反抗期というものか」
「まぁまぁ、ふふふ」
慌てふためくフェルバートと対照的にセリーヌは笑みを浮かべるだけ。
「アリエル……父のことが――」
「嫌いだな」
「アっ……ゔぁりえるぅー父のことを嫌わないでくれぇええええ~」
フェルバートは机の上を飛び越えアリエルの横までいくと肩を掴み下から覗き込むように号泣して訴えてくる。
「陛下ご冷静になられてください。祖母の言ったことをお忘れですか?」
「あ……」
アルト達と顔を合わせた場でも号泣していたフェルバートにランファニアは釘をさしていた。この場はあくまでもアリエルたちの譲歩によって存在している。そのことを思い号泣が止まり、肩を落としゆっくりと向かい側の席へと戻っていった。
そしてすすり泣く声のみが聞こえる時が流れ、静寂を崩すようにアリエルが口を開く
「国王陛下、私は旅に出ますよ」
「やはり……だめだぁああああ。ぁりえるぅー行かないでくれ~」
「私に何らかな罰をお与えになるつもりだったのでしょう? なら自ら国外追放として二度とこの街に戻らないことをお約束しますよ」
「それは……立場上仕方がないんだ……許してくれ」
「嫌ですね――っ」
今度はアリエル目掛け飛びつき椅子ごと押し倒して懇願する。
抱きつかれアリエルは鬱陶しそうに顔を押す
「ゔぁりえるぅ~~。行かないでくれ」
「離れろぉ。糞親父!」
「糞だと……ぁあああああ。父を許してくれぇええ」
「もう見てられないね」
アリエルはすぐ横から声が聞こえ、声のしたほうを見ると空気が揺らぎ、ランファニアが姿を現した。
「幻惑魔法か」
「アリエル様が暴れられてもいいように隠れていたのですがね」
「いいから、さっさと助けろ!」
「そんなにがっしり掴まれていてはねぇー、さすがに兵を呼ぶわけにもいかないし。黒龍。お願いしてもいいかい?」
「よかろう」
黒龍は本来の姿を現し、両手でつまむようにアリエルとフェルバートを引き剥がした。
アリエルはほっとする一方、フェルバートは絶叫して言葉にならない。
「陛下。よろしいので、このままだとアリエル様は二度と戻らないかもしれませんよ」
ランファニアが忠告するものの、帰ってくるのは悲しげな呻き声のみだった。
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