第21話 獣人への考え
定期的に城では夜会が開かれている。
夜会には中小貴族や有名な商人等が来て親睦を深めている。
この場は国の内部の繋がりを深める場として現国王のフェルバートが主催し、王族も毎回の夜会に参加する。
普段滅多に謁見することが叶わない訪問客たちはそこで王族との繋がりを築こうと必死になるが、今回の夜会は叙勲式の後にフェルバートに招待されたアルト達に注目が集っていた。
ペルセリカ初の獣人の騎士。
アルト達には喜怒哀楽、様々な視線が集っている。
アルト以外の団員達は立食パーティ形式で出されている豪華な食事に張り付き、アルトは次々と話しかけられ、食事どころではない。
他の団員よりも頭一つ大きい事もあり商人や貴族たちも誰が取りまとめているのかは分かっているのだろう。
「貴校達があの海龍と巨蛇を倒したそうだな。それほど腕がたつとは騎士の件がなければ私兵で雇いたいところだ」
「いえいえ。我々だけでは全滅していたところです」
そこへ扉が開くとアルトが話していた貴族も含めその場の全員が扉の方を見る。
青とピンク色のドレス姿のティアナとアリエルが、ダニエルに案内され部屋の中に入ってくる。
真ん中の通路を奥にある席へと向かう2人に拍手が送られる。
「王女殿下方が参加されるとは……」
夜会会場の至る所から驚きの声が上がっている。
今まで夜会では国王か王妃が参加しており、一度としてティアナとアリエルが参加したことはない。
夜会では貴族通同士の見合い話が持ち出されることもあり、提案されても心配性のフェルバートがいつも一蹴していたからだ。
「ん? ――なっ」
少し歩いたところでダニエルは後ろを振り返るが、2人がいない。
ティアナはごく普通に料理をよそって、アリエルはアルトの横に立っていた。
「うむ。孫にも衣装だな」
アリエルは騎士の制服姿のアルトにニヤつきながら話しかけるが、アルトはアリエルを見て固まっている。
「どうした?」
「いや……本当に王女なんだな」
「そうだな。残念ながらそうだ。こんな格好はしたくなかったんだがな。うっとうしい」
不機嫌そうにふわふらしたスカートを掴む。
「ははっ、中身はそのままなんだな」
会話は聞いていたのか、近くに立っていた貴族が声を荒らげる。
「貴校! その言葉遣いはなんだ!! この方はこの国の王族の方であられるぞ!!」
「黙れ。こいつはいい。私の友だ」
アリエルは貴族に睨み上げて有無を言わせない雰囲気が漂う。
「しっしかし、この者は獣人ですぞ。こんな連中、アリエル様にはふさわしくありません。お望みであれば私の見知っている傭兵団をご紹介しますぞ」
「貴様。この場でそのことを口に出すとは、死にたいらしいな」
アリエルは手のひらを貴族へと向け、一瞬怯むが直ぐに真っ直ぐにアリエルを見る。
「この魔力を感じて退かないとはいい度胸だ」
そこへ人混みを掻き分けダニエルが間に入った。
「アリエル様! 何をされておられるんですか! お席にお座りください。初めて参加される夜会でいきなり問題を起こさないで頂きたい」
「いいだろ。こいつをぶっ殺してから座ってやる。ダニエル、どけ。お前ごと消すぞ」
アリエルの掌に光が収束していく。
「やめろ」
アリエルの肩に手が置かれ、鋭い目線を背後に向ける。アルトが険しい表情でいる。
「これは俺が悪い……いや私に責があります。王女殿下。――っあぁあああ!!」
言い直したアルトの足にアリエルのヒールの先がめり込み、しゃがみ込んだ。
「言っただろ。私に敬語は使うなと。身分で友を失うなど馬鹿げてる。もういい。ダニエル退かなくていいぞ。そいつだけを消す魔法などいくらでもある」
笑みを浮かべた瞬間アリエルの手に収束していた光が弾けた。
「何の真似だ」
手首を握られ、横には料理が山盛り盛られた皿を持ったティアナが立っていた。
「やめなさいよ。あんたのそれは皆の立場を危うくするのよ」
「…………」
「そこの貴方。今日はお引き取りください」
ティアナはダニエルの後ろの貴族の男に忠告をすると、男は何も言わずに去っていった。
去っていく男の後姿を睨んでいたアリエルは扉の方を見たまま。
「お前この後の流れ、どうなるか分かっているのか」
こういった流れは今後間違いなくあの貴族は何かを仕掛けてくる。
アリエル自身に何かをすることはない。十中八九アルト達に何かをしてくる。
「分かっているわ。対策を考えないといけないわね」
「考える気あるのか……」
話の深刻さは考えるまでもないのだが、ティアナは話しながら食べている。
「ひとまずアリエル様は席にお座りください。この件は我々の方でも警戒しておきますゆえ」
会場の雰囲気は凍り付いている。
中止にするほどでもないがアリエルがこのまま会場のど真ん中にいてはその雰囲気はとけない。
「いや私は部屋に戻る。この場にいてもいいことはないだろ」
「あたしは残るわ」
だろうなと言いたげにアリエルはティアナのもぐもぐとした顔を見た。
「私はティアナ様についておりますゆえ。アリエル様。必ず部屋にお戻りください。早まってはいけませんよ」
「私をなんだと思っている! 安心しろ部屋へ戻るさ」
手を振りアリエルは部屋の出入り口へと向かう。
「きゃっ」
部屋を出た瞬間入ってこようとしていたメイドをぶつかりそうになった。
「あっ、すまない。ってミーシャか久しぶりだな」
「アリエル様!! 夜会に参加されるんですか」
「参加するつもりだったが戻るところだ。そういえばユリアはあれからどうしてる」
「はい。おかげさまで。お姉ちゃんはランファニアに弟子入りしたみたいで、最近は家にも帰ってきていませんが元気みたいですよ」
「それはよかった。ではまたな」
「え……」
風のように去っていくアリエルの後姿に不思議に思い、部屋の中を見ると凍りついた雰囲気に更に首をかしげた。
一方のアリエルは早足で城の廊下を進み、自室に駆け込むとドレスを脱ぎ捨て、急いで着替え装備を整え、衣装がかかっているクローゼットの扉を広げ二重底になっている板を外し、黒いローブを羽織った。
「さてとちゃんと部屋には戻ったぞ。やるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます