第15話 蛇退治

アリエルと傭兵団は巨蛇・バジリスクの目撃情報が多数報告されている森に足を踏み入れていた。

目撃した者は薬学士で、この辺りには貴重な薬草が自生しており、魔法薬の材料にされている。この森にしか自生しない薬草もあるため、薬の価格にも影響ができるかもしれないと依頼書には書いてあった。


幸いにも巨蛇・バジリスクの生態は海龍以上に判明している。沼地を好んで住処にするがこの森には沼地はない。湖が奥地にあり、住処になっているのは間違いなくそこだろう。アリエルは地図を見ながら先頭を進む。

木にぶつかりそうになるとアルトが肩を掴み止めるを繰り返していると、急にアリエルの足が止まった。


「お出ましのようだ」


地面が揺れだし、鳥たちが飛び立っていく。

傭兵団は周囲を警戒し、アリエルは翼の透明化を解除すると風を起こしながら飛び上がった。


同時に地面が割れ、地中から巨大な蛇が姿を現してアリエルへと向かっていく。


「私を狙うとはいい度胸だ」


翼を広げると翼から光の槍が放たれ蛇を襲う。

今回は依頼のために翼との魔力回路は繋げたままにしている。いつでも神聖属性の魔法に関しては無詠唱で放ち放題。

圧倒的とも取れる攻撃量に蛇は森の中へと倒れていった。


「あっ、しまった! 死んでないよな!?」


蛇が地中から出た衝撃で地面がめくれ上がった森の一部で、剣を構えているよう兵団の団員達は祈るような思いで倒れた蛇を見る。

しかし蛇は怒りが感じ取れる声で元気よく起き上がって傭兵団を見下ろした。


「んじゃお前らこいつを倒せ。分かっているとは思うが一撃でもまともに食らえば死ぬぞ。今回は防御障壁を張る気はないからな」


そう言うとアリエルは近くの大きな木の幹に着地して寝転がる。

団員達は揃って嫌そうにアリエルを見上げてからアルトを見るが、何故か嬉しそうだ。


そしてあっという間に日が沈み、また新たな太陽が昇ってくる。

バジリスクに魔法攻撃はない。攻撃は牙か尾のどちらか。海龍よりは攻撃を見切るのは容易ではある。しかし一撃の威力は海龍を遥かに超える。牙は岩をも砕き、振り下ろされた尾は地面を割る。


しかし元々常人より才能があったのだろう。獣人ということも影響して、海龍との戦いからの連戦であるにもかかわらず、時がたつほど団員達の動きがよくなっていく。

海龍よりも格上の魔獣でも決して引けを取ることはなく、昼頃にはアリエルのサポートは一切必要とせず死闘を演じていた。


そんな中、アルトは小柄な1人の少女を担ぎ上げると蛇の側面から顔面目掛け投げた。

小さな体は宙を飛び、少女の気合いのこもった剣は蛇の瞳を深く抉る。

蛇は痛みのあまり首を振り少女が空高く弾き飛ばされた。


慌ててアリエルは幹の上から飛び立つと少女を空中で捕まえる。

眼下では蛇がのたうち回り、ゆっくりと倒れていった。


「まさかこんなに早く倒すとはな……」


あまりの成長速度にアリエルは舌を巻いた。

まだ数日はかかるだろうと、そろそろ食料を調達しようと思っていたからだ。


「もう限界……」


弱々しく声が聞こえてくると、バタバタと倒れていく。

無論、怪我のためではなく、単純に体力の限界なだけだろう。


「アルト。全員を運ぶぞ。手伝え」

「ああ」


唯一立っていたアルトと共に、倒れている者を木の下の日陰まで運んだ。

運び終わると団員達が目を覚ますまで2人も休息をとることにした。


「ひゃっ!」


太陽が空を紅く染めた頃、アリエルは飛び起きた。

飛び起きたその体は何かに引っ張られる様に地面に戻る。

狐耳の少女2人がアリエルの翼を一枚ずつ抱き枕にして、幸せそうに頬ずりしている。


「ばかっ、やめ、んっ、ひゃっ」


少女達の腕を必死に開こうとするがビクともしない。赤面してただひたすらに悶える。体を震わせていると他の者達が騒ぎを聞きつけ続々と起きてくる。

しかし、誰一人として助けようとする者はいない。ただただ顔を赤くしてニヤつきアリエルを見つめるのみ。


「馬鹿っ放せ! ふっ、ひっひゃあ」


少女がアリエルの翼をかじると、一際大きな声で悶え翼が輝き始めた。


「まずい! 全員伏せろ!」


アルトは叫び、見ていた者は一斉に地面に伏せた。

伏せた瞬間。光が炸裂し金色のつむじ風となり暴風を巻き起こす。周囲の木々を吹き飛ばして辺りを更地へと変えた。

アリエルの翼を抱き枕にしていた少女達は吹き飛ばされたが、アルトがキャッチしていた。

そして何事かと言わんばかりに周囲を見回す。


「全員無事か?」

「無事だが、無事じゃないかもな……」

「ん? ……あっ、ああ」


見上げると鬼の形相で、魔力の光を身体からほとばしらせているアリエルが見下ろしていた。


「貴様ら覚悟はできているんだろうな」

「ひっ、……エル、ちょっと待て」

「見苦しいぞ。潔く死ね!」

「待て待て。羽だ羽!」

「は? ……なんだこれ」


羽は左右一枚ずつのはずなのだが、いつの間にか一枚ずつ増えて計4枚になっている。


「きさまら、何しやがったぁあ!!」


激昂して目を覆いたくなるほどのまばゆい光を纏わせ手をアルトに向ける。


「俺らは何もしてない! どうやったら増えるって言うんだ」


たしかにその通りだ。こんな羽を生やしている者などアリエル自身聞いたことがない。この魔法を教わった者に聞けば今のこの状態について聞けるかもしれないが、もう聞くことは叶わない。

体に異常がないか自身の体を左手で擦るがこれといって何もない。


「確かにな……」

「わかったら……とりあえず手のひらのそれを収めてくれ」

「…………」

「エル?」

「ひとまず吹き飛んどけ」


アリエルの手のひらの光が膨れ上がっていく。

アルトは至近距離で光に覆われるとともに、諦めの表情を浮かべ静かに目を閉じた。



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