第14話 獣人の傭兵団

海龍を討伐した翌日。

傭兵団の姿は討伐の報酬を貰いにギルドにあった。

ギルドは各街に点在し、魔獣の討伐、簡単なお使い系の様々な依頼を取りまとめ、傭兵や冒険者に振り分ける役割りを担っている。


街の中心部に一際大きな建物内には、複数の受付と依頼の紙が受付の向かいの壁にびっしりと貼られている。


傭兵団の面々は受付の女性から頭大の麻袋を受け取ると、嬉しそうに声を上げる。

そしてギルドを後にしようと出入り口に向かっていくと、小さな影が行く手を遮った。


「待っていたぞ」

「天使様!!」

「天使じゃない! 昨日散々言っただろ! 私は天使じゃない!」


昨日は沖の島から戻った後、傭兵団と晩御飯を共に取った。報酬を譲るとも言われたが元よりそんな気はさらさらない。それに傭兵団の身の上を聞き、より一層もらうわけにはいかなかった。


この傭兵団は亜人種、獣人の少年、少女で構成されている。

昨日のご飯の席で全員が覆面を外した際、アリエルの表情は曇った。


かつて亜人種は魔王に従っていた。

亜人種の中でも獣人は魔王によって人間に呪いをかけ獣の力を与えた存在。

数千年前の出来事ではあるのだが、人とは違う耳や尻尾を持つその風貌に、迫害の対象になっている。


そして厄介なことにこの呪いは直接受けていない者でも、子孫に生まれてくる子に覚醒遺伝する。

人間の両親から生まれてきた子供達は、そのほとんどが、修道院に捨てられる。


団長、アルト・フォルマーニも親に捨てられ修道院で育った。

獣人に対する人々に考えを改めて貰いたい、その一心で修道院の仲間たちと傭兵団をしているらしい。


団員達は覆面で顔を隠す中、自身だけ耳と尻尾を外に出しているのは、決意の表れだろう。


「天使様、そういえばあの美しいお羽は……」

「だから天使言うな。エルでいいと言っているだろ。あと敬語も使うな! 羽は魔法で見えなくしてるだけだ」


不機嫌な様子を露にして睨みつけると、アルトはあたふたと慌て始めた。


勿論自分達がこの国の王女である事は面倒な事になりそうだった為言っていない。公の場には殆ど出ていない為、顔で2人のことを王女と判断できるのはこの街では一部の兵士と領主ぐらいのものだろう。


「そういえばティアのあねさんは?」


団員でティアナのことを姉さんと呼ぶ少年がキョロキョロと周りを見渡すがティアナの姿はない。


「まだ落ち込み中だ……」


昨日の海龍への一撃後、ティアナが最後に使った技は剣に魔力を込めて剣の限界を超えて切れ味を上げる技。

そして剣はティアナの魔力に耐えきれずに砕け散った。

ティアナに魔法の才は無いが、魔力だけなら相当な物を持っている。魔王の防御魔法を破るために生み出したものだが、その技に耐えられる剣は滅多にない。

剣自体に魔力を帯びている聖剣や魔剣でも、下位な物は耐えられないレベル。


アリエルも砕けるのは分かっていたが、ティアナの落ち込み様までは想定していなかった。

ティアナの使っていた剣は、剣の稽古を始めて少し経った時に、父から贈られたもので、とても大切にしていたものだ。


街に帰ってからも心ここに在らずといった感じで、夜は夜通しすすり泣く声が聞こえていた。


アリエル剣は消耗品だろっと慰めたつもりだったが、突然叩かれ今度は号泣された。


その事を思い出して頬をさする。


「まぁ、そんな事置いておいて、行くぞ」


アリエルは持っていた紙を差し出すと、アルトはそれを受け取ると全員が覗き込み顔をしかめた。


「天っ、エル、依頼を見繕って付いてきてくれるのは嬉しいが、俺はともかく他の奴らは……」


アリエルの倒れる事も許されない地獄の様な特訓を昨日受けたばかりでは、魔獣の類など見たくもないだろう。

依頼書を覗き込んだ団員達の表情が青ざめてていく。


「団長違うよ……無理……絶対に無理……」


依頼には細かいランクという概念はないが、確実に高難度の依頼の紙は赤枠が入っている。

赤枠は一本線から三本線まであり、数が多くなるにつれ難度が上がる。昨日の海龍は初めて挑戦した赤紙の依頼で一本線。

アルトが持っているのは二本線の依頼書だ。


依頼書の内容は、巨蛇・バジリスクの討伐。

森の王者とも呼ばれる魔獣であり。

昨日の海龍と同じでこんな街の近くに出没するような魔獣ではない。

しかしアリエルにとっては好都合。


「アルト。人が早く成長できる方法を知っているか?」

「方法?」

「人が成長する一番いい環境は、心身共に追い詰められ、命の危険と隣合わせの環境だ。お前達ならそこいらの奴より急成長出来るぞ」

「確かに」


昨日1日だけでも団員達の成長は肌で感じていた。結果的にティアナが海龍を倒したが、後半はかなり善戦していた。


「団長!!」

「安心しろ。私も一緒に行く」


だから嫌なんだと言いたげに団員達の視線がアリエルに集まる。


「報酬もいいし、天、エルっ、が来てくれるのなら大丈夫だろ」

「団長違う……そういうことじゃない」

「ん? 何か問題があるのか?」

「いっいや……」


アリエルがアルトに詰め寄った団員の顔を覗き込む。


「なら早く行くぞ。近くとはいえ数時間はかかるからな」

「そうだな。行くぞお前ら」


アリエルとアルトが外に出て行くのを、団員達は嫌そうに付いていった。

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