第11話 街からの脱出②
兵士に囲まれたアリエルは口を歪ませながらじりじりと詰め寄ってくる兵士を見てため息を漏らした。
兵士の向こう側ではダニエルがティアナを押さえつけている。
「仕方がない。やるか」
――我 魔道を極め 理を否定する者なり 汝に願う 今此処に闇を祓う 我を浄化の化身と化さん
「詠唱をさせるな!!」
詠唱を唱え始めたことに怯んでいた兵士達はダニエルの言葉で一斉に飛び掛る。
盾を構え魔法に備えながら、1人の兵士がアリエルを押さえ込もうと盾を振り上げ手を伸ばしていく。
その瞬間空から光がアリエルに降り注ぎ突風が兵士達を吹き飛ばす。
白銀の柱が天まで登り、空にかかる雲が周辺から退いていく。
天まで延びた光の柱は砕け散りキラキラと輝く光が降り注ぎ、光が降り注いだ先には純白の翼を2枚背中から生やしたアリエルがいた。
「天使……」
1人の兵士がアリエルを見て呟く。
「天使言うな! 魔王と呼べ!」
「魔王?」
「あ……。まぁいい」
アリエルは手を上げると閃光が空に向け放たれるとダニエル目掛け軌道が変わる。
ティアナの上から退くが、閃光は向きを変え向かってくる。
追ってくる閃光に向き合い、剣で全てを切り裂いた。
「ほう。今のを防ぐか」
「無詠唱の神聖魔法とは驚きました。それにそのお姿はどういったお戯れですか」
「私もこの姿になりたくはなかったがな……」
ティアナがアリエルのところまで飛びのいてくると、アリエルの足元に置いてあった自身の荷物とアリエルの荷物とローブを掴む。
「エル、突破するわよ」
「ああ。まかせろ。なってしまったからには全力でやる」
目の前の門には立ち上がってバリケードを築いている兵士達。ダニエルもその前に立ちふさがる。
「ティア、下がってろ。私が蹴散らす」
前に出ると翼を大きく威嚇するように広げる。
兵士達は気圧されるが負けじと盾を強く持ち直した。
アリエルの翼が白銀に輝き出し、笑みを兵士に向けた瞬間。急に地面から出てきた黒い無数の触手に囚われ、足から口元まで隙間なくぐるぐる巻きにされて地面に倒れた。
「エル! ――っ」
「むぅうむー、むぅんぅっ!」
ティアナは前に出ようとするが漆黒の壁に行く手を遮られた。しかし払うように腕を振り、かき消すと、アリエルの体を覆っている触手に触ると拡散して消えた。
「大丈夫!?」
「ああ……だが……」
「やっぱり弱点は闇属性みたいだね。力の源はその羽でしょうかね」
兵士が道を開け目の前に1人の人物が歩み出してくる。
大きな杖を持ちすらりとした体格で黒髪に白髪がツートンカラーになって混ざっている女性が自慢げに語りながらダニエルの横まで進んできた。
「ひっ婆や」
「なぜ婆やがここにいる!」
ティアナは小さく悲鳴をあげ、アリエルは睨みつける。
2人が婆やと呼ぶ人物。ランファニア・コゼンティーノは国王に並ぶほどの権力を有し、普段は温厚だがひとたび怒れば、国のどんな貴族もひと睨みで黙らせるほどだ。
そして普段は城で国王の側に控えていて、側を離れることは滅多にない。
そのため騒ぎになろうともランファニア自身が出張ってくることはないだろうとアリエルはたかをくくっていたのだ。
「陛下の命でお二人を探しに来ただけですよ。騎士団長の坊やだけで抑えられると思っていたんだけどねー。まさかここまでお二人がお強いとはね」
ランファニアは杖を持ち上げ軽く地面を叩く。
すると再び触手が現れティアナとアリエルとぐるぐる巻きにする。がティアナの方は弾けた。
慌てて再びアリエルの体に触れアリエルも自由にする。
「化物め……」
「神聖魔法を無詠唱で使うよりは人間的だと思うけどね。それにティアナ様の魔法を無力化しているのは加護の力かい。それも十分に常識はずれだよ」
アリエルは地面に手のひらをつける。
広場全体の地面が白く輝き、光が地面から巻き上がる。
「おやおや、防がれてしまったか」
「時間的な優位は婆やにあるかもしれないが、負けるつもりはない」
ランファニアが使うのは闇属性。一方のアリエルの得意とする神聖魔法は光属性にあたる。この二属性の魔法は力は強いが使用する時間帯によって力がさらに爆発的に上がる。
太陽が沈んだこの時間帯は闇属性の力が大きく跳ね上がる時間帯だ。
「小娘が調子に乗るんじゃないよ! どれだけの人に迷惑をかけたと思っているんだい!?」
今しがたまでの温和な雰囲気は何処かへと影を潜め蛇のような目つきでアリエルを睨みつける。
ランファニアを中心に地面が黒く塗りつぶされると、アリエルとの間で押し合いが始まる。
「そんなの知るか! 私は魔王になるそれだけだ!」
「魔王……?」
「そのために旅に出る!!」
アリエルは翼を大きく広げ光の槍が無数に広範囲に放たれる。
先ほどティアナの行く手を遮った漆黒の壁が兵士達を守るように出現するが、次から次へと襲ってくる光の槍に少しずつひびが入る。
それを見てランファニアはダニエルに急ぎ声をかけた
「あんた達下がりな。邪魔だよ」
「ですが……」
「死にたいのなら止めはしないよ。守ってもらえるなんて思わないことだよ」
それを聞くやダニエルの命令を待つことなく兵士達が斜線上から逃げ、広場の端のほうまで距離を開けた。
「素直だね。兵士としては失格だが……あんたも離れな」
「私はお供します。自分の身ぐらい守れます」
「そうかい」
「ランファニア様!」
ランファニアとダニエルがアリエルの猛攻を防ぎながら話していると一際大きな光の塊が向かって来ていた。
壁の範囲を狭めると壁は分厚くなりその直後に光が襲う。このまま押し合いが始まるかと思ったが、一瞬の後。壁が砕け散った。ランファニアは目を見開いた。眼前には閃光とティアナがいたからだ。
横にいたダニエルはランファニアの腕を引っ張り、魔法の斜線上から引っ張り出す。
閃光は門を抜けていき、その直後に2人の前を純白の羽が舞った。
「やられたね……」
門の外の道には小さな影が2つすごい勢いで離れていっている。一つは飛び、もう一つは走っている。
「どうしたものかね……」
ランファニアは深刻そうに考え込むとダニアルの肩を叩いた。
「陛下にはあんたから2人は旅立ったって伝えな」
「私ではなく、ランファニア様がお伝えになっては? 陛下に命じられているのでしょう?」
「発狂しなければいいんだけどね……」
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