第4話 魔獣の討伐
森の中を2人は駆ける。特に目的があるわけでは無いが護衛の一人もなく城の外に出るのは初めてだ。
護衛を付けたとしても心配性な国王に止められ、城下の街にもなかなか出してもらえない日々。そのやるせない思いを晴らすかのように、ただひたすらに森の中を走り回っている。
「はぁっはぁ。もう無理っ」
アリシアは止まると近くの木にもたれかかった。
「だらしないわね。もう疲れたの? 本当に稽古ちゃんとやってるの?」
「ティアみたいなっ、体力馬鹿とっ、一緒にするな」
最近は剣の稽古をつけてもらうようにしているのは、書庫に籠っていて少し歩いただけでも息を切らすようになり、流石にまずいと思い考えた事だった。
効果があるのか不安だったが、効果のほどは目の前の少女が実証してくれている。
「運動はしないわ、偏食するわ、そんなんだからあたしよりちっこいんじゃないの?」
「うるさい。やろうとはしてる」
「何回サボってるのよ」
双子で生まれたはずなのだがアリエルよりもティアナの方が背が高い。
髪の色も異なり、城に初めて来て2人を見た人は双子ではなく、年違いの姉妹だと誤解するほどだ。
髪の色から考えれば、ティアナは父に似て、アリエルは母に似たのだろう。
父は一般よりも背が高くティアナは父に似ているのであれば母より大きくなるかもしれない。
「関係ないだろ。そもそも稽古したら背が伸びるのか? もしもそうだったら世の剣士は巨人ばかりだな」
一方でアリエルの今の身長は平均よりも少し小さいぐらい。ティアナに関してはシュリルと3人で並ぶと丁度間ぐらいだ。
すぐ再度の転生に臨むつもりのため身長が小さいことはどうでもいいと思っていたが、背のことを改めていじられると我慢ならない。
「確かにそうね。剣士が巨人だったら、魔法使いは小人になっちゃいそうだね」
「いいだろう……小人の力見せてやる! 剣か魔法どちらが上か決めようじゃないか。倒した魔獣が大きいほうが勝ちだ」
「今剣持ってないんだけど……」
「え……」
想定外の返答に困惑した。
まだ昼過ぎの時間帯のため大型の魔獣は大部分が夜行性。小型の魔獣しか出てこないはずだが相手は人間にも危害を及ぼす魔獣。
怯えて断るところを馬鹿にしてやろうかと考えていたが恐怖の感情は一切感じられない。
「それがあるだろう……」
ティアナの腰。背中側に短刀を携えている。
「まぁいいわ。んじゃ開始ね!」
「ちょっ、ちょっと待った!」
想定外のことに慌てふためく。
ティアナは走り出すが、アリエルは立ち上がろうとするが久しぶりの全力疾走で足が震え、か細い両足からは産まれたばかりの子鹿が連想される。
「あははっ、頑張って立ってね」
ティアナは笑いながら森の中へと消えていった。
「どうなってるんだ……やばい……もしも負けたら何を言われるかっ。いやまてよ。倒した魔獣の大きさならば体力の回復を待つか。この世界の人間は魔獣への恐怖は薄いのかもな……それとも知らないだけか」
前の世界ではアリエルは膨大な数の魔獣を倒した。魔法使いで魔獣を倒した数ランキングがあれば比べるまでもなく1位なのは断言することができた。
それでも最初のうちは小型の魔獣を相手でも恐怖に震えた。
腕を組みティアナの怖い者知らずの突進について考え込んでいると
遠くの方から悲鳴と木々がへし折れるような音が聞こえてくる。
「なんだ?」
「エル。まだ動けないの!?」
「おわっ」
森の中から短剣を右手に持ち血相を変えてティアナが飛び出してくるとアリエルを肩に担ぎ上げ、そのまま飛び出してきた森とは反対方向の森に突っ込んでいく。
「ティアいきなりなんだ!」
「いや……中型の魔物が寝ていたのを見つけたんだけど……浅かったみたい」
「仕掛けたのか! 馬鹿か!!」
小型の魔獣ならばティアナの剣の腕があれば短剣でも問題はない。そう思っていたが森の中の木々をへし折りながら真っ直ぐ追ってくるほどの巨体。
短剣なんかで仕留められるわけがない。
「しょうがないじゃない。大きかったんだし……」
「あぁああもう、どうするんだよ。すごくご立腹だぞ」
次第に音は大きくなり、同時に獣の唸る声も聞こえてくる。
「見えたら迎撃して! 動けなくても魔法ぐらいは打てるでしょ」
「分かった……私が魔法を使っても止まるなよ。巻き込まれるからな」
「了解」
担ぎ上げられ後ろを見ていると大きな影が見えてきた。
「よしっやるか。意外と訓練に丁度よかったかもな」
アリエルは体を少し起こし影に掌をかざす。
掌に光が集い始めると。
「エル、待った。 やったらだめ!」
「へ?」
森の中をひたすら走っていたティアナの足は止まった。
顔を進行方向に向けると壁があった。高い崖が周囲を覆っている。
「追い詰められてどうする!」
「知らないわよ。あたしのせいじゃない……わよ……」
後ろからは先ほどまで聞こえていた音は消え静かになっている。ティアナの気まずそうな声を察して振り向くと。3メートルほどの猿獣数体に囲まれていた。
「おい。どうしてこんなにたくさん追って来てるんだ!」
「一番大きな魔獣を狙ったんだけど、群れのボス的な存在だったのかな。あはは……」
「笑い事じゃないぞ……」
「でもエルの魔法で一瞬で蹴散らせれるでしょ?」
「無理だ……」
「はっ? なんで!?」
「こんなところでやったら衝撃で生き埋めだぞ」
「ならどうするのよ!」
「ひとまず下ろせ」
この場所は上に岩がせり出し、半分洞窟のようになっている。魔獣を仕留める際に魔法の衝撃で上の岩が崩れかねない。威力を抑えられればいいが、あの魔獣を倒すほどの魔力を込めての魔法はこの体ではやったことがなかった。
もしも力加減を誤れば取り返しがつかない。
「ティアが仕留めろ」
「え?」
「補助魔法をかければティアの実力ならば倒せるはずだ。『エアリエムーブ』、『グランドブースト』、『ホーリプロテクション』」
アリエルは補助魔法を発動すると複数の色の光がティアナの体を覆った。
――だが
その光はティアナの体の形に収束したと同時に弾けとんだ。
「なっどういうことだ……補助魔法が弾かれた……」
「ごめん……あたしの加護よ」
「加護? まさか……」
「ええ。魔法の類は私の体は弾くわ」
「噓だろ……そんな加護持っているやつがあいつの他にいるなんて……」
驚きをあらわにアリエルは数歩後ずさりするが、迫ってくる魔獣に驚いている暇さえもない。
「分かった。ならあれか……『エアリーズトゥインクル』、『グランド・カースド・スレイブ』」
「この魔法って……」
ティアナの持つ短剣は黄緑の光りに覆われ、光で刀身が伸ばされると漆黒の光がそれを覆った。黒い刀身の周りを風が囲む。
「私のオリジナル魔法だ。すごいだろう!
補助魔法は生物にしかかけることができない物であり、武器にかける事はできない。
アリエルのその魔法は、まず剣に精霊を宿してから剣にではなくその精霊に攻撃魔法を乗せる。
ティアナは刀身を見て驚き、小さく微笑んだ。
そして魔獣に向かって突っ込んでいく。
「馬鹿、待て! 説明を聞け!」
魔獣は突っ込んでくるティアナに拳を振り上げる。
それを見るやアリエルは絶叫する。
剣の形を成してはいるがそれはあくまでも魔力の塊であり、攻撃を受け止めることはできない。前の世界で何も言わずに剣士にかけたら全員が間合いを読み間違え空振り手ひどくカウンターを受けるか、防御しようとしてまともに攻撃を受けるかのどちらかだった。
しかしティアナは魔獣の攻撃を紙一重で回避すると剣を振った。
もちろん実体がない剣では切り裂くことはできない。
だが魔法は当たる。
魔獣の体には光が残り、漆黒の輝きが収束すると弾けた。魔獣の体は軽々と森の中へと吹っ飛ばされていく。
ティアナはそれに驚く様子もなく次から次へと同様に魔獣を吹き飛ばし、あっという間にすべての魔獣を片付けた。
「何とかなったわね……」
「そうだな……もう戻ろう……夜までに帰れなくなる」
アリエルは深刻そうな表情でティアナとすれ違い森を来た道を戻ろうとする。
「助かったわありがとうアリエル…………いえ……エルグラン・ノートルフェスト」
アリエルは足を止め目を見開き振り向く。
その名を聞くことは絶対にありえない。
他の世界で唯一無二の最強の魔法使いが名乗っていた名だからだ。
「やっやはりそうか……なぜお前がここにいる! 勇者 ティアナ・フィービルベルト!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます