第2話 転生の失敗?
豪華な装飾が施された部屋
2つの部屋が続く造り、片方にはソファーと大きな机が置かれ、もう片方には巨大なベッドが置かれている。
そのベッドの脇には小さな箱が2つ並べておいてあり、そこから元気な泣き声が響いていた。
騒がしい。
長年1人で研究にのめり込んでいた男にとって赤ん坊の泣き声など久しく聞いていない。その元気すぎる声は耳に響く。朦朧とする意識、視界は少々ぼやけ天井が見えているということは横になっているのだろう。
段々と意識がはっきりとしてくると、直前に行なった呪術の事を思い出した。
(この声は私か! はっ……はははは。成功だ! 転生だ……転生できたぞ!)
声を出しているつもりが泣き声だけが響き渡る。
そしてあることに気がつく。
(待て……魔族の赤子に転生したはずだが……)
自身の姿を確かめたくても体が思うように動かない。
まだ精神がこの体に馴染んでいないのだろう。転生したはいいが意識だけが覚醒した状態、その意識に体が馴染むのは時間がかかる。
転生に持ってこれたのは魔法の知識と魔法の才能だけ。肉体については魔族ならば人間なんかよりはよっぽど強いと思っていたため種族のみでとくに指定はしていない。
だがその瞬間、疑問は目の前に現れた影が教えてくれた。
(は……どういうことだぁあああ)
目の前、正確には頭上から覗き込んできたのは人間、それも顔立ちが整った女性だった。
「アリエルちゃんどうしたのかなぁ~お腹空いたのかなぁ?」
(アアッアリエル? それは私か! まてまて……私の理論は完璧なはずだ。なぜ人間、しかも女!)
女性に抱き上げられた赤子はよりいっそう鳴き声を張り上げる。それは魔王を夢見た男の嘆き悲しむ声なのだが、赤子が癇癪を起こしているようにしか見えない。
赤子を揺すり、なだめるが一向に泣き止まない。
「いい子いい子、どうして。さっきあげたばかりだからお腹が空いている訳でもないはずなのに……」
「おーおー、元気だな」
扉が開くと純白の高貴そうな服装の男が入ってきた。そして女性に抱かれた赤子を覗き込む。
そこに赤子が手足をバタバタとした足が顔に入り、男は顔を押さえてうずくまった。
「あなた大丈夫ですか」
「大丈夫だ。急にどうしたんだ。今までずっと大人しかったのに」
「わかりませんっ。おなかも空いてないはずなんですが……」
「分かった変わろう」
女性は赤子を手渡すと心配そうに見つめる。
「公務の方は今日はもう大丈夫なんですか?」
「だぁっ大丈夫っだ。今日の執務は終わらせてきたっ」
話しながらも赤子の攻撃が男を襲う。
それをみて女性はくすくすと笑う。
「もらいますよ」
「いい。可愛い我が子だ。公務が早く終わった時ぐらいは私が面倒を見よう」
赤子の手が男の顔を押し、足でも蹴る。それでもめげずに笑顔を作るが、徐々に困った顔に変わっていく。
そして赤子の手が男の蓄えたヒゲを掴み色んな方向に引っ張る。
「あらら。アリエルちゃんそれ引っ張ったらダメよ」
女性は赤子の手を開いてそのまま男から赤子を受け取ると。顔を胸に埋めて左右に揺れる。
「辞めるか……ちょっと乱暴すぎないか」
「大丈夫」
「すまないが少し待っていてくれ」
男は急いで部屋を出て行った。
少しすると赤子の手足がぐったりとする。
「そろそろ疲れたかな。あら?」
赤子のまぶたが何度も落ちかかっている。
しかし再び元気な泣き声が部屋の中に響き渡る。その泣き声は女性の腕の中からではなく、部屋にもう一つ置かれていた小さな箱から聞こえている。
「あーどうしましょ……あ! あれ……剃ってきたんですか」
再び現れた男の顎は綺麗さっぱり、先ほどまであった立派なヒゲがなくなっていた。
「よかったんですか? 大切にされていたのに……」
「こんなものよりも大切な物が出来たからな」
男は顎をさすりながら箱に近づき、もう1人の赤子を抱き上げた。
抱き上げた赤子は直ぐに泣き止み満面の笑顔を男に向ける。
「ひげがダメだったのか……」
「おひげがなくても素敵ですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます