八話〜後悔を飲み、明日を楽しむ為に関係を戻す計画〜

 昼休みの時間、食後の私は机に顔を伏せて考え事をしていた。


 色々なことがあった日の翌朝に目覚めてからというもの、昨日のことを思い出す度に叫びたい気持ちになる。

 何故あんなことをしてしまったのだろう。気持ちを抑えることくらいできるんじゃないのか? 私は馬鹿なの? なんてことしてくれてるの?

 と、只管脳内で自分に罵倒を浴びせていた。

 あの日から四日が経ち金曜日、あまり会話も交わさず只只ぎこちない空気で過ごしていた。

 当然だ。私は凛霞さんの気持ちを考えずに、自分のことを優先してしまったのだから。その結果、凛霞さんを酷く落ち込ませたのも私の責任。でも、心のどこかで私は私の気持ちを優先する。同性で恋愛なんて……と。

 凛霞さんは男の子の服を着た私、男の子としての私に恋をした。だけど、私はただ純粋に女の子の凛霞さんに恋をした。そう考えると心が重くなる。同性で恋愛する他の人の恋愛は何故だか良いと思えるのに、自分だけは絶対に嫌だ。と思ってしまう。

 私も、私も凛霞さんの気持ちを優先したいのに。心にある同性愛拒否反応がそれを許さない。……今思えば男の人にも女の人にも恋をしたこと無かった。凛霞さんが初めてで、凛霞さん以外今までに居ない。

 そんなに執着心が強いのだろうか。呆れてしまう。

 同性で恋愛するのはおかしいという念が強すぎた結果、凛霞さんを傷つけてしまった。気まずいけれど、謝罪でもなんでもしないと。

「あの、凛霞さん」

「……?」

「えっと、明日水族館──」

「行く」

  凛霞さん、若干不機嫌なのに食い気味に返答が来た。

「待ち合わせ時間の時間は十一時で良いですか?」

「うん、良いよ」

「それでなんですが、ここに近い水族館って二つあるじゃないですか。あれ、美海みはら水族館とウナバラ水族館。どっちが良いとかあります?」

「美海水族館が良いかな」

 即決。

「判りました。じゃあ美海水族館で」

 会話は終了。そこからというもの、会話が発展することも無く。気まずい雰囲気から逃げる為に、飲み物を買う前提で購買まで歩いていった。



「よおー夏乃ぉ!」

 ……難破してきた先輩たち。

「そんな睨まないでくれよ。もう俺たちは別にそういう気もないし」

「本当かよ」

「本当、彼女できたし」

「は? 吊るすぞテメェ」

「怖い怖い」

「おめでとうございます」

「ありがとう。っと、お前は向こう行っとけ」 

「あぁっ!? 何抜け駆けしようと──」

「馬鹿、そんなんじゃない」

 また私の前で、何が繰り広げられているのだろうか。

「ちょっと話あるんだけど」

「な、なんですか?」

 改めて言われるとこっちもかしこまってしまう。

「何かあったのか?」

「え?」

「いや、夏乃ちゃんわかりやすいよ?」

 そんなに表情に出ていただろうか。

「き、気のせいです気のせい」

「そういうのわかるんだよねー俺。彼女ちゃんとなんかあった?」

「か、彼女ちゃん!?」

「しーっ、声大きいよ」

 彼女ちゃん? 彼女ちゃんとは?

「ほら、凛霞ちゃん……だっけ? 彼女なんだろ?」

 あれ、おかしい。この人ともう一人でナンパしてきて、なんか喧嘩してたときに「敢えてやってる」だかなんだかって言ってた気がする。

「違うの? いや違ってたらごめんだけど」

 何故この人は気持ち悪がらないのだろうか。いや、付き合ってないけど。付き合ってないけど。付き合ってないんだけれど……。

「でも、あの子との関係でしょ?」

「なんでです?」

「なんでって、登下校に遊びにカフェ。ずっと一緒なのにここで夏乃ちゃん一人だけを見たの二回目か。なんかあったのかなって」

 察しが効く人。

「まぁ、その関連というか……。で、でも私たちだけでなんとかできると思うので」

「そうかぁ? ならいいんだけど。まぁ、不安になったらいつでも話聞くから、いつでも聞いてよ」

「はい。ありがとうございました」

 初めて見た時から思っていたけど、この人の顔には表情があるけれど。目は無機質に近しい。欲が浅そう、と勝手に思っている。



 下校時間、リュックが肩に食い込み脚も若干疲労でふらつく。が、家も後少しなので元気をふる絞って歩いている。

 水族館、か。いつぶりだろう。

「凛霞さん」

「どうしたの?」

「水族館、楽しみですね」

「そうだね。色んな魚を見たいなぁ」



 よくよく考えたら、あんなことがあった後に何気なくこういう会話が交わせるのは凄いことなのではないだろうか。

 いつもの分かれ道。少しの虚しさはあるけれど、明日がある。


「それじゃあ、ね」


 私は数十秒、立ち尽くしたまま凛霞さんを見送った。

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