五話~不穏な予感~

 色んなことが起きた土曜日から、日曜日を挟み、月曜日が来た。登校前のいつもの憂鬱感はなけれど、緊張状態がずっと続いている。理由は一つ、優等生さ……凛霞りんかさんとのこと。土曜日に色んなことがありすぎて、少しぎこちなくなってしまった。話しかけようと思う度に緊張してしまう。それは、

「夏乃ちゃん」

「ちゃん……?」

 向こう側も同じようだ。

「夏乃っ」

「どうしたんですか?」

 学校に一緒に登校して席について間もなく、

「いや、えっと。ごめん」

「?」

 唐突な謝罪の言葉。連絡でも届いた。

『恋人だとか言ってごめん』

 このような内容を十回程度は送られてきた。

「あぁ、私は別に気にしてないですよ」

「本当?」

「本当です」

「よかった……、メッセージで送るだけじゃ心許なくて。ちゃんと言いたかったの」

「そういうことですか。不安になる必要は無いですよ。別に私気にしてませんし」

「うん、まぁ、うん……」

 様子は変わらず、まだ不安は拭えていない様。こういうのはもう少し日にちが経てば少しは良くなってくれる……と願うばかり。

 いつもより早く学校に向かって、凛霞さんとの気まずい時間を少し減らそうと思ったけど、凛霞さんも同じ時間に外に出て結局一緒に登校することになった。そして今に至ると。

「ね、ねぇ」

「どうしましたか?」

「あの、なんで、さ。なんで敬語なの?」

「んー……。私のお父さんの話は覚えてる?」

「うん」

「結構厳しいお父さんというのもあって、言葉使いを指摘されてからそのまま……って感じです。お母さんや弟相手には使わないようにしてますが、不意に敬語になってしまう時もあります。それに……」

「それに?」

「凛霞、ちゃん? 凛霞?」

「え?」

「私のタメ口って、違和感すごいでしょ?」

 凛霞さんは顔を伏せ、何かを考え始めた?

「い、いや、別に。違和感は無いというか、あるけど無いというか……」

「そうですか?」

「ちょ、ちょっとさ。また、お願いなんだけど」

「なんでしょう?」

「今日一日、タメ口が、良いなぁ……なんて」

 一度敬語に慣れたらタメ口が少し恥ずかしかったりするんだけれど。

「ちょっと……それは」

 やっぱり、怖いのが第一だ。そして、それがなぜ怖いのかも思い出したく無い……、それを思っている以上必然的に思い出すわけだけど。

「あ、いやごめんね。嫌ならいいの」

「こちらこそ、ごめんなさい」

 私はもう、気づいているのかもしれない。私の中にある現実に、事実に。



 昼休み、廊下に出て購買に向かう。人は多いものの、待つことは苦じゃないのでしっかりと列の後ろで待つ。

「あれ?」

 ……どっかで見た顔ぶれ。どっかで見たというか、確実に覚えている。

「すみません、あのあなた達って」

「え? あ? なんで?」

 やっぱり、この前のナンパしてきた人達だ。

「ここの生徒だったのかよ! おい! あー、終わった。充実した学校生活もここで……」

「先走らないでください」

「どうしたんだ? あー、ここの生徒だったのかい」

 もう一人の男性、謝れよと怒っていた人か。

「この前はごめんね、こいつがどうしてもさぁ」

「おい! てめぇも最終的には少し乗り気だっただろうが!」

「この子ともう一人が別嬪さんだったからね」

「最低だなお前」

「お前に言われたくないんだけど」

 また喧嘩してる……。

「仲悪いんですか?」

「考えたこともなかったな」

「俺たちって仲良いのかな? 悪いのかな?」

「知らない。それと、そこの子……夏乃って言ったっけ」

「覚えてんのかよ、きもっ」

「うるせぇよ。夏乃ちゃん、すまない。購買使うんだよな? 奢らせてくれよ」

「それはちょっと申し訳ないというか……」

「良いと思ってさ、これも罪滅ぼしだよ」

「ま、まぁ……なら」



「おかえり、夏乃」

「はい、ただいま凛霞さん。あの、この前いたナンパの人たち、この高校の先輩でした」

「えっ、先生に言った方が……」

「反省してるようですし、今はまだいいんじゃないですか?」

「ならいいんだけど……」

「悪そうな人達ではなさそうでしたよ。多分」

「そうだといいんだけど……」

 素っ気のない返答が多い、素っ気のないというか上の空?

「なんだか、今日は元気がないですね。私はもう恋人の件とか気にしてないですよ?」

「いや、そ、そういうわけじゃないよ」

 さっきから、というか今日ずっと、凛霞さんは曇った表情をしている。

「凛霞さん、言いたいことあるんですか?」

「え?」

「わかりやすいですよ」

「あぁ……ごめん。あの」

 私も、薄々気づいてはいた。というか、分かっている。凛霞さんの言いたいことが。私も思っているから。

「あの、さ。私のこと覚えてる?」

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