三話〜特徴〜
「あら、どこにいくの?」
「えっと」
今まで友達が居なかった私。とにかく友達と呼べる人ができたことを悟られるのが何より恥ずかしい。
「同級生というか……友達というか……なんというか」
「友達、いいじゃない。気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
微笑んで見送ってくれた。やっぱりお母さんは優しい。
本格的な都会、
「あれ、優等生さん早いんですね」
「楽しみだったからねー」
「待たせてすみません」
「早く来た私が悪いのよ」
優等生さんの元に駆け寄る。
「優等生さん、結構フワフワした感じのを着るんですね」
「夏乃はカジュアルな感じなのね」
「かじゅある?」
「さては夏乃、ファッション疎いなぁ?」
そもそもこうやって外出することもなかったから、着こなしなど気にしたことなかった。今回の服装だって、お母さんが選んだ服だし、ちょっと私にしては派手な気がするけど。
「まぁ、って言っても私もファッションとかそんなに興味ないけどね」
「なのにこのお店に誘ったんですか?」
「夏乃の色んな服を着ているところを見たいなあ、ってね」
なんでそんなこと思ったのか。嬉しいのか嬉しくないのかよくわからない心情。
「とりあえず、行こうか!」
「はい!」
楽しいって、こういう感じなのかな。
「……すごい量の洋服なんですね」
男性用と女性用で別れ、女性用の方だけでもかなりの量がある。
服装の種類によって場所が分かれているようだ。種類の名前までわからないけど。メイド服みたいなのも見える。コスプレもできるのだろう。
「あっち行ってみようよ」
そう言われ、手を引かれて早歩きで床を踏み込んでいく。
この感覚は。
「あ、そうだ。服選び合おうよ」
「良いと思います。私のセンスが試されるわけですね……!」
正直、自身は全く無い。けど、最善は尽くさないと。
服の最低限知識、三色以内は守っているから大丈夫、な筈。
「それじゃあ、私から……」
ジーンズと黒い半袖のカーディガン、白いブラウス……これが私なりの最善で最高。
「じゃあ、着替えてくるね」
試着室の中に、衣類をハンガーで掛けている。試着室に優等生さんが入ってその服と始めてご対面するわけだけど……。
自分が選んだ服を着てもらうって、こんなにも緊張するものなのだろうか。
〜〜
「結構良いんじゃ無い?」
意外にも、その服は似合っていた。普段は大人しくカリスマのある優等生さんにはぴったり……、可愛げはあるけど。
「似合って良かったです。自信なかったので」
「着こなせてないかもしれないけど、良いと思う!」
喜んでもらえたみたいで良かった。
「私が選んだのは、あともう一着だけですよ」
「あれ、そうなんだ」
「おお」
結構なんでも似合うのではなかろうか、レースの入った黒いトップスに黒いパンツ、シンプルだけどクール。
「良いじゃん。買おうかな」
「値段も抑えてあるので買いやすいと思います」
「ほんとだ、買ってみようかな」
このトップスとパンツの二着で六千円くらい。高校の新一年生にしては少し値が張るかもしれないけど、優等生さんは顔色ひとつ変えずカゴに入れた。
「じゃあ、次は夏乃の番ね」
「どう、ですか?」
何かのジャンルなのは間違い無いのだが、なんのファッションなのかはわからない。キレカジ? というらしい。
「うんうん、うんっ。似合う!」
その次はコンサバ? セレカジ? などなどのよくわからない服を着ていった。
「夏乃、なんでも似合うなー」
「特徴性が無いとも取れますけどね」
「そんなことはないよ? 可愛い……を兼ね備えた綺麗? 多分激しめの服は合わないかも。これも着てみてよ」
「え?」
なぜか知ってる、これ森ガールだ。流行ったのだいぶ前、保育園にいたぐらいの頃か、小学校一年生ぐらいの時に流行ったファッション。お母さんこれ一回着てたような……というか、これもうコスプレなんじゃ。
「……」
「似合って、る」
流石の優等生さんも、ちょっとふざけていたらしい。
「ほんとに似合ってるんですか?」
「本当、本当。似合うと思ってなかったから。美しい」
「そこまで言われると恥ずかしいです。もう、着替えますよ?」
「次が最後ね」
「わかりました。どうしたんですか優等生さん?」
ほんの少し、優等生さんがまたソワソワしていた。
「いや、ちょっと寒くて」
「たしかに今日は少し冷えますね」
コート、羽織っててもらおうかな。
「優等生さん」
「どうしたの?」
羽織るかどうかを聞いたら、断るだろうと思ったので、思い切って放り投げてみた。
「えっ?」
「羽織っててください」
ちょっと動揺してるけど、素直に羽織ってくれた。
「じゃあ、着てみますね」
「う、うん」
これって、ボーイッシュ? 男の子みたいな服着るのなんて久方ぶりだ。お父さんが家から出て行ってきりかな。
「着たよ」
仕切りのカーテンを開けるたびに、明るくて少し眩んでしまう。
「……可愛い」
「そうですかね?」
「うん。まぁ、なんというか、なんでも似合うって良いなぁ。何着ても可愛いというか」
「……褒めても何も出ませんよ?」
今日の優等生さんの距離感が、掴めない。近すぎるような、遠いような。
「じゃあ、私はこれを買います」
「え、いいの? ちょっと高いよ?」
「貯金してたから大丈夫です」
一万三千円、値は張るけど、今買わずして
「あんなに褒めてくれたのに、買わないわけにはいかないじゃないですか……」
「なに? 小さい声で何言ってるの?」
「別に、なんでもないですけど」
「ちょっとムキになってる」
「なってないです」
楽しくて、嬉しい。そんな時間は早く過ぎてしまう。嗚呼、このままずっと……。
いや、駄目か。駄目だ、駄目だ。
「あ、そうだ。喫茶店に寄って行こうよ」
「喫茶店、ですか」
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