16話『デーモンクエスト』part.8
「宝箱だ! ねえねえルル、今度こそアタシが開けたいよ! 開けていい?」
「もちろん。この宝箱の中身はエリーゼ様の物ですから」
「おし。じゃあ行くよ!」
ごとん、と音を立てて外れる蓋。
エリーゼが中身を確かめるより早く、内側から濛々と障気が舞い上がった。
『客人か、それとも盗人か……?』
障気の中から現れたのは、翼を持つ小悪魔だった。
その両手に針のように細い鎗を握りしめて、エリーゼの頭上へと降りてくる。
『我はジークナッシャ。この亜空間の宝物を守護する者である。貴様は何者だ?』
「アタシ? アタシは――」
「先代魔王様です」
答えたのは青髪の少女だった。
「久しぶりですねジーク」
『おおっ! これはこれは初代魔王様!? お久しぶりでございます!』
ルルの顔を見るなり、現れた悪魔が床に着地して跪いた。
「ん? 初代って?」
「さあ。何かの勘違いでしょうエリーゼ様……そしてジークよ、今の私は魔王宮の
こほん、とルルが咳払い。
「エリーゼ様、この悪魔は五代目魔王様の使い魔です。ここしばらく姿を見せないなと思っていたのですが、ここで宝を守っていたとは」
「へえ。じゃあ倉庫のどこに何があるか知ってるよね?」
使い魔を見下ろして、エリーゼは正面の封印櫃を指さした。
「ねね、アタシも歴とした歴代魔王だからさ。いわばアンタの主の後任だし、ここにあるお宝を一つわけてもらってもいい? 肉体活性の魔水。成長を早める秘薬があるって聞いたんだけど?」
『ああ、確かにございますとも!』
使い魔が、ある方向をさっと指さした。
エリーゼたちの背後。今まで歩いてきた道を。
『そこの角を曲がったところでございます! 宝石を加工して造った酒瓶がありまして、五代目様はそこに例の秘薬を隠しておられました!』
「……え?」
「……は?」
「……へ?」
ルル、魅亞、そして最後にエリーゼの声が綺麗に重なった。
すぐ後ろにあった封印櫃。宝石を加工して造った酒瓶。
それはもしや……
「ねえルル?」
ゆらり、とエリーゼは隣に控える側近を見上げた。
「そういえばさっき、あの飲み物を飲んだらこう言ってたよね。『急に身体が熱くなってきた』って。ねえ魅亞」
「オレも確かにそう聞いた」
うんうんと頷く波の将魔。
使い魔からの話を聞いて、さすがの魅亞も事の重大さが理解できたのだろう。
「オレが思うに、それこそ例の秘薬の効果では……」
「…………」
青髪の少女が黙りこむ。
その実、額から滝のように汗を流し初めて。
「ルルが全部飲んじゃったよね。あれ? するとアタシの分は……」
「お、お待ち下さいエリーゼ様! そしてジークよ」
ルルが見下ろすのは、いまだ跪いたままの使い魔だった。
かつてエリーゼが見たこともない高圧な眼差しで。
「ジークよ、あらためて尋ねます。肉体活性の魔水はどこですか」
『……え?』
「あなたは長い間眠っていたせいで記憶が曖昧になっていたでしょう。肉体活性の魔水なんて最初から無かった。そうではありませんか?」
『…………』
「どうですかジーク」
『っ! そ、そうでした初代魔王様!……じゃなくて
使い魔が慌てて敬礼。
『ルル様の仰るとおりです。我としたことが勘違いを。肉体活性の魔水なんてものは存在しません。いやー、失礼しました。あははははっ!』
「――というわけですエリーゼ様」
ふう、と額の汗をぬぐう氷の将魔ルル。
普段の優しい微笑をうかべて。
「ここには何もありませんでした。やはり古い記録などアテになりませんね。さあ帰りましょう」
「うんわかった! 無いなら仕方ないよね!」
エリーゼも大きく頷いて。
「って言うわけあるか――――――――っっ!」
怒りの叫びを轟かせたのだった。
「こらルル、アタシの秘薬を返しなさい! 吐け、今すぐこの場で吐いて戻しなさい!」
「いやぁぁぁっ!? エリーゼ様にはお酒はまだ早いですってば!」
家政婦のスカートをひるがえして逃げだすルル。
怒りの形相で追いかけるエリーゼ。
『……あの、何が起きたのですか?』
「悲しい出来事があった。それだけだ」
その場に遺されて――
ぽかんと首を傾げる魔王の使い魔に、魅亞はそう答えたのだった。
なお、その十年後の
先代魔王エリーゼは、今なお身体を戻す方法を探している。
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