第05話 虫かごの中

深紅の瞳は、船団に視線を移しました。

「してお主は、アレをどうやって攻略するのじゃ!?」


蝙蝠女こうもりおんなは、光の巫女と私の対決…いえ…、

ノアとイブの対決か…どちらか解りませんが、対決自体を楽しんでいるようです。


三百年前のあの時もそうでした。


―― 最終決戦

『ソル率いる八人の巫女 v.s 三貴竜』


そう、あの時も、蝙蝠女はただただ楽しそうに、その戦いを見下ろしていましたね。

それはまるで、虫かごの中で殺し合う昆虫達を、上から笑顔で覗き込む、子供のようでした。



今は、事実を答えましょう。

「残念ながら、私には倒すすべがありません」


蝙蝠女は、期待していた答えが返って来たようで、したり顔です。


「自身の弱さを理解しておる奴は、いつの時代もつわものじゃ…お主もじゃが、あやつも自身の弱さを認めておる」

私に向いていた深紅の瞳は、再び船団に向かいました。


白い子供のような足をプラプラさせながら、蝙蝠女は、語り出しました。

「あやつは自身の弱さを、その強烈なカリスマで見事にカバーしよった…あやつの側近達は、一人ひとりが巫女達と対等に戦える逸材じゃ…」


私は沖へと舵を切る船団を、見つめていました。

光の巫女一行は英断を下し、撤退するようです。


「私にもし、カリスマがあったとしてもダークエルフは、私しかいませんし…三百年ずっと孤独でした…やはり私は、光の巫女には勝てませんね」


私の予測では…あくまで予測ですが

今、起こっている巫女達による争いには、何の意味もありません。

勝とうが、負けようが…。

生き残ろうが、命を落とそうが…。


しかし、予測の域を出ない間は、私も死ぬ訳には行かないのです。



蝙蝠女は、街から離れた崖の上を見ながら、目を輝かせ笑っています。

悪知恵を働いた子供、そのものです。

「ちょうど良いところに、近接最強トリオが来たようじゃぞ…剣、血、闇…どれかひとつ、お主の配下にしたらどうじゃ!?」


仕方ありませんね……。

しばらく、蝙蝠女の手のひらの上で

様子を見ましょう。


このヴァンパイアにこそ

絶対に勝てませんから。



「儂はいま、ワクワクしておるっ!

光の巫女+側近 v.s 魔の巫女+物理巫女

いいのぉ!楽しそうじゃのぅ!」


五隻の船団が去る街の空に

甲高い少女の声が響いていました。

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