第04話 蝙蝠

私は、僅かな魔力をゆっくりと《イブの杖》に注ぎ、貯め込みます。


広場で、光の巫女が何かおっしゃってますが、聞こえない振りをしましょう。


もう少し、もう少し…。

ソルのせいで、力がほとんど出せません。


光の巫女が連れてきた人間達にも《ノアの杖》による絶対守護が張られていますね。


まぁ良いでしょう。


狙うのは船舶です。


礼儀を知らない光の巫女一行には

帰ってもらいましょうか。


私は船団に振り返りました。


《イブの杖》に貯まった魔力を一気に解き放ちます。


雷帝らいてい!」


空から、幾つもの光りが一斉に落ちました。


この街は、白い雷光に包まれ何も見えません。

全方位、真っ白です。


続いて、大地がうなりを上げて震えます。


その振動が身体を打ったあと、忘れていたかのように、轟音ごうおんが耳に届き、脳を襲いました。


まだ、終わりません。


雷帝らいてい!」


再び、辺りが雷光一色に支配されます。

この光景は、いつ見ても綺麗で飽きません。


振動が収まらない大地に再び振動を。

轟音が響く空間の中に再び轟音を。



街の至るところから黒煙が立ち上りました。

連続する落雷に、岩が溶け始めたようです。

…調子に乗り過ぎました。


船舶は、甲板に穴が空いたものや、火が回りだしたものが見えます。


さすが人の上に立つ教皇、光の巫女ですね。

あの落雷の最中さなか、光の巫女は船団に戻ってました。

そして今、すでに船団に復旧の指示を飛ばしています。



「久しぶりじゃの、わしは魔法を三百年ぶりに見たぞぃ!」


背後から、三百年振りに聞く少女の甲高い声がしましたね。


あまり、関わりたくない部類の生物です。


私は振り返り、言いました。

「今日は本体の蝙蝠では、無いのですね?」


真っ白い肌に、白髪ショートの少女。

深紅の瞳と唇がアクセントを生み出し可愛らしさを演出しています。

しかし唇から覗く牙が、彼女が少女ではなく、齢一千年を超えるヴァンパイアであることを隠しきれていません。


「こっちが本体じゃわぃ!」

大きな死神の鎌を逆さに持ち、その刃に座ったまま、宙に浮く少女が頬を膨らませて答えました。

どちらが本体でも、構いませんが。


ヴァンパイアは、私と《イブの杖》を見ながら言いました。

「あの大戦後ソルは、のちに大きな脅威となる魔法と、剣の巫女を弱体化させたはずじゃが…?」


「ええ、三百年掛けて、やっとここまで力を取り戻しました…私の力はまだまだこんなものではありません」

《イブの杖》を見上げ答えます。

三百年連れ添った《イブの杖》です。


ヴァンパイアは足をプラプラさせながら続けました。

「剣の巫女は、全く力を取り戻せておらん!お主は中々やるようじゃのぅ」


…ヴァンパイアに、誉められました。

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