第03話 天敵

光の巫女は私を消そうと、石畳の上を疾走して来ました。


しかし、遅いですね……。

そして、あまりに正直過ぎる攻撃です。


私は石畳の上を飛び、一気に間合いを詰めました。


「…くっ!」

光の巫女は、白く輝く《ノアの杖》を水平に振り抜こうとしていますが、当たりません。


三百年前の彼女と同じですね…攻撃向きでは無いのでしょう。


一気に間合いを殺した私は、光の巫女のふところからそらに飛びます。


直後、私の下を《ノアの杖》は通り過ぎて行きました。


ドレスの裾が、光の巫女の髪を撫でながらちゅうに舞い、ヒラヒラと風になびきます。


難なく《ノアの杖》をかわした私は、光の巫女の後方に着地し、振り返りました。


さて、光の巫女は…三百年前の彼女と同じように《ノアの杖》の能力を充分、引き出せているでしょうか。


…試してみましょう。


《イブの杖》に弱り切った魔力を、注ぎ込みます。


《イブの杖》は、私の魔力に反応し紫紺しこん色に輝き出しました。


光の巫女が、再び迫って来ています。


見せて上げましょう。

これが…世界から忘れ去られし『魔法』です。


獄炎ゴクエン!」

まずは炎。


《イブの杖》で増幅された魔力は、自然原理へと転換され、解き放たれました。


渦を巻いた炎は、空気中の酸素を食い荒らしながら、光の巫女を包み込みました。


空気が灼熱に焼かれ、辺りの雪は水蒸気へと変わります。


吹き上る水蒸気の中心で、渦を巻いていた火炎が四散しました。


光の巫女は、何事も無なかったかのように火炎を蹴散らし、現れました。


やはり…


再び、《イブの杖》から魔力を放ちます。


氷獄ヒョウゴク!」

氷の結晶となった空気中の水蒸気は、音を立て結合し、氷の矢となりました。


光の巫女の突進を向かえ撃った氷の矢は、次々と光の巫女に触れ、消えて行きます。


間違いないですね…。


宙に浮いた私は、つい、放っていました。

召雷ショウライ!」


天から地へ光が走り、遅れて、空気を裂き破る音が響きます。

雷は見事に、光の巫女の脳天を貫きました。


…光の巫女は、当然無傷ですが。



私は、高く宙に飛び上がりました。


光の巫女が振るう《ノアの杖》は、絶対守護の力を持ちます。


物理的ダメージは、即、治癒…。


魔法による攻撃は、光の巫女の身体に触れる事さえ許されず、身体を覆う白い光により完全無効化されてしまいます。



魔の巫女にとって光の巫女は

…いわゆる天敵と言われる存在なのです。



あ、そうそう…。

今、下から私を見上げている光の巫女は

ちゅうにいる私に攻撃する手段を持ちません。

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