メリー・メリー
「ハッハッハ・・・ここまでくればアイツも追って来れないだろ・・・」
あの二人がハンザキに襲われている最中、一人の女が山の中を走っていた。その様子は何かから逃げているように見えるだろう。実際そうである。山の中にドンドン進んでいく女であったが、道中の適当な廃工場に入ると、その入口を閉め、閉じこもる。そしてようやく一息ついたのであった。
「クソ野郎が・・・わざわざ化けて出てくんなよ・・・!死んでからもあたしの邪魔ばかりしやがって!」
「そうだね」
「!」
廃工場。もとより誰もいないはずの場所である。だが今まさに声がした。誰の物かはわからない。だが確かに聞こえた。それは少年のようにも、少女のようにも、また老いた老人のようにも聞こえる物であり、彼女は辺りを見渡す。そして見つけた。
金髪に赤い目、白い帽子にそれと同じ色のワンピースを着た、色白・・・と言うよりは血が通っていないような、そんな肌をした少女のようにも、少年のようにも、どちらにも見える何かがいた。
「君が・・・鈴木、いや、『赤羽』
「・・・なんで私の名前を・・・」
「ハンザキから聞いたんだ。君の本当の名前をね」
なれなれしく話しかけるソレ。ソレは彼女の周りをまわりながら、あることを話し始める。
「・・・本当の?あなたは何を言っているの?」
「・・・昔、そう、今から十年前、ある犯罪者が街をにぎわせた。それはあまりにもひどい殺し方をしたもんで、裁判にかけられることなく、死刑にされてしまった。だがそれ以降もその死に方が目撃され、ハンザキ男として呼ばれるようになった・・・」
「そうね」
「そして君の夫でもある。・・・犯人が死んでいる以上、警察もどうしようもないと捜査しなかった。ちょうどその時、法の暗黒期だったしね」
「そんな都市伝説が何だっていうのよ!?」
「お前だろ。真犯人」
低く、そこに響くような声。こちらの全てを見透かされているような、あまりにも直接的な宣言。だが彼女はそれを笑う。
「はーっはっはっは!何を言い出すかと思えば・・・馬鹿じゃないの?私には不可能なの。アリバイはあるのよ。夫が二人を殺した時間、私はいろんな人に見られてる。アリバイならいくらでもあるのよ?そんなことを言い出すなら証拠を持ってきなさい証拠!ま、無理でしょうけどね」
勝ち誇ったかのようにまくし立てる女。だがそれでもソレは冷静だった。そしてソレはこの廃工場からある物を取り出す。
「成程・・・あくまで殺していないと・・・まぁ。確かに証拠がないなら僕もこんな事は言っていないよ。・・・つまり証拠あるんだよ」
「・・・はぁ?何言ってるのよある訳」
「あの死体を、冷凍庫にぶち込んで冷やせば・・・いつだって犯行は可能になる。要するに
お前が殺せるチャンスは幾らでもあった訳だよ」
「何を根拠にそんなことを言ってるのよ!?第一、ここにそんなものある訳ないじゃない!」
「いや?あるんだよ、ここには」
そう言うとソレは一枚の看板を手に取る。そこにはしっかりと、冷凍加工業者専用工場。と書かれていた。そしてそれは、女の夫が経営していた会社の一つでもあった。
「冷凍加工業者ってなら、冷凍する装置は間違いなくあるだろうし、それに真っ二つにする機械もあるだろう・・・?何より、君の犯行が計画的じゃ、無かったとしたら?」
「・・・どういうことだ?」
「簡単な話だよ。君は多分、ついカッとなってそいつを殺しちゃったって事」
「何でそんなことが言えるのよ?!」
「理由は大きく分けて二つ。一つ目はもし計画的犯行だった場合、こんなことはしないからだ」
「・・・?何を言いたいの?」
「要するにもしお前がそいつを殺したいと思えば、綿密に計画を練るだろうね。だって、十年。十年もバレなかったんだから。・・・でも、この犯行だけは事情が違う。・・・なぜかって?それは簡単」
「お前は夫がいながら不倫していた」
「・・・なんでそのこと知ってるのよ!?」
「調べたからな」
そう言うとソレは奥へ進んでいく。そして持ってきたのは解体用マシン。それを彼女に見せつける。
「これでしょ?犯行に使われた現物。思わず彼を撲殺してしまった君は・・・不倫していた男を殺害した。ではなぜわざわざ二人を繋げたのかこれが二つ目だ」
「・・・私がその彼とやらを殺した前提で話が進むけど、私が殺してないって思わないの?」
「うん。お前以外に殺せる人物がいない」
「・・・なんて?」
「まずお前は彼に会いたいとメールでも何でも使ってここに呼び寄せた。初めはただの口論だったんだろ?しかし君は頭に血が上りやすい性質だった。・・・そして工場に落ちていた鉄パイプかなんかで・・・その彼を撲殺。そして気が付いただろうね。とんでもないことをしたと」
「それが真実だとして、何でわざわざ二つに割いて縫い付けたのか、理由がないわよ。・・・第一、山にでも埋めればいいんじゃない?」
「いや。お前はそれをしなかった。なぜか?お前は犯人になりたくなかったから。だ」
「・・・何を言っているの?」
「要するに・・・お前は一生を犯人として生きる気はなかった。だからお前は他の人間に擦り付ける為に、そして殴った怪我を隠すために、その不倫相手の女を殺害。そして繋げてしまい残った片方の死体を海にでも沈めれば・・・計画の第一段階が完成する。それにもし、ここでの犯行がバレたとしても、お前には後ろ楯があった」
「第一?まだ何かあるのかしら?」
「あるよ。お前は夫に罪をなすりつける為に、様々な手回しをした、例えば事実無根の情報をメディアに回した。阿保のマスゴミ共はそれを疑うことなく週刊誌に載せた。お前の夫はなんてったって社長だったからねぇ?まだ若い御曹司的な。その結果悪評が広まり・・・そしてアレだ」
アレ。それは十月三十一日、ハロウィンの時期であった。その日、その事件は起こった。
「警察が乗り込んだ時、残虐死体と隣にチェーンソーを持った男・・・誰がどう見ても犯人には見えないよね?でもその時期、警察も腐ってた。結果、碌に調べもせずに・・・夫は逮捕、そして・・・ああ。哀れ」
「待ちなさいよ!証拠が結局ないじゃない!あんたの妄想も大概にしなさいよ!」
「・・・じゃ、証拠を見せようか?」
彼は懐から、あるものを取り出した。それは棒。鉄の棒であり、そこには血がべっとりと付いていた。それを観た女はうろたえる。
「見覚えあるよねぇ~?だってお前が犯行に使った奴だもんね?」
「・・・どこからそれを・・・!?」
「当時の警察は確かに腐ってた。でもちゃんと正義の心を持つ奴もいた。そして時効になった今、この証拠を私に貸してくれたってわけ」
「・・・」
「出たよ。お前の指紋が。そして相手・・・君の不倫相手の血がね」
「・・・」
「そして後ろ楯ってのは、ここで殺しても最悪夫がここで殺したって言えば・・・成立する」
黙り込む女であったが、しばらくするとまた笑い始める。だがそれはどちらかと言えば嘲笑であるが。
「まさかお前みたいなガキに気づかれるとはねぇ・・・!」
「・・・それが本性か?」
「そうよ!第一、アイツなんか金しかないのよ、取り柄が!ゴミみたいに糞みたいな言葉をささやいて愛がどーだの恋がどーだの。馬鹿じゃないの?私が欲しいのは金!金なの!」
「・・・不倫相手は?」
「アレはいい男だったんだけどねぇ・・・私のことを裏切った挙句、結局アイツも金目当て。・・・クソ野郎だわ。だから殺してあげたのよ!愛する人と一生一緒になるようにね!」
「お前は?」
「私?私はいいのよ!だって。そうでしょう?男が女に貢ぐのは当然。だったらアイツから何もかも搾り取っても問題ないって事よ!」
「・・・そして、同じようなやり方で・・・何人殺した?」
「さぁ?ま、二桁程度の人間が死んでも、別にいいでしょ?私の事を馬鹿にした罰よ罰!」
「・・・で、今の男と結婚して、子供も生まれた・・・と」
「そうよ!悪いかしら?それに、もし警察に行っても無駄よ、だってもう時効ですもの。誰も私を捕まえることはできないのよ!おーっほっほっほ!」
「・・・そうだね。人間は、ね」
「・・・?何言ってるのよアンタ」
と言っていると重い扉が開く。誰だと後ろを振り向くと、そこには女の現夫がいた。
「やあハニー・・・話したいことって何だい?」
「・・・?何言ってるのよ、私はあなたに電話なんてかけて・・・!」
ここで気が付く。一体誰が電話をかけたのかを。ソレは静かにほくそ笑むと、スマホに顔を近づける。
「私よ。私」
その声は間違いなく、女の声であった。そして男にソレはこう電話をかける。
「私、メリーさん。今あなたの後ろにハンザキ男がいるの」
「はぁ?何言って」
彼の股を再起不能にしながら出て来たハンザキ男。そして頭まで切り抜くのに、時間がかかったのか彼の表情は歪み、悲鳴がこだまする。そして男だったものが二つ、床にべしゃりと倒れ伏すと、今度は女に向かって歩き出す。
「・・・皮肉にも、あんたが作ったハンザキ男という概念が、あんたを殺すよ」
「やめて!私の事を忘れたの!?あなたをずっと愛してたじゃない!あの男は・・・そう!遊び相手!ただの友達なのよ!」
何という掌返し。だが必死の命乞いも、ハンザキ男には届かない。そのままドンドン距離が無くなっていく。遂に女は壁を背にしてしまった。
「違うわ・・・私があなたを殺したわけじゃないのよ!?そうよ警察!警察に行きなさいよ!なんで私を殺そうとするのよ!?」
すると、ハンザキ男は別の場所に視線を向ける。それをチャンスだと思ったのか、女は走る。しかし足にチェーンが巻かれ、その場で転んでしまう。そしてハンザキ男が持ってきたのは女が被害者を真っ二つにしたあのマシン。それに彼女をセットしていく。
「嫌よ・・・なんでよ!?なんで私なのよ!?やめなさい!?私が悪いわけじゃないのよ!?」
「くどい!とっとと死ねよ!ババア!」
「ババア!?ババアですって!?ぶっ殺してやるクソ野郎!」
「おーコワ・・・」
無慈悲に進む拘束。女はもう恐怖で体から流せるものは全て流していた。そしてマシンが作動する。
「いや!いやいやいや!!」
だが、マシンは経年劣化による故障で動かなくなってしまう。これにはハンザキ男も予想外だったのか、直そうとしている。そのうちに逃げようともがくが、ここでメリーさんが女の手足に釘を刺す。五寸釘を手足にぶち込まれた女の悲鳴が上がる。
ハンザキ男は修理を諦めた。代わりに自分のチェーンソーで止めを刺すことにした。という訳で台車のようにその台を動かすメリーさん。途中で拾った注射器(使用済)を打ち込み、いざ。殺害。
女は死ねると思っていた。だがその考えが甘いことに気が付く。なぜか気絶できない。その理由は考えるでもなかった。あの注射器である。中身は何だ、そう考えていると、股の部分が完全にぐちゃぐちゃになった時、メリーさんは一旦その台を離す。
「あ。言い忘れてたんだけどさぁ・・・お前に売った注射器、アレ覚醒剤なのよ。しかも結構ヤバいタイプの。ま、気絶できると考えない方が・・・いいぞ?」
そして。ハンザキ男再び事件から一か月後、誰の記憶からも事件の記憶が無くなりかけていた矢先。この死体が見つかった。だが厳密に言えば死体ではない。なぜか?半身だけ生きているからである。
その死体、半分は男の死体、半分は女の死体。この状態ですら完全に奇妙な物なのだが、更に奇妙なことに半分は警察が来るまで生きていたとのことなのだ。
「いや~・・・アレはヤバいっすよ。マジで。なんせか細い声で、『コロシテ…タスケテ…』って呟くんですもん。・・・ちょっとちびっちゃいましたね」
警察によると、その死体は十年前に殺人犯として捕まり死刑になった夫の妻であり、探せば出るわ出るわ証拠の山。かくして彼の汚名ははれ逆に女の方はクソ女と言うようになってしまっていた。
「・・・で?これでよかったの?」
「・・・俺は・・・アイツらを殺せれば・・・それで満足だ・・・」
「そう。ま、別にどうでもいいけどね」
「・・・あの世に・・・行くさ・・・地獄に・・・な・・・」
「じゃーねー」
そしてハンザキ男の体だけがそこに残った。どうしようかな?と考えていると、突如としてその死体が動き出す。思わずびっくりして落ちそうになるメリーさんだったが、そこは耐え、どうなっているのかを確認する。
「・・・この体・・・使えるな・・・」
「・・・?誰?」
「俺は・・・『結びの神』・・・この体で・・・人間たちを結ぼう・・・」
「そうなんだ・・・ねね、私とコンビ組まない?」
「・・・?なぜだ?」
メリーさんは、無邪気に。だが信念を持って彼に話す。
「もっと楽しみたいから!この世界を!」
「・・・そうか・・・好きにしろよ」
「ホント!?じゃあまずは・・・」
これが真相である。
果たして次に現れるのは誰の目の前なのでしょう。
しかし気をつけてくださいね。もし一生一緒だよと言い。
それが彼の耳に聞こえてしまったら・・・
『私、メリーさん!今あなたの後ろに・・・』
ハンザキ男とメリー・メリー 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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