ハンザキ男とメリー・メリー

常闇の霊夜

ハンザキ男


知ってる?ハンザキ様の噂。ハンザキ様の噂。

人間を真っ二つにして二度と離れ離れにならないように、くっつけてあげるんだって。

だけどもみんな彼の行為を否定するんだって。

そしてその日はお盆の日。ハンザキ様のお通りだ。


「兄ちゃん・・・怖いよ・・・」


「安心しろ。俺が守ってやる!」


この二人は鈴木という苗字の兄弟。毎年お盆の日に母親はなぜだか出張してしまうので、彼らだけで生活することになる。とはいえ隣の住民や親戚が彼らを助けてくれるので大丈夫なのだ。だがそれでも夜というものは怖いようで、弟は兄の体をつかんで離そうとしない。


「大丈夫だよね?」


「あぁ。大丈夫だ」


その年は兄弟の母親が結婚して十年たつ日。そんな日に、何かが彼らに迫っていた。それを発見したのは昼頃だった。彼らが親戚の家に行く道中のこと。


「・・・今日は母さんが出張でいない日か・・・」


「・・・?兄ちゃん、あれ何?」


「あれ?・・・なんだあれ」


それは顔の全体を包帯で覆い、片腕には仰々しいチェーンソーがついている、明らかに浮いている存在であった。兄弟は気味が悪かったので近寄らなかったが、道中祖母の家に行き、ある話を聞いた。


「あなたたちの生まれる前に、奇怪な事件が起こってねぇ・・・猟奇殺人っていうのかしら?真っ二つにされて生きたままくっつけられるんだって」


「怖い!」


「ウフフ。冗談よ、それよりお菓子食べる?」


「食べる!」


「いいんですか?」


「いいのよ、久しぶりのお客さんだもの」


そして彼らがお菓子を食べようとしたその時、彼らにとって見えてはいけないものが見えた。それは先ほどの怪物。確実にこちらに近づいている。


「・・・ねぇおばちゃん。・・・あれ、見える?」


「・・・?何のことかしら?」


見えていない。まだ幼い兄弟であっても、それを理解するのに時間はかからなかった。そして彼らはお菓子を貰って帰ると言い、そのまま帰ろうとする。窓に張り付いた化物から逃げるように家から出ようとする。


「じゃあねおばちゃん!」


しかし前を向いた瞬間、化物は彼らの目の前にいた。先程まで窓にいたのにである。


「うわぁっ!?」


そして弟を連れて逃げようとする兄。祖母には化物は見えていないので、二人がなぜそんな反応をするのかわからなかった。


「・・・いったいどうしたのかしら?」


近くのコンビニまで逃げる二人。あの化物、足はそんなに速くないようで逃げ切ることは容易であった。しかしこのまま追われ続ければいつか捕まってしまうのか確実。であれば大人にどうにかしてもらうしかない。そう考えた二人はコンビニに行くと、そこにいるバイトをしている、最近陰陽師に鍛えてもらっている知り合いの兄ちゃんにどうにかしてもらうことにした。


「兄ちゃん!」


「うおっどうしたお前ら」


「化物が!化物が俺らを殺しに来る!」


「・・・何言ってんだお前ら、化物なんて・・・おるやん」


どうやら彼にも見えているようであるが、その影を見ると明らかにやばいと判断したのか、即座に電話をかける。


「もしもし?」『何?』


二人はその声を聴いてどことなくガラの悪い感じを覚えた。


「あの・・・なんか化物?がいるんですけど・・・どうしたらいいですかね?」


『あ?テレビ電話にしてくれ』


「了解です」


そして彼は化物を映す。それを見た電話の相手は彼にこう告げる。


『無理。ま、お盆終わるまで逃げれば勝手に帰っていくぞそいつは』


「・・・だそうだが・・・」


二人は参ってしまいそうだった。あれから一日中逃げなくてはならないのか。しかしやらなければどうなるかわからない。ゆえに彼らは逃げることにしたのである。が。


「・・・おしっこ」


ここで弟が催してしまったのか、トイレに行こうとする。ドアが開いているコンビニトイレで用を済ませている間も、化物はだんだんと近づいている。そして用を足し終わった二人は、すぐさま逃げるように立ち去るのであった。


「・・・あいつら大丈夫か・・・?」


そして二人が次に逃げたのはプールであった。彼らはホラー映画などを見ており、こういう場所では有利が取れる、そう思ったからである。入場料を払い、そこそこ大きいプール場へ入る。水着はその場所で買った。


「・・・今のところは来てないみたいだな」


「そうなんだ・・・」


辺りを警戒する二人、更衣室ロッカーを開け大事なものを閉まっていく。服は籠に置いておいた。警戒しつつ遊んでいる弟であったが、そんな中一個のドアを見つける。それは別のエリアに行くために開けなくてはいけないドア。しかも自動ドアではない。


「・・・まぁいっか」


そのまま別のエリアに向かう弟。兄は昼飯を買ったが、弟を見失ってしまった。係の人に弟の居場所を聞くと、あっちのドアを通って行ったと聞く。というわけで追いかける。弟はすぐ見つかった。なのでそこに関してはどうでもよかったのだが、この場所、かなり奥になっており、更に戻るためには一個しかないドア以外に行く場所がない。真ん中から四つのエリアに分かれているのでなかなかに厄介な場所である。


「・・・ここでアイツに来られたら・・・やばいね」


「うん。やばいよね」


お前が勝手に来たんだろ。そう思っただろうが二人はまだまだ幼い兄弟。そこを考える脳みそはまだ小さいままである。そして彼らは逃げられるようにドアを開け前の場所に向かおうとしていた。そして彼らは開けてしまった。


いた。目の前に。化物が。


「うわぁーっ!」


チェーンソーを振り上げ彼らに振り下ろす寸前、二人はとっさによける。チェーンソーは床を砕き、そのまま沈んでいく。化物が地面に引っかかっている間に、二人は逃げることにした。そしてこの場所はもうだめだ、と言う訳で帰るためにロッカーを開ける。


チェーンソーだけが彼らに襲い掛かった。


二人は少し離れた場所にいたので、間一髪で助かったが、このままでは家の鍵を取ることができない。しかし機転を利かせる二人、タオルを化物目掛け投擲、水で濡れたタオルはべっちょり張り付き化物の顔面にあたり、彼の視界を封じる。


「今だ!」


そのまま鍵を回収すると、逃げるように自動ドアから退散するのであった。


さて、あの化物が何者なのか、彼らには知る必要があった。図書館に行くとそれっぽい本を探して、調べてみることに。その中の一冊、『都市伝説!?恐怖昔の伝導本』とかいうふざけた本にそれは載っていた。


「ハンザキ・・・男・・・?」


「なにそれ?」


詳しく読み込むと、それは猟奇殺人事件の犯人の亡霊で、ターゲットに指定したやつを死ぬまで追い詰め半分にして殺し、そのまま半分を別の人間とくっつけてしまうという、恐ろしい怪物であった。


「間違いないよ!こいつだ!」


そしてご丁寧に弱点まで載っていた。まず熱に弱い。火を浴びせれば逃げてしまうとのこと。そして電撃に弱い。風呂に水を張って適当な電子機器をぶち込め!とのこと。


「・・・本当に効くのかな?」


「でもやってみるしかないよ!」


「そうだな!」


そういう二人であったが、ここでもう一度確認のため、本を開くことにした。


再びチェーンソーが彼らを襲った。本棚を貫通し切り刻むその光景は彼らにとっては完全に恐怖映像であった。そのため逃げるように出ていく二人。今はどこもかしこも自動ドアなのか、ここも例外ではなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


ここで彼らはあることに気が付く。それは化物が出てくるタイミングである。


「なぁ。今さ・・・一度開いた本を閉じてから開けたよな?」


「そうだよ。というか閉じなきゃ開けないじゃん!」


「・・・まさか・・・」


彼は小さな紙を折り、開く。


化物が指一本だけ出てきた。


「わかった!閉じて開けば出てくるんだ!」


「てことは・・・」


「あぁ。多分撃退できる!」


そしてホームセンターで重要なものを買うと、そのまま家まで帰る。


「・・・僕らだけで対峙してやる!」


そして彼らは自分の家をトラップハウスに改造した。決して一度開けたら閉めぬように注意しながら。そして完成した、トラップハウス。まず彼らは一度閉めた段ボールを外側にあける。これで先制攻撃を食らうことは無い。そして床一面にオイルをぶちまけておいたので、滑る化け物。今のうちに彼らはキッチンまで走る。そしてガスバーナーを手に取ると化け物めがけ、投げつける。完全に炎上している化け物を片目に、下の階に逃げる。


そして風呂場にたどり着いた二人は、ここでも段ボールを閉めた物を置いており、天井のそれを開けると炎上した化け物が水の中に落ちる。そしてコンセントを刺したままのドライアーを風呂に向かって投げつけ、化け物に大量の電撃が襲う。


「やった!」「倒したぞ!」


しかし化け物は死んでいなかった。完全に再起動するとそのまま兄弟めがけて歩き出す。


「・・・全然聞いてない・・・」


「嘘だろ・・・!?どうすればいいんだよ・・・」


とはいえ動き自体は遅いので、そのまま二階に逃げる二人。だがここで固定電話に電話がかかってくる。弟はこれを母さんからの電話だと思い、その電話を取ってしまう。そこから聞こえてきたのは確実に母親の声ではなかった。


『・・・私、メリーさん』


「ひぃっ!?」


少女と少年と老人を合わせたような声に、受話器を投げるが、その声は止まらない。


『私、メリーさん。・・・ハンザキ男が、あなたの後ろにいるの』


そのおぞましい一言に、弟は後ろを振り向く。否、振り向いてしまう。だろう。


いた。先程まで一階にいたハンザキ男が、いつの間にか二階にいる。兄もその事実に気が付くと、弟をまだ開けていない部屋に連れ込む。


「いいか。ここを絶対にあけるんじゃないぞ!」


「うん!」


涙目になっている弟を元気づけるようにそう言うと、兄は外に出る。


「こっちだ化け物!」


下からは機械の排出音が鳴り響き、様々なものが壊れる音がする。弟は震えて待つしかなかった。そして一体いくら位の時間が過ぎたのだろうか?まだ朝は明けない。そして音も止んだ。散々鳴っていた音が、止んだ。


何事かと弟がドアに近づいたその時、ドアが開かれる。兄が手を差し出してくる。勝ったんだ、兄ちゃんはあの化け物に勝ったんだ。迷うことなくその手を掴む。


「兄ちゃん!」


喜び、兄ちゃんがもう大丈夫だというのだろう。もう追いかけられることは無いのだろう。しかし。だが、だがしかし。


そこにいたのは兄の半身。それがドアに立てかかっているだけであった。力なく倒れる体。顔は恐怖で歪み何があったのか何となく察する。そして次の標的が自分であることも。咄嗟に奥に逃げるが、そもそもここは部屋の中、悲しいことに窓からは逃げられない。そして彼自身の逃げ道も、完全に断たれてしまった。


「嫌だ!死にたくない!助けて!誰か助けて!」


深い絶望の声。その声を聴く者は一人しかおらず、そしてそれは助ける気もなかった。無機質なチェーンソーの音が響き、そのうち悲鳴もなくなった。


後日。


コンビニの兄ちゃんは気になったので彼らの家に行ってみることにした。


「・・・警察?」


そこには大量の警察がいた。何かあったのだろうか、そう思って彼は裏口から家に侵入する。


「・・・これ不法侵入か?」


まぁそれ以前にその程度の事はしているか。そう考え二階へ。そして子供部屋に着くと、中からは強烈な異臭が鼻を襲う。血が腐り、蛆が湧いているのだろうか、蠅のような音まで聞こえる。


「おい!貴様何している!?」


「ゲッ!」


ここで見つかってしまうが、警官の一人がそれを止める。そして中を見るように命じる。ちゃんと手袋をつけさせて。


「・・・なんで昨日アレに関わるなって電話してきたんですか?」


それは彼の師匠。陰陽師の師匠であった。師匠は静かにこう言い放った。


「お前じゃ死ぬだけだ。・・・それにアイツに言われてたのさ。『邪魔するな』ってな」


「・・・それで彼らを見捨てたんですか」


「うんにゃ?そうは言ってないだろ。・・・まぁ、ほとんど見捨てたも同義か・・・」


中を見た兄ちゃんは吐きそうになるのを抑えながら、その光景をひしひしと見ていた。それは最悪の光景。彼らは一つに繋げられ、ぷらぷらと宙に浮いている。顔は恐怖に歪み、そしてどこから斬られたのか、一目瞭然であった。股間から頭にかけて斬ったことがわかる。


「・・・これが、ハンザキ様だ。・・・間違っても、手を出すんじゃぁ・・・ねぇぞ?」


「ウッウゲロロロ・・・はい・・・」


一体何故この二人をハンザキ様は襲ったのだろうか?

その答え。教えましょう。

この事件の真相を。


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