第2話
「Alexa、今日の天気を教えて」
「今日ノ天気ハ、雷雨デ…」
まただ。また雷雨だと言う。
Alexaの天気予報は当たった試しがない。
今日も部屋干しにするか。
熱すぎるコーヒーに氷を入れて温度を下げながら、寝室に向かって早く起きなさいと叫ぶ。
眠い目を擦りながら子供達が起きて来る間に、ハムエッグとトーストを焼いてテーブルに並べ、コップに牛乳を注ぐ。
せっかく氷を入れて温度を下げたコーヒーの代わりに、私の口には歯ブラシが突っ込まれている。
あと30分早く起きればもう少し余裕があるのかもしれないが、そんな暇があるなら1分1秒でも長く寝ていたいというのが本音だ。
今さら、立派な母親になったところでなんになる。
半ば諦めとも投げやりともとれる心境を歯磨き粉の泡とともに排水口に流し、手早く髪をまとめる。
もう何年美容院に行ってないだろうか。
「専業主婦なんだからお洒落なんかしたってしょうがないでしょ。髪なんか長くても短くても誰も見ないよ」
記憶の片隅で、夫がそう言って嗤う。
私はまだ、その呪縛から完全に解き放たれてはいない。
ポニーテールの君が好きだとラブレターを貰ったのは小学4年生の頃だったか。
たまには違う髪型でまとめてみたいのに、あれこれ悩む時間もなく、結局今日も同じ髪型で落ち着いてしまう。
もう一生ポニーテールでもいいや。
コロナの影響で仕事が忙しく、自分の身のことなど構っている暇がない。
「たまには違う髪型にしたらいいのに」
そう言う子供達に、そうだねーと笑顔を向けながら担ぐようにゴミ袋を持って収集所へと走る。
まったく、生きてるだけでどうしてこんなにゴミが出るのか。収集所への道程が忌々しい。
慌ただしくゴミを出し、子供達を幼稚園へと送りとどけて職場へ急いでいると、不意に後ろから声を掛けられた。
驚いて振り向く私に
「どうしました?なんか急いでるようだったけど」
大丈夫ですか、と小さく続けながら上司が言う。
振り向いた私は、きっと殺気立った険しい顔付きだったに違いない。
そんな表情を知ってる人に見られてしまったバツの悪さに赤面しながら
「あ、いえ、そんなことないですすみません」
と、また謝ってしまう。
もう謝らなくていいのに。謝ることなんかないのに。
「ちょっと、仕事に遅れそうだったから」
と言い訳のように続け、じゃあ、とその場を離れようとすると
「仕事…ですか?ねこかめさん確か今日は…」
と言いながらスマホを取り出し
「休みですよ」
とシフト表が写し出された画面を差し出された。
あぁ、もう。
私の人生いつもこんなだ。
何が雷雨だ。空はこんなに晴れているのに。
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