テーマ:リモコン 腎臓とリモコンと

 まあ入りたまえ、さあさあ遠慮なく。今日君にうちまで足を運んでもらったのはほかでもない。リモコンの話を聞いてもらうためだ、さあ掛けたまえ。ちょっと痩せたんじゃないかって? そうだな、最近の生活がとても満ち足りてるからかな。なぜかって? そう焦るなよ。それを聞いてもらうために来てもらったんだから。

 君も知っているように最近の科学の発展は目覚ましい、実に素晴らしいことだ。騒音ゼロの自動掃除機や、その日の気分によって変わってくれる壁紙。入るだけでその日のコーディネートを完璧に提供してくれる寝袋なんてものも話題になったよな。でもな君、一番すごいものを私は見つけてしまったんだ。それがこのリモコンだ。何がすごいかって? このリモコンは離れていてもテレビや電子機器を操作することができるんだ。それって普通のリモコンなんじゃないかって? まあ待て。例えば今、私は料理番組を見たいと思っている。そんな私がリモコンを押すとほら、勝手に料理番組になっている。流行りのドラマを見たいな、と思ってみるとほら、ドラマを映してくれる。それだけではない、最近健康に気を付けていて、腎臓に良いというチベットの薬草が欲しいなと思っていると、もう勝手に注文してくれる。すごいだろう、ご主人の思考を推測して望むものを提供してくれるんだ。かの有名な猫型ロボットも驚くだろう、何せポケットを漁る必要がないのだから。

 かなり値段が張るんじゃ無いかって? いやいや、タダだったんだよこのリモコンは。こんな素晴らしいものがタダでもらえるなんて、つくづくこの時代に生まれてきて良かったと思うね。

 でもね、君。いくら便利な世の中になったとはいえ、それを利用するのはいつも自分、便利さに利用されるようになったらおしまいだよ。何事も節度が肝心。君も気をつけるんだよ、ガハハハハ。


 その頃、コントロールセンターと呼ばれる部署で先輩職員が後輩職員とこんな会話をしていた。


 おい新人、見ろよこのガハハハハって笑ってるお客さん、まだ気付いていないみたいだぜ。よしそれなら行けるところまで行くぞ、骨の髄までな。いいか俺たちの仕事は、お客さんをうまくコントロールすることだ。あのリモートコントローラーはスイッチが押されると、特殊な電波を発生する。それでお客さんの頭をリモートにコントロールして、私たちの指定したものを見たい買いたいという気持ちにマインドコントロールできるんだ。その後は簡単、その欲しいものを提供するだけ。しかも隠しカメラがついていて、あっちの行動はこっちに全部筒抜け。こんなことができるなんて最近の科学はすごいよな。

 あのお客さん、最初は健康とか芸術とか全く興味がなかったのに、あんなに薬草とか絵画とかを買わされている。しかも自分が欲しいと思わされていることにすら気付いていない。かわいそうだって? でも見てみろよ、あの満足げな顔。俺らは間違いなく良いことをしてるんだよ。

 ほらまたうずうずしてリモコンのスイッチを押している、自分から何かを欲しがりたいと思ってるんだよ。今度は何を欲しがらせてあげようかな、そうだこの銅像を買わせよう、それではリモートコントロール開始!


 ガハハハハと笑い終えると、お客と呼ばれは男は続けた。

 そうそう、最近芸術にも興味を持ってきてね、実は銅像を買ってみようと思ってる。銅像があると毎日の暮らしが楽しいよ、心が豊かになる。芸術の趣味を持つって本当に素晴らしい。でもこの前買った薬草がちょっと高かったからお金が足りないな、どうしようか、ちょっとリモコンを押してみよう。お、あったあった解決策が。こうすればお金が手に入るのか。すごいねこのリモコンは、こんなことまで教えてくれるんだから。じゃあ今から私の腎臓を一つを売りに行ってくるとしよう、腎臓は一つ無くなるけど銅像がうちに来たらまた呼ぶから、是非また来てくれ、それではまた。

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