第3話 緑の少女

 少しづつ記憶の断片に紐が掛かっていく。

当時、オリンピック開催に合わせて父が東京へ転勤となった。


それから、毎日、遊園地で過ごすんだと、変な期待感が生まれ、この日が来る事を楽しみにしていた。


そして、引っ越し先の家へ電車に乗って移動する途中で、私は持ち前の期待感と好奇心の性で、2人とはぐれてしまい、「武蔵」という字がカッコいいという理由だけで、勝手に下車して街中を1人で散歩していた。


きっとこの事件があったからこそ、自分の子供を厳しく躾けたんだろう。


当然、こんな破天荒な行動が続く筈もなく、すぐに都会の痛みを伴うような暑さに負け、事の重大さにやっと気付いた。


唯一の救いは、リュックの中にあった炭酸ジュース。

既に温かくなっていたが、渇きを潤すのに十分だった。


なんとか、再び歩き始めるが、「とにかく、暑い」。

東京への関心は次第に薄れていき、脳裏に浮かぶのはその単語のみ。


どこよりも発展している場所なのに、まるで何も無い砂漠の中に迷い込んだ様。

時折、ビルの日陰で休むが暑さは風に乗って、容赦なく襲ってくる。


もう、汗を掻いても補給する水分はどこにもない。

口の渇きが全身に拡がった時、私は「後悔」の単語の意味を心で理解した。


そして、遂に心身共に限界を迎えた時、深緑の香りを身に纏った彼女と出会ったのである。

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