ルナ&ムーン

フラットライン

プロローグ

第1話 予感

  眠れない……


  夜の匂いが立ち込め、窓からは月明かりがあやしく射し込んでいる。ときおり何かが軋むような音以外は、せきの音一つしない。


 私は一人膝を抱え、ひたすら一つのことを考えていた。


 神月こうづき美守理みもり…神月美守理…神月美守理…神月美守理…


 予感がする……


 それも、何となくといった曖昧なものではなく、確信めいた予感だ。


 予言と言っても過言ではないかもしれない。


 神月美守理…神月美守理…神月美守理…神月美守理…


 そう遠くない未来に、とんでもないことが起きようとしている。人類が死滅してしまいかねないような、未曾有の大事件が。


「神月美守理…神月美守理…神月美守理…神月美守理…」


  いつの間にか口に出してつぶやいていた。突然頭の中に湧いてきた、会ったこともない人物の名前を。


 だけどその正体不明の人物に思いを馳せているときだけは、不吉めいた予感から逃れることができた。今はお守りのように、その名前が胸の中を温かく満たしている。


 一体、神月美守理とは誰なのだろう?


 膝を抱えていた手を開いてみると、汗でぐっしょりと湿っている。



 ───神経がたかぶっている……



 まるで、巨大な怪物ににらまれているような緊張感だった。


 今にも暗闇の中からその怪物があらわれて、巨大な牙と剥き出しの爪で飛び掛かってこないだろうか……気を抜くと、そんな妄想にりつかれそうになる。まだまだ眠れそうにはない。


 私は暗闇を避け、月明かりへと目をやった。月は今日も夜の女王として、美しく君臨している。


 その瞬間月が急激に輝きだして、目の奥で火花が散った。洪水のように膨大な量の情報が私に流れ込み、脳にとてつもない負荷がかかったのだ。


 私は情報の濁流に飲みこまれながら、溺れないように必死でもがき続けた。


 息が苦しい……もしかしたら錯覚なのかもしれないけど、このままでは……



 ───どれだけの時が経っただろう。途方もなく長い時間に感じるけれど、現実では数秒のことなのかもしれない。



 私の思考回路は情報の奔流ほんりゅうによって破壊の限りを尽くされたらしく、何も考えることができなくなっていた。


 けれど、…?


 知識も経験も遥か彼方へと追いやられた私の脳内は、探し物をするのにはかえって都合が良かったらしい。私は一つの結論へと至ることになる。


「神月…美守理……?」


 そして、私の意識はブラックアウトした──

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