第4話 日常

 すっかりボロボロになった俺を、まなかがいつもの集合場所に搬送している。この雪が降っている中でもまなかは平常運転。俺は異常運転。


 その集合場所というのは天国の辺境にある神社で、そこに諸星と星歌、ついでにくるとくんが集まっていた。


 星歌は神社周りの掃除をしていて、諸星は魔物の上に乗って昼寝をしている。ちょっと待てや、魔物の上に寝ているって何!? どっから持ってきたっていうか、何やってんだコイツ......


 この神社は巫女である星歌がいろいろ管理しているのだが、ここは森の奥深くにあるので、俺達以外に参拝客とかが来ることはあんまり無い。まあ、こんな所にわざわざ来る人なんていないよな。


「また遅刻だな、星夜。よーーし! 今回も俺の勝ち! くるとよ、なんで負けたか明日までに考えておいてくださいや。アハハハハ!」


「僕の大事な10万がーー! 10万そのものがぁぁーー!」


 あら? いつのまにか諸星と愉快な仲間たちの茶番が始まっているな。諸星はくるとくんを盛大に煽り散らかしている。


「これはなんもかも先輩のせいですよ。うわぁぁぁ!?」


 くるとくんがさながら猿のように発狂しながら泣きじゃくっているのだが、何事?


「俺、また何かしちゃいました? いや,俺は特に何もしてないけど......」


 くるとくんは完全に絶望してそうな顔をしながら俺の問いに答えてくれた。


「僕は先輩が遅刻するかしないかを賭けていたんです。ちなみに隊長は遅刻するに50万賭け、僕は遅刻しないに10万賭けてました。それがこの始末ですけどね」


「50万ジュフフ......これでいろんなことが出来るわい。このあと夜の街に行ってあんなことやこんな事を、グヘヘヘヘ......」


 もしかして諸星はリーダーじゃなくて典型的なダメ男なの? 諸星くんは比較的顔は良さげなのに、なんかいろんな部分で損しているよねーー。後、ジュフフってなんだよ。もしかして笑い声なのか? 


「アヒャ? 何故かは分からんが、星夜にゴミを見るかのように見つめられている気がする......」


 普通にお前の事そう見るだろ......。ていうか......つまり俺はいつのまにか賭け事のお題になっていたわけだ。よし、この瞬間からツッコミという役職を放棄しよう。そう俺は心に誓った。もう捌き切れません。


 もう勝手にしてくれ。金は今、俺が一番欲しいってのに......これはなんもかも俺の家に風穴を開けた破壊神まなかのせいだ。弁償しろ!


「はあ......ラチが開かないからこの変態隊長に代わって私が説明するね。さっそく昨日の件の続報が来たのが、今回皆さんに集まってもらった主な理由なんです」


 あっ。君も諸星のこと変態だと思ってたんだ。よかった、こいつの毒牙にかかって無くて。


「星歌......なんかいろいろゴメン。諸星の事は後で直々に俺が叱っておいてやるから。それで、その理由ってなんだ?」


 こんなカオスな状況だが、俺はその流れには絶対に乗らないぞ! さあ、続報を教えろ!


「.......あれ? 私、このまなかの存在が無かった事になってない?」




◇◇◇◇◇◇◇

[数分後]


「つまり、明後日ぐらいに異世界情勢が変わりそうだから備えとけと言うわけか」


 星歌は頷く。


「そう。情勢が変化したら神官さんが直々に伝えにくるらしいから、それまで待機してろ。らしいよ」


 そうか、俺達はこれから異世界に行くのか。実感というものがあまりない。


「先輩。野暮な事を聞いてもいいですか?」


 すっかり頬が痩せこけたくるとくんが聞いて来た。


「どうした?」


「なんで神は異世界人に神々の能力を分け与えたんですか? そして何故神は僕を産んだんですか? ううう......誰が産んでくれと頼んだ。誰が作ってくれと願った......」


 前者は異世界は危険がいっぱいだから神々が配慮したんだろうなーー。それが、今の状況に繋がるわけだけど。てか俺達が出撃しなくても神々が直接能力を奪えば済む話じゃないんか? いや、出来ないからこんな状況なんだろうけどね。


 後者は、まあ.......ドンマイ!


「そもそもなんで、いわゆるチート能力者達を神々は脅威に感じているのかな。略奪とかは別に傍観しててもいいと思うのに」


「ごもっとも。まなかの言うとうり異世界で起きてることなんだから傍観でいいと俺も思う。別に俺達が出撃しなくても大丈夫だと思うんだがな」


 ん? なんだ! 後ろの方から巨大な魔物の気配がする。俺は大剣を手に持ち戦闘態勢に入った。心身喪失しているくるとくんを除いた3人も気付いているらしく、すぐさま戦闘態勢に入る。


「魔物狩りの始まりじゃ! これを本職にしている男を舐めるなよ! タコ殴りにしてやるぜ!」


「ギガインパクトの制御よし! ぶっ放すよ!」


 なんか2人共暴走しそうだな。心配だ。相手はノロマな相手だから苦戦はしなさそうだけど、油断は禁物だ。


「今回は私の出番無いかな?」


 この様子だと星歌の役割は無さそうだ。廃人化しているくるとの世話をしといてほしい。



    ◇◇



 魔物がさっそくエネルギー弾で無差別攻撃を仕掛けてきている。これを俺の自慢の大剣で全部弾き返す。この魔物、攻撃自体は単調だけど周りの被害がヤバくなりそうだな。ここが森の中でよかった。


 そろそろ決着をつけようと、俺は地面に大剣を振り下ろす。上手い感じに地割れが起きて魔物の動きを封じることができた。そうする事によって味方に攻撃チャンスを作りだすことが出来る。


「オメガインパクト!」


 まなかが放った光が魔物に直撃し、大きく揺らぐ。


「清流(せいりゅう)星(しょう)龍(りゅう)波(は)」


 魔物は2人の攻撃をモロに受けて跡形も無く散っていった。なんかさ、毎回思う事があるんだけど、化け物威力ってこういうもんなんだなぁ.......とかね。果たして、コイツらの攻撃をものともしない奴らが今後現れるのだろうか?


「フンッ! 屁でもなかったな。図体がデカかっただけだ。それにしても化け物みたいな風格だったな、さっきの......」


 諸星は涼しい顔でそう言ってるが、あの魔物は普通の人なら大苦戦しそうな強さなんだ。つまり、アホみたいな攻撃を繰り出せる君達の方が化け物。


 そんな化け物の1人である諸星が急に改まって、みんなに話し始めた。


「いつまでクヨクヨしてる、くるとよ。さっき星歌から聞いたと思うが、みんなは当日までにコンディションを整えておくように。以上だ。解散!」



     ◇◇◇◇


「ピーピー! あの星夜が星の都落ちの如く帰ってきやっさ」

「はいはいお前ら留守番ご苦労さん」


 諸星の命令により、俺達は異世界当日まで、パーティーは一旦解散ということになった。天界の魔物討伐については、当面の間代わりの人達がやってくれるらしく、本当の休暇のようだ。とりあえず時間の余裕が出来たので、俺は今からまなかの攻撃によって壊れた家を修復するとしよう。


「いや......直そうにももう無理じゃね?」


 そうは思ってみたものの、家は土台から壊れていていつ倒壊してもおかしくないような状態だった。その土台の他にも、家を支えるのに必要な柱の焼失、そもそも壁がなくなってるなどの、新たに建て替えた方がいいんじゃないかと思うような酷さだ。


「おい! そこのお前!」


 そんな家の現状に嘆いていると、後ろからクソガキみたいな声を発していて、振り返ってみたら謎の美少年風の男に突然話しかけてきた。見ず知らずの少年は多分あまりの惨状に俺のことが可哀想に思い、こう話しかけてきたのだろう。やっぱり天界の人達は暖かい心の持ち主ばかりだな。泣きそう......


「お前だよ! 聞こえてんのか? もしやさてはお前、耳が腐ってるな? だから俺様の問いかけにもかかわらず反応一つも無いのかーー!」


 前言撤回するわ。この男は普通に訪ねてきた人だった。正直俺は、家の喪失感でソウルハートが燃え尽きている。そんな時、初対面では絶対に関わりたくないような特徴を全て持っているような奴が現れたもんだから、俺の精神のライフがどんどん削られ、余計に情緒不安定になっている。


「お前に聞きたいことがあるんですけどーー。オーイ!」


 精神が不安定になっている俺は少しの間、迫りくる複雑な感情を押さえ込むことに専念し、そのあとにその美少年に要件を聞こうとした。だがその必要は無く、勝手にそのクソガキ少年が話を始めやがった。


「おっ! やっと反応したなーー! 俺様の名前は疾風丸湊(しっぷうまるみなと)それでさ、本題に入るんだけどいつもの世界に戻る方法知らない?」


 このクソ......湊はいろいろあってこの天界に来てしまい、今本来の世界に戻る方法を探っているようだ。通りでなんとなくいつも見るような顔じゃないなと思ったよ。


「いやぁ......それにしても珍しいなぁ。まさか人間がこの天界に来る日が来るなんて思ったこともなかったわ」


 やっぱり天界に住んでる人と人間はほとんど同じだよなーー。とか思いながら俺は湊をまじまじと観察する。当の本人は困っているようにこう言った。


「こりゃ参ったな。お前でも知らない? ウーーン。このままじゃまずいな」


 待てよ......これは貴重な労働者確保できるんじゃね? 実は湊を元の世界に帰す方法はいくらでもある。天界はいわば世界の玄関とも言われるぐらいの、いろんな世界に行き来できるんだ。


「仕方ない、本来は別の人がやらなきゃいけないはずだけど俺が案内してやる」


 こうは言ったが、もちろんコイツをただで返すわけにはいかない。少しだけ手伝ってもらう。


「ただし......条件がある」

「そっ、その条件はなんだ?」


 湊はさながら攻撃チャンスを伺っているかの如く身構えながら訪ねている。そんなに警戒しなくても簡単なやつだから安心しろ。


「少しの間だけでもいいから、この家を直すのを一緒に手伝ってほしい。頼むよ!」

「はぁ?」


 ほら、簡単なお願いだろ? 当の本人は案外拍子抜けっぽそうだな。多分コイツは俺とのタイマン勝負を期待していたのだろうが、生憎こっちはそれどころじゃないし、そもそも争う気はさらさら無いのよ。


 それに湊は元の世界に帰りたい。俺は家を修復したい。見事に利害関係が一致しているじゃあないか? ていうかさ、もうとにかくお願いします! 天界で野宿生活はしたくない!


「まさかここに来て土木作業に勤しむなんてだれか予想したよ。仕方ない。俺様の将来の嫁の元に帰るためなら、なんでもしよう。それで俺様はどこまで手伝ったらいいんだ?」


 案外素直に条件を飲んでくれて、ぶつぶつと文句を言いながらもいろいろと手伝ってくれた。初対面こそ最悪の印象だったけど、案外いい奴なのかもな。



     ◇◇◇◇◇



 俺の住む家と湊が言っていた異世界の入り口は案外近かった。俺は湊に君が帰りたい世界を想像してみて、てな感じって命令し、俺はというと入り口を創造するための準備をする。


 ちなみに俺達は今、異世界に通じる扉に来ている。この扉は、帰りたい場所を想像しながら扉を開くと、帰りたい場所の何処かに繋がるらしい。


「これで帰れるんだろうな? もし帰れなかったら途中まで直した家をぶっ壊しに行くからな!」


 そんなに言われても、元の世界に帰れるという確証は無い。なんでかっていうと、俺自身まだこの扉を使ったことが無いからだ。そもそも本来ならこんな場所に異世界人が来ることがないはずなんだがな。ん? ちょっとまて? じゃあコイツはなんでここに居るんだ?


 その疑惑の人にさりげなく視線を向けてみると、湊は何もない所に何かをやっていて、とにかくジーーと集中しているようだった。嫌なオーラ纏っているとは思っていたがまさかな......?


 いやいや、考えすぎだな。そんな都合良く遭遇するはずは無い。事情は何にせよコイツは遭難者だ。その遭難者を無視したら、俺がモヤモヤするわ。


「世界の扉が開いたよ! ここか?」


 うむ。ザ•前文明的な世界だな。確かこの世界は魔王やらいるけど、基本的に平和だし、空気が綺麗。つまり一言で言うと比較的安全な世界。


「そうそう! ほんのり中世チック感漂っている懐かしい異世界だーー! 俺は帰ってこれたぞーー! ありがとう、君のおかげで待ってくれている人の所に帰ることができたよ! 君の名前は?」


 いやーー。清々しいほど最高の笑顔だ。俺は特に手伝ってないし、その上に、しかも俺の例の家の奴もいろいろと手伝ってくれた。コイツは聖人か?


 その流れでコイツが俺の名前を聞いてきたので、気持ちよく教えてやった。正直、俺って天界の中じゃ偉い立場じゃないからさ、そんなんでも、1人の人間として、名前を覚えてくれていると嬉しいなと、心の中で呟きながら。


「星の子......星の子星夜さ」

「星夜ね。覚えたよその名前を。お前がピンチになった時いつでも呼んでくれ。必ず恩返しにいくからよ」


 その言葉を最後に奴は扉に吸い込まれていった......



◇◇◇◇◇◇◇

次回に続く

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