第2話 異世界チート野郎
ホワイトボードに一通り書いているけど、なんか重要な部分を書き忘れていたから、少々長くなるけど説明しよう。
「神官さんはこう言ったんだ。『お前達パーティーはこの天界随一の強さじゃ。正直天界で狩りをするのは退屈だろう。そこで提案があるんだがな......』」
少し息を整える。続きを話しそうとした時、突然『ちょっと待てよ』と俺の中にある疑惑の心がそう囁ささやいた。いきなり凄い事に選ばれてしまった事を星歌に言ってしまったら、この子の精神状態が持たないんじゃないか? ただでさえ、この子はノミの心臓っぽいのに......
一旦隊長に相談したかったけど、ぶっ倒れた女『名前はまなかと言う』の介抱に向かってるからなぁ......話してよいのだろうか?
「あらたまってどうしたの? 私の精神が持たないから早く言ってほしい」
おうそうか......分かった。覚悟ができてるなら言うよ。だけど星歌については、覚悟というよりただの開き直りに見えるがな。
「まあいいや。今から本題に入るから耳かっぽじってよく聞いていろよ」
この提案とは『異世界で暴れまわっている暴れん坊を止めてほしい』とのことだった。俺はこの時『これは提案じゃねえ。確実に頼まれてる』と、どうでもいい事を考えていた。だけどなんだろうな......問題はそのあとなんだよ。
「その暴れん坊というのは、神々の能力を宿した転移者達だったのさ」
「聞いたことがあります。一般的に異世界人と呼ばれる人達ですよね?」
俺はうなずきつつ、話を進める。
「俺はこいつらの事を有名な小説からワードを取って、チート野郎と呼んでいる。そのチート野郎の一部の奴らが下界で暴れまわっているらしい」
「つまり神様は私達にその人達を止めてほしいって事を言っているんですか? まさか......」
その問いに頷くと星歌の顔がみるみる強張っていく。それは何かに絶望しているかのように。
「待って下さい! 止めろって言っても私達パーティーは魔物相手に実績を残しているだけで、対人戦の経験が全く無いんですよ! しかもあろうことか強そうな相手と戦わなきゃいけないなんて......星夜さん! 今すぐ断りましょう!」
面倒事を察するとすぐに断りたくなる悲しい定だのお持ちの星歌よ。その断る提案絶対出ると思ってたよ。
俺が星歌に説明しようとしたが、その前に誰かの声に遮られてしまう。その声の正体は壁の死角からひょっこりと覗いている諸星だった。
「いやーー! やっぱり女の子が絶望している顔って凄く興奮するんだなぁ! なあ星夜!」
「お前はもうお願いだから黙ってくれ! ていうかくるとくんの手伝いはどうした!?」
「はいはい。戻りヤーース」
これが諸星クオリティってやつだ。もうここまで来ると清々しいよな。信じられないだろうが諸星がこのパーティーのリーダーなんだよね。
「諸星さんは置いといて......断りを入れるのはダメなんですか? 私は反対します!」
「それがなぁ......そうにもいかんのよ。最初は俺も大反対だったんだがな」
◇◇◇◇
あの日、この提案というか依頼を聞いた瞬間、俺は椅子から転げ落ちてしまった。
諸星の様子を見たら明らかに動揺していたが、なんとか言葉を絞り出したかのように恐る恐る質問していた。『待ってほしい! 俺達パーティーが選ばれたのは光栄に思います。ですが俺達には荷が重すぎると思うんですよ』その言葉が咄嗟に出たのは素直に凄いと思ったわ。こうゆう時頼りになる諸星隊長!
それに対して神官さんはこう言った。『だがお前さん達は、凄腕のパーティーだと聞いたんだがな? しかも神様の1人から直々に推薦されている程だからの。大丈夫だろ。ハッハッハ!』とねぇ......
◇◇◇◇◇
「神様から直々の推薦? 私達のパーティーがですか!? 嘘だよね!?」
「俺も最初は自分の耳を疑ったよ」
なんせ俺達はしがない防人天使の1人だ。そんな無名な俺達に何故、神様に推薦されたのか? それは神官さんの口から直接語られていくことになる。
◇
俺は神官さんに、『何故俺達なんかが神様に推薦されたんですかね?』と聞いてみた。神官さんは『そうくると思ってたよ』と言いながら、おもむろにタバコに火をつけてそれを吸う。この時の俺の心境はというと、なんで一神官がこんなゴツい鎧を着ているのかなと思っていた。
「なんかさっきから神官さんよく喋りますよね。私の印象としては親切な人。きっと優しそうな顔に違いないでしょう」
星歌がそう分析しているが、実際は往年のオッさんだったぞ。それでも、面倒見が良さそうだし慕われてそうだ。
「うん」
ちなみにこの当時の俺は、こういうタイプの人物はうっかり自分から秘密情報をバラしてしまいそうなタイプだと、この頃は思っていました。
◇◇◇◇◇
神官さんが言うには、最近の異世界人はチート能力により手がつけられなくなっている。そいつらが天界の天下を狙って乗り込んで来たら、いよいよまずい状況になるようだ。それ以外でも天界には魔物の異常発生が起きている事にも、異世界人が関わってきているらしい。後者はどう関わっているかは教えてくれなかったから詳細は分からない。
そもそもこんな提案を出した神が責任取ればいいと思うが、その神は行方をくらましていて、どうにもならない。
その異世界人は略奪やクーデターとかをやっているらしいが、それはさっき説明したから省略するとして、そんな奴らの暴走を止めるべく、神々は個別に使節団を派遣した。
その使節団はいろいろあって壊滅する。なんで壊滅したのかは俺には教えてくれなかった。
何はどうであれ交渉は決裂。仕方なしに天国は討伐部隊を導入する事になった。それで選ばれたのが俺達でしたってわけ。なんで俺達が選ばれたかだが正直俺にもよく分からん。だってそのあと、『後は諸星と神官だけで話すからお前さんは帰ってもよいぞ』と言われ追い出されちゃったもん。詳しい話は諸星に聞いてくれ。
ちなみに神官さんによると、俺達の他にも選ばれてしまった可哀想な人達が少なくとも3チームあるらしいね。
◇◇◇◇◇
「星歌さん。ここまでホワイトボードに書いたけど分かった? ウーーン。なんか先生をやってる気分だ。本当に星夜塾を始めてもいいかも?」
あれ? 諸星だけが戻ってきた。くるとくんや泡を吹いてぶっ倒れたまなかさんは? 多分だけど休憩しているのかな。
「辞めとけ。星夜なら3日も経たずに飽きると思うからな」
諸星もういいのか? てか何気に酷い言い草だな。俺は3日坊主とでも言いたいのか?
「あの......副隊長。結局神様の推薦とか話されてないのですが......」
えっとこの話はなあ......
「この話は後に回してさ、今はこの状況を確認してみようか星夜。星歌」
ありがたい。この話も長くなりそうだったからね。
休憩中の2人については、後で隊長が話しておくらしい。間髪入れずに隊長の話が始まった。
「俺達はいろいろあって異世界転生者を止める役に選ばれてしまったわけで、これから面倒な事をしなくちゃいけない。期間は2年。その間パーティーには特別手当という金が貰えると言うが......」
その金を貰えると言っても微々たる物なんだよなぁ......普通に働いた方が儲かるんじゃないか? はあ、辞退してえ......。
けど、これを蹴ったらいろいろとまずいらしい。どうやらこのままだと天国や神様に危害が及ぶという。その『危害』ってやつは俺も詳しくは分からないんだけどね。別に都合が悪いわけじゃないんだし教えてくれてもいいのに。
「まあ、そう易々と神様から依頼は来ないだろう。みんなは面倒な仕事が増えたと思ってたらいい。ほら、お前らいつも通り天国にいる魔物を狩りにいくぞ!」
諸星はそう言いながら強引に話を終わらせた。
しょうがない。多分、俺達がやらなきゃこの天界や世界が終わってしまうのだろう。よし不本意だけど俺は決めた。俺は異世界に暴れまわっている異世界人を吹っ飛ばす! そしてこの世界の平和を守る!
◇◇◇◇◇◇◇◇
次回に続く
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