星の子星夜は異世界チート野郎をぶっ飛ばし隊
道楽byまちゃかり
序章
第1話 星夜の憂鬱
透き通る青き世界に一粒ポタリと滴の音がした。その滴から芽が芽吹き、やがて樹々になる。樹々は天界に恵みを与え、人々を豊かにした。
ここは天国的で現世的な空間をミキサーでかき混ぜ、仕上げに隠し味のアクセントを加えたみたいな場所。つまりいろんな要素がごちゃ混ぜになっている世界だ。天界とも呼ばれる。
「ちょっとまて!? この本の天界のイメージがめちゃくちゃすぎるんだが? 誰だこの本の作者は?」
あまりの酷さに思わずツッコミを入れてしまい、その本を家の隅に置いてしまう俺の図。隠し味のアクセントってなんやねん?
そんなことより、こんな天界にも普通に朝があり、深い森の中から今日の始まりの鐘がなった。さあ、冒険の始まりだ! てかさ、なんか俺にとって、とても大事な約束事があったよね。というか今何時だろ?
◇
「うわぁぁぁ!? もうこんな時間なのか!? 完璧な遅刻じゃん! この扉は邪魔だ!」
俺はごく普通の一般人である男だ。名前は普通にある。この俺、星夜は現在ピンチを迎えている。ととと、あっちに向かう前に......
「ピー太郎、ピー助、ピー雲来! なんでこんな大事な日に鳴いてくれないんだーー! 行ってくるーー!」
同居人である三兄弟の鳥に適当な挨拶をそこそこに颯爽と突っ走る。
「朝からピーピーうるせえぞアホ」
「ピースクピースク」
「ピーピー」
今日はとても大事な日なのに、こんな時に限って思いっきり寝坊してしまった俺は、家の玄関のドアを吹っ飛ばし、草木を飛び越え、汗水垂れながしつつ、光の速さで疾走しながら、とある約束の場所へ向かっていた。
そんな死にものぐるいで走っていた俺だったが、突然俺の名前を呼ばれて止まってしまう。聴き慣れない声だったので恐る恐る振り返ってみると......
「天界の守護職こと星夜さん。お会いできて光栄です!」
そこには会った覚えも無い初対面のおっさん2人組だった。ああ......。最近の知名度アップがここに来て悪影響を及ぼしてくるとは......
ちなみにここは、下界の言葉で言うと天界という所だ。この天界にはいろいろな種族が平和に暮らしていて、森や海、あらゆる物が共存共栄している。
「おっ! そこの兄さん兄さん! アンタ天界を守っていて、その上いろんな顔を持っている凄え人星夜さんじゃないか! 是非握手させてくれ!」
「あ、どうも。すみません。俺急いでいるので......」
最近はこんな風に呼び止められることが増えてきているなぁ。おじさんにブンブン降りられながらも、握手に適当に答えつつ、俺は右手に持ってるとある物が壊れてないから目を向ける。
「このパーティーは我々天人の誇りだ。これからも頑張れよ! 下界の人間よりも強い星夜さん!」
おっさんが誇らしげそうにそう言う。天人の誇りか......
「俺は別にそんなに強くはないよ。少なくとも下の世界にいる人達よりかは......」
そもそも天人って、下界に住んでいる人間とほとんど同じなんだよね。俺達みんな人間みたいな感情を持ってるし、致命傷を受けたら普通に死ぬ。無理して差別化を図るなら天界に住んでるか住んでいないかぐらいだな。
「おっと。忙しいんだったな。兄さんは魔物討伐やってるんだからな」
「アハハ......そこまで知っているのか......」
そんなたわいの無い話をしていると、突然背後に殺気が襲ってきた。おじさん達は顔が青くなり、片方は泡を吹いている。俺は恐る恐る振り返ってみた。
「ギャァァァァァ!」
「マズい。なんでこんな時に!?」
上半身は魚、下半身は蛇という何かと形容しがたい生物が気色悪い呻き声を上げながら、こちらを見ている。
「なんや!? このいろいろやばそうな魔物はーー!? とりあえずアンタらは俺の後ろに下がっとけ!」
落ち着け自分。冷静に見てみろ自分。コイツは見た目だけヤバイだけで、実際はあんまり強くない筈だ。けど油断はするなよ自分。
「おっさん! ちょっとこの白い板を預けさせていただこう」
「さっきから気になってたけど、これはなんだよ」
「黙れ! 死にたいのか? 死にたくないならさっさとこれを持って安全な場所に避難しろ!」
俺の恫喝でおっさん達をなんとか避難させる事が出来た。
「よーーし。この場合安全に処理したい所だけど、生憎俺は急いでいるのでね。一撃で終わらせてやるわ!」
魔物が俺に向かって突進してくる。それを俺が難なくいなし、その流れで魔物の首を断ち切った。
◇
こうして俺の、いや厳密には俺達の一日が始まった。大分時間を食ってしまった俺は、初対面のおじさんと別れ、全力疾走で目的地へ向かう。
「魔物討伐か......防人としての仕事を果たしているだけだけど、なんか嬉しいなぁ。みんな褒められてるなぁ」
こんな言葉を聞けて俺は内心嬉しく思う。本当は争いなんてしたくないし、みんなだって出来る限り平和主義で生きたいんだけど、世の中そんなに上手くはいかない。
天国も一定の脅威が起きる。それは下界から送られてくる、いろんな感情が混ぜあって出来る魔物の存在だ。
あいつらはぶっちゃけそんなに強くは無い。だが野放しにすると、天国の民に害を及ぼす事になる。それに対抗するべく天国では色々なパーティーが作られた。俺達も幼なじみの諸星隊長と共にパーティーを1から作ったんだ!
俺は基本平和主義者。この世の中の平和維持のために今日も戦い続けるのさ。
◇◇◇◇◇
「無事にみんな集まって来てるな。それにしても、クソ! 諸星の奴、昨日の昼にいきなり面倒事を押しつけて、さっさと夜の街に遊びに行きやがって! 今回は本当に深刻な事態なんだけど、アイツは分かってんのかな? ウーーン考えても仕方ない。俺はやれることだけに集中しよう」
ここは天界のとある辺境の地。俺はパーティー仲間達に、すぐに集まって来てほしいというお願いをした。みんなは俺が最も信頼している防人ハンターだ。
「遅いですよ星夜副隊長。ただでさえ先輩はツンツン髪なのに今日は特に酷い。やっぱり迎えに行っとけばよかった」
「いやくるとくん。これには深いわけがね......」
まあいい、そんな仲間達をこの広場に集めて、俺は高々と宣言する。
「今から星夜塾を始めまーーす! よろしくお願いします!」
みんなが無事集まっているのを確認して、俺はそう言った。みんなはまるで狐に包まれたかのようにポカーンとしていたが、そんな事はお構いなしだ。俺はそそくさと星夜塾の準備を始める。
「副隊長。また変な事を始める気ですか?」
「そうよ! 星夜は昔からロクな事をしないと有名なんだから」
初手反対の立場取るのはやめてもらおうか! まあ、いいや。今有事の事態だから抵抗されても強制的に始めてやる。
「始めるよ。隊長」
苦々しい顔をしながら頷く隊長に俺は少し心の中で愚痴を言いたい。
アンタ、このパーティーがこれから行う事を説明しなきゃいけない立場なわけじゃん? それを全部俺に丸投げしてるよね? それなのになんでそんな心配そうな顔をしているの?
まったく......そんな心配しなくても、俺には『秘密兵器』があるから大丈夫。皆、心して聞いてな!
◇◇◇
この下界、もとい異世界は滅亡しかかっていた。魔族が人間を虐殺し魔王がこの世の頂点に立つ最悪の時代。そんな状況を打破するべく、神々が行った事それは......異世界から勇者を召喚することだった。
神々は早速、日本という国から俺と同い年ぐらいの若い人々を召喚した。多分若い者の方が異世界に適応できるだろうっと考えたんだろうな。
なんで日本を選んだ理由っていうのは、どうやら異世界転生系の小説が流行っているらしいから。ちなみに俺も読者の1人だ。主人公が絶望から成り上がって宿敵を蹴落とすのってなんかスカッとするよね!
その日本から召喚された人々は、みんな美男美女だった。なぜかって? それは......絶対神様の私欲が入ってるだろ!
とにかく、神々は次にこう考えたらしい。『このままあの混沌とした世界に生身で放り出してもすぐ殺されてしまう。そうだ、せっかくだし人間達に神々の力を授けよう!』
こういう展開、日本という国のある小説に似ているんだけど、どうして? 神々が小説をリスペクトしているのか?
まあ話は脱線したが、要するに転生•転移者に強力な能力、いわばチート能力を代償無しで授けたってことだ。チート能力者は次々と異世界の舞台に走り去っていく......
だが、それがいけなかった......まあ、後は皆さんが知ってる歴史だから、『例の秘密兵器ホワイトボード』にまとめなくていいだろう!
「これがこれまでの経歴だ。全部ホワイトボードにまとめたからわかりやすいだろ! 俺偉い! えっへん!」
「ほほう。星夜にしてはよくまとめたな」
何様だ諸星! 謎の上から目線で苦笑も出来ない。けど褒めてくれてありがとう!
「星夜のこと見直したよ! 流石副隊長!」
ハッハッハ! もっと褒め称えろーー!
◇
有頂天になってる俺に1人の男が、さっきの話を疑問に感じたらしく、質問してきた。
「先輩。ちょっと質問いいかな?」
「どうしたくるとくん? 君が質問するとは珍しいね。どうぞ」
くるとくんは俺が直々にスカウトした後輩くんだ! こいつ結構頭が切れるし、整った顔つきで、言われたことをそつなくこなす。隊長と同じくらい信用できる人物だ。欠点があるとすれば、みんなの名前をちゃんと覚えてくれないくらいなんかな?
「えっと......何で先輩がわざわざ昔の話を掘り下げているのかなーーと」
「ああ......」
確かにくるとくんの言う通りだ。だって自分は肝心な本題をみんなに話してなかったのだから。
隊長に目配せすると苦々しい顔をして俯うつむいているから隊長も内心良く思ってないのかも? もしかして俺がこの面倒な案件をみんなに話さなきゃいけないのか......
ウーーン。そのためにみんなを集めたのもあるからなぁ......神様。いくらなんでも無茶振りが凄いよ......
「そんじゃ、ホワイトボードに書くよ......ほら一応隊長も黙ってないで手伝って」
重い腰を上げて俺は伝えたい事を書いていく。隊長も『仕方ねえな』と言いながら手伝ってくれた。
ある程度書き終わった後に事のてんまつを話した。するとパーティーメンバーの中で2人しかいない女が震えた声で聞いて来た。
「星夜、諸星。どういう意味? これはもしかして夢?」
「残念ながら現実だ」
隊長の言葉に衝撃を覚えたのかわからないけど、突然泡を吹きながらぶっ倒れた。倒れる際、胸がポインといったのを俺は聞き逃さなかった。相変わらずアソコはでけえなぁ......
◇
泡を吹いてぶっ倒れた子が居たりもしたが、話を進めよう。ちなみにその倒れた子についてはくるとくんが必死に介抱をしてくれている。器用万能かな?
そんな事を考えていると、諸星が俺の所まで来て話しかけてきた。
「おい星夜。この後どうするよ。さっきの話でまなかがぶっ倒れたし、次の事を話せなくなったぞ」
「確かに......諸星隊長の言うとうりだね。覚悟はしていたけどここまでとは......」
まあ、自分も人のこと言っちゃあいけないんだけどね。初めて聞かされた時、俺も軽く絶望したもん。なんで実質神が創り出したと言っても過言でもないアイツらと戦わなくちゃいけないんだーー。とかを当時思ってた......いや違う、今も思ってるか。
「隊長、たいへんです! まなかさんが呼吸をしてないんです!」
なんだとくるとくん!? だが俺が出る幕も無さそうだ。俺が駆け寄ろうとする前にさっと来ている男がいたのでね......
「よし! 心配蘇生なら任せろ!」
隊長......こんな時にアンタ。どさくさ紛れで胸を触ろうとしてるな。昔からの仲だからもう慣れたけど、ひとつだけ言わせてほしい。流石変態紳士様やなーー。近い将来、本当に手を出しそうで怖いわ。ウーーン。もういいや。
「副隊長さん、ごめんなさい。あまりにも話が長かったので,うっかり寝ていました。ごめんなさい! できればでいいんですけど、もう一回説明をお願いしてもいい?」
腰まで伸びている綺麗な青色の髪をピンクのリボンで結び、それをゆらゆらと揺らしながら、堂々と寝ていた発言をする女がいる。あいつは、自分達のパーティーメンバーにはもう1人の女の子だ。名前は星歌という。ピンクの瞳を擦りながら言っていた。
「おいおい勘弁してくれよ......」
呆れまじりのため息を吐きながら諸星がこう言う。
「ごめんなさい。次はちゃんと聞いてるから! 不眠魔法をかけておこう......」
半端泣きかけながら弱々しく星歌は発言する。ただでさえ誰から見ても可愛い顔をしている星歌が泣いているとなると、なんか許す!
「てか不眠魔法ってなに!? 体に悪そうな魔法を自らの身体にかけるってなにしてるん? 大体この魔法をやる場面としたら......」
諸星くんが必死に星歌の魔法を使うのを止めようとしている。まあ、お前に限っては絶対不純な理由だろうけどな。
よし、もう一回説明しよう! そもそもあれを一回で理解しろが無理に近いし。多少はね。
「ホワイトボードに注目して説明を聞いた方がいいよ。そうだ、質問ターーイム! 楓は今までの人生でイカれたレベルの能力者と対峙したことある?」
「能力者......?」
そう、能力者の話については、ちょっと数日前の出来事まで遡る事になる。
ある日突然、隊長と共に天国最上の所にある最高レベルの天使だけが入れる教会に呼び出された。と言っても俺達はしがないただの天人だ。これと言った心当たりなんて無かった。あるとすれば、上の命令によりパーティーメンバーを募って天国に居る魔物を狩りまくったぐらい。
ちなみに、あの魔物というのは下界の怨念が具現化して現れる特徴があるようだ。最近は魔物の出現が多くなっている気がするけど、詳しくは俺も知らん。
いったいどんな罰を受けるのだろうと勝手にガクブルしながら教会に入っていくと......何故か俺たちは特別待遇を受けた。
「副隊長。今の所、能力者と全く関係無いと思うんですが......」
「今からだよ星歌くん。本題はね......はぁ」
「ごめんなさい!」
「なんで謝るの?」
まあいい。話を戻そう。特別待遇を受けた俺たちは『何か俺、凄い事したっけ?』と思いつつ、おもてなしを受ける。
一通り事が終わると、神官から『話がある』と俺達は別部屋に呼ばれた。そこで俺は聞かされたんだ。今巻き起こっている全世界の危機を......
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次回に続く
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