第7話 秀太郎とリモコン
秀太郎は、昼間、仏間で籐の椅子に座ったまま居眠りをする。その時、よくテレビがつけっぱなしのことがある。秀太郎は耳が遠いので、テレビの音も大きい。だからぐっすりと寝込んでいるのを見ると、家族は仏間に入り、リモコンでテレビを消す。
すると、秀太郎は、さっきまで、いびきをかいて寝ていたのに突如起きるのである
「今、寝とったから、消したんよ」と言うと、「寝とらん」と言ってリモコンを取りまたテレビをつける。
それから10分ほどすると、また、秀太郎の寝息が聞こえてくる。また寝ている。テレビはついたままだ。音が大きくてうるさい。そこで、また家族が、仏間に入ってリモコンでテレビを消す。すると、秀太郎が突如起きる。「今、寝てたがあ」と言うと「寝取らん」とまた不機嫌に答えて、リモコンでテレビをつける。
そんな虚しい攻防が繰り返されて、やがて、家族はテレビの音を消すのを諦める。秀太郎のいびきが「グー、ガガガー」と大きく聞こえてくるけど、もうそのままである。
でも、ある日、泉が反撃に出た。秀太郎はいつものように、テレビをつけたまま寝ている。「グーカー」といびきをかいている。泉はそうっと仏間に入り、リモコンを取ると、まず、少し音を小さくした。それから、秀太郎の様子を見ながら、少しずつふ少しずつ、音を小さくしていった。いわゆるフェードアウトというやつである。秀太郎は目覚めない。泉は慎重に少しずつ少しずつ音を小さくして、ほとんど音が聞こえなくなった頃、秀太郎の爆睡を確認の上、リモコンの電源ボタンを押してテレビを消した。
秀太郎は起きなかった。ぐっすり寝ている。
「やったあ~」と大歓声を上げたいところだが、ここは堪えて、泉はリビングに戻って両親と保に「大成功」と親指を立てた。
みんな嬉しくてたまらない。自ずと小声で「これで静かにテレビが見れるわ」「すぐに起きなきゃいいけどね」など口々に、言いながら、リビングルームでテレビを見ていた。
その日、秀太郎は爆睡の後、リモコンの音量が小さいので、大きくした。「なんでこんな小さい音なんじゃろう」と疑問には思ったが、深くは追及しなかった。要は聞こえればいいのだ。
泉の作戦は今回は成功したけれど、次回通用するかはわからない。それでも、この攻防はこれからも続くだろう。
読んでいただきありがとうございました。
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