第5話 秀太郎のファッションセンス
その日、泉は新しく買ったワイドパンツをはいていた。七分丈くらいで、色はグレー。柔らかい材質で、裾に向かってゆったりと広がっている。今流行りのスタイルだ
朝、秀太郎に「おはよう」と声をかけたら、秀太郎は泉の格好を見て、
「そんな、ズボンかスカートかわからんものを着るな」
と一喝。
「これは、今流行りなんだよ」と泉が説明しても、
「そがんなかっこうは風がわりい(かっこうわるい)」と納得しない。
だんだん腹が立ってきて、
「私が何を着ようと私の自由でしょ」と泉。
「じゃあ、それは、スカートかズボンかどっちならあ」
「どっちでもないよ。ワイドパンツだよ」
「パンツいうたら、下着じゃ。それは下着なんか」
「下着じゃないよ。こういうのをワイドパンツって呼ぶんだよ」
「スカートでもズボンでもないそれは、スカートズボンじゃ」
「だから、それのどこがいけないの?」
「スカートかズボンかはっきりしないところじゃ」
「それはそういうファッションなんだよ。わかる、ファッション」
「わからん。わしははっきりしないものは嫌いじゃ」
いくら話しても、秀太郎は譲らない。結局、話は終わらず、秀太郎は、ワイドパンツを認めない。
泉は腹がたったが、秀太郎にファッションがわかるわけはなく、そのまま、反論は諦めた。
結局「ズボンかスカートかわからないもの」を着てその日は一日過ごした。秀太郎は、ずっとぶつぶつ文句を言っていたが、着替えるのも負けた気がして嫌だったので
そのまま過ごした。
秀太郎のファッションセンスはわからない。いつの日か逆襲してやるぞと心に誓う泉であった。
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