第3話 秀太郎 そば屋に入る
これは、泉が10才、保が7才の頃の話。
秀太郎と2人で散歩に出た時の話。
ちょうど、時刻は昼前、2人は秀太郎と歩きながら、願わくば、お昼ご飯は秀太郎と外で食べたいと考えた。
秀太郎はケチだ。喫茶店でコーヒーを飲もうとすると「家で飲めばただじゃ」と絶対外でお茶したりしない。
その秀太郎に、外食をさせるには、とにかく、ねばるしかない。ちょうど、3人はそば屋の前を通りかかっていた。
ここしかない。
泉は「ねえ、おじいちゃんおおそば食べたい」とねだった。秀太郎は渋っていたが、「ねえ、僕もおそば食べたい」と保にも迫られて、珍しく、財布のひもがゆるんだか「じゃあ、食べて帰るかのう」とそば屋に入っていった。
千載一遇のチャンス。
3人はそば屋に入ると、テーブル席に座った。
その瞬間、メニューも開かずに、秀太郎は「ざる3つ」と頼んだ。
「わたし、天ぷらそばがいい」と泉が反撃、保も「天ぷら、天ぷら」と言う。
そんな2人に秀太郎は言った。
「そば屋はそばを食うところじゃ」
勝ち誇ったように、秀太郎は、ふんと言い放った。
このどケチじじいと泉は思ったが、秀太郎の財布の紐はそう簡単にはゆるまないのだった。保もあきらめたのか、おとなしくしている。
結局3人でざるそばを食べ、店を出て、家へ帰った。
「なんかおいしいもんでも食べてきたん?」
嫁が遅く帰ってきた3人を迎えて言う。
「そば、食べてきた」
「そう、それはよかったが」
確かに、外食できただけでも、もうけもんなのだ。
ちなみにそれから、秀太郎と泉や保が、3人で外食することは2度となかった。
秀太郎の財布の紐は本当に固いのだ。
そう思うと、あのざるそばは奇跡だったなあと振り返って泉は思うのだった。
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