異世界生活一日目
「これが紙でしょ?あとペンで……」
街に入った勇誠達は、クルルーラに案内されて、街を回って買い物を済ませてからカフェのような場所にいた。
「でもお金が最初からあって助かりましたよ」
「一応支度金という形で少しは私たちが持ってますからね。まぁ勇誠さん達みたく紙とペンから揃える人は聞いたことないですけど……」
クルルーラのぼやきに、美矢は苦笑いを浮かべつつ、
「だって先程ギルドに登録してきましたが、受けられるクエストは街中にある薬草園の採集手伝いとか、木の実集めとか武器がおおよそ必要になるとは思えませんわよ?」
「そうなんですよねぇ……難易度の高いクエストは逆に転生者やそれに着いていく人達が受けてクリアしてたりするので、こう言う簡単で誰でも受けられるやつの方が今は受ける人がいないみたいなんですよねぇ」
まぁオルトバニア金貨3枚って破格の依頼料なんですけどね。とクルルーラは言う。因みにこの世界の通貨は、オルトバニア銅貨・銀貨・金貨の三種類があり、銅貨が百枚で銀貨、銀貨百枚で金貨というレートで、大体金貨一枚で一般的な家庭が一ヶ月は極々普通の暮らしが出来る位の価値らしい。それが三枚というのが、どれ程破格なのか言うまでもない。
「腕が立つ人が増えすぎるって言うのも問題なんですね」
「まぁその分私達が楽できるなら良いのでは?」
ついでにお金にも余裕があったので、魔法入門の本を見つけて買っていた魔実と、横から覗き込んでた刹樹が言うと、
「でもアタシはドラゴンとかと戦ってみたかったなぁ……」
「まぁまぁ」
空が残念そうに言い、癒羅が苦笑い。他の皆も絶対やだよと内心突っ込みつつ、
「お待たせしました。グーアのジュースです」
ウェイターの男が持ってきたのは瓶。中にはフラメが呑みたいと言っていたジュースが入っており、何でもこの周辺で良く採れるグーアと言う木の実で作られたものらしい。とても香りが良く、味は洋梨に近い(クルルーラ談)とのこと。ただ木の実のままなら皮があるが、果肉の部分が空気に長い時間触れると香りが落ちて酸っぱくなってしまうため、特殊な加工をして製作されたのち、こうやって瓶に密閉されて運ばれてくる。
そして飲む直前に開栓して飲むのだ。なにせ厨房で開栓して持っていく時間ですら、味が落ちてしまうらしい。なので店の人が開けたら大急ぎで飲み始めなければいけない。だが、
「あ、失礼しました!栓抜きを忘れてしまいまして。すぐに持ってきます」
「あ、結構です」
空は手でウェイターを大丈夫だからと制すると、
「よっ!と」
『え?』
空は瓶を持ち王冠に手を掛けると、そのまま何と引っこ抜いてしまう。クルルーラとウェイターが目を丸くする中、空は王冠を引っこ抜いては、慣れた感じの勇誠達に渡し、
「はい、クルルーラさん」
「あ、はい……」
一番遠くに座っていたクルルーラに行き渡ったのを確認して、空は自分の分の王冠を素手で外し、外した王冠を両手で包んでギュウっと軽く一握り。するとそれは鉄の球体に変わって、
「あ、これ捨てておいてください」
「あ、はい……」
ウェイターは目をまた丸くして王冠だった鉄の球体を手に奥に消えていく。
「うまっ!ホント美味いなこれ!」
「ホントホント」
そんな中勇誠は感動し魔実も同意。それを横目に美矢は、早速買ってきた紙とペンを使って、勇誠用の問題用紙を作成し、癒羅と刹樹はメニューを見てスイーツも美味しそうだと話し合っていた。だが、
「いやちょっと待って下さい空さん!?」
『ん?』
クルルーラは、いやいや待て待てとストップを掛ける。それに対し皆はキョトンとし、
「今のなんなんですか!?え?王冠を素手で取ったんですか!?あ、今転生者の身体能力向上が……」
「別に空にとっては対したことじゃないですよ。たまにテレビで見るじゃないですか。あとこれいつもの世界でも普通にやってますよ?」
「いやまぁ確かにそうですけどあれは明らかにゴツい人が殆どじゃないですか!それなのに空さん普通に見たら小柄な女の子ですよ!?て言うかこれ普段でも出来るんですか!?」
カラカラ笑う勇誠に、クルルーラは突っ込むが、
「でもこいつ瓶切りでホントに切っちゃう奴ですよ?」
「へ?」
勇誠に言われ、クルルーラは首を傾げた。あれは瓶切りと言ってはいるが、切ると言うより砕くに近い。それをホントに切るとは……?何て思っていると、
「んじゃ見ます?」
「え?」
空はそう言って瓶の中身を飲み干すと、テーブルにそれを置いてそのまま横に腕を振る。すると次の瞬間ゴトっと言いながら瓶が丁度真ん中辺りで、上下に真っ二つになり、テーブルに上の部分が落ちた。
「えぇえええええ!?」
クルルーラは思わず身をのりだし、切った断面図を指でなぞる。ヒビやザラつきは一切なく、綺麗なものだ。
「え?今なにしたんですか!?なんかこう呼吸を整えて……的なのはないんですか!?」
「クルルーラさん。実際襲われたりしたらそんなことする余裕ないですよ?なのでうちの一族には座ったままや、寝たままの状態でも対処できる動きや、無理な体勢でも力を出せる様にしてるんです。まぁ今の瓶切りはちょっとしたコツですけどね。力は全然いりません。必要なのは速さです。肩から先の力を抜いてから、一気に加速して振り抜く。ね?簡単でしょう?」
お前だけだよ。そう勇誠は突っ込み、他の皆もウンウンと頷く。
「す、凄いんですね……」
「まぁ小さい頃から鍛えられてましたから。お陰で並みの男なら負けない位にはなりましたよ。ただまぁ鍛えすぎて腹筋なんかバキバキに割れちゃってますけど」
空はそう言いながら服の裾を巻くって見せると、それは見事なシックスパックがそこにはあった。フラメはすごーいと言いながら、割れた腹筋をつついている。
「すっご……女性で腹筋がそこまで割れるって大変ですよね?」
「んまぁこれも小さい頃からコツコツと鍛えてたからですかね。うちの一族に古来から伝わる秘伝の鍛え方もありますけどね。でもアタシとしてはもうちょっと筋肉よりここに肉が欲しいんですよ」
そう言いながら空は自身の胸を揉み揉みする。それを見たクルルーラは、
「好きな人に揉んで貰うとって言いますけどね」
「それの効果はまだ出てないんですよねぇ」
空の返しに、クルルーラはニヤッと笑いつつ気まずそうな勇誠を見た。
「へぇ?ヤることはヤってたわけですかぁ?」
「うぐぐ……」
クルルーラにニヤニヤしながら勇誠に詰め寄り、勇誠は顔を逸らす。
「でもホントに効果あるもんかね」
「私はありましたよ」
空のぼやきに、ピースしながら答えたのは刹樹である。
「ワンサイズアップです」
「マジかよ!?」
他の皆も思わず刹樹の胸元に眼が行ってしまう。元々スタイルが良い刹樹だ。ちょっと分からない。
「良いですわねぇ。刹樹さん脚も綺麗ですし顔なんて言わずもがな。私もあやかりたいモノですわ」
「美矢先輩もきれいですよ?」
刹樹は体操部なので、全身が程よく引き締まった良い体をしているし、美矢も長いこと弓道をやっていたため姿勢が良く、幼い頃からの英才教育もあって品がある。そういった意味では、ベクトルは違えど二人とも美人だ。いや他の皆も勿論美人であるが。
そしてそんな美人が集まっていれば、
「よぉ姉ちゃん達。俺たちと飲みにいかねぇかい?」
『……』
とまぁこんな輩も現れると言うものである。
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