救国の英雄
「あ、見えてきましたね。彼処です」
タケルに案内され、勇誠達は暫く歩いてると、街が見えてきた。
街はキングダムと同じで石造りの城壁で囲まれているが、キングダムよりかなり大きい。
「そう言えば鶴城先輩達はどこから来たんですか?」
「あぁ、キングダムって所からだけど……」
勇誠がそう言うと、タケルは驚いた顔をして、
「キングダムから?最近あそこ街ひとつ包む大火事があったんですよ!?大丈夫だったんですか?」
「そうなのか?俺達が出てきた頃はそんなことなかったが……」
厳密には逃げ出したのだが、と思いつつも、詳しく説明は出来ないので黙っておく。
「……」
「クルルーラさん?」
「えや!?な、何ですか魔実さん!」
顔色が悪いようですが大丈夫ですか?と魔実が顔を覗き込んできたので、クルルーラは首をブンブンと縦に振って、
「だ、大丈夫です!元気なのが取り柄なので!」
「そうそう。何時もクルルーラちゃんは元気だもんね」
クルルーラはウジャマルラの言葉に頷きながら笑うが、胸中は穏やかではない。あの一件が発覚すればこの世界で本格的に追われる身になる。何より彼女達の異常性がバレれば勇誠との関係に傷が入るかもしれない。それは不味い。この辺はクルルーラの善性でもあるのだが。
そんなクルルーラの胸中を余所に、
「ここが言ってたイラーワか」
「はい。イラーワは山に近くにあって水も豊富で美味しいのが多いんですよ」
タケルの説明に勇誠達は思わずジュルリと涎が垂れそうになる。基本的に転移すれば元の世界で空腹でない限り、空腹を感じることがないのだが、オルトバニアで飲み食いした分は元の世界には反映されない。女性陣としても、元の世界であれば深夜の時間帯に飲み食いなど、何においても赦されざる大罪なのだが、オルトバニアであれば赦されるのだ。まぁ金銭的な問題もあるので、まずは仕事探しもしなきゃならないのだが……
なので取り敢えず冒険者ギルドに向けて歩を進める。
「あ、でも冒険者ギルドも良いけど武器屋にも行きたいんだよな」
「え?何か欲しいものでもあるんですか?」
タケルは首を傾げながら聞くと、
「いや、この剣どうも合わなくてさ。武器屋って武器の買い取りもしてくれるんだろ?だからこれ売っ払って合ったものを買おうかなと思ってさ」
「でも鶴城先輩って確か剣道されてますよね?」
寧ろそれがあるからなぁ。と勇誠は苦笑いを浮かべる。
「竹刀に慣れてるせいで、こういう西洋剣タイプだと扱いにくいんだよ。得物の重心のバランスが全然違うからさ。それにかなりしっかりした造りの剣だから重いんだよ。振れない訳じゃないけど振りにくい。だからもうちょっと振りやすい新しい剣が欲しいんだ」
「成程。分かりました。丁度街に入ってすぐの所にあるので行きましょうか」
タケルはそう言って、門番の元まで勇誠達を連れていくと2、3言話して用紙を貰い、
「これに記入をお願いします」
「了解」
と勇誠達はその書類に記入。こうして、新たな街・イラーワに入ることができたのだった。
◆
さてイラーワに入り、最初にやって来たのは勇誠が提案した武器屋。イラーワには武器を取り扱う店は幾つかあるものの、ここは門から一番近く更にかなり大きいらしく、品揃えも豊富とのこと。しかし、
「申し訳ありませんが……当店ではこの剣の引き取りは出来かねます」
『え?』
店主に剣を渡し、少し刀身を抜いてみたりしてから、そう言って剣を返されてしまった。
「な、何でですか?」
「単純に高価すぎます。これを正規の値段で買い取るとしたらうちが破産しかねません」
勇誠の問いに店主は答え、勇誠達は頭を掻く。これは想像以上に凄い逸品だったらしい。
そう思うと、空が倒した後に追い剥ぎしたのが少し申し訳ない。しかし街ひとつを包む大火事があったのを考え、ふと無事だったのかと思う。向こうは襲ってきた言わば敵だったが、そこまで悪そうには見えなかった。だから無事であってほしい……等と少し考えてしまうが、とにかく武器だ。これが売れないのでは、少々考えなくてはいけない。
元々所持金も結構乏しい。いっそギルドまで行ってすぐに終わりそうな仕事を見つけるか?と皆で話し合おうとした時、
「その剣を見せて貰っても良いかな?」
『え?』
背後からの声に、皆が振り向くといつの間にか店内に初老の男が入ってきていた。
「も、もしかして……カラマーダ様では」
「うむ」
ほ、本物!?と店主が椅子から転げ落ち、勇誠達はそんな有名なのか?と顔を見合わせつつ、カラマーダと呼ばれた老人を見る。
確かに肩幅は大きく、鋭い眼光を携えた強そうな男だ。
「して、その剣を見せて貰うことは可能かな」
「あ、はい。どうぞ」
鞘に戻し、勇誠はカラマーダに剣を渡す。
「ふむ。確かに名剣だな。魔剣や聖剣といった類いのものではないが、こんなものを買い取ってほしいなんて余りにも店が可愛そうだぞ」
「そ、そうなんですか……?」
勇誠のよくわかってない顔を見て、カラマーダは苦笑いを浮かべると、
「良ければ俺に買い取らせてもらえないか?」
「え?良いんですか?」
あぁ、とカラマーダが勇誠に頷き、懐から紙を一枚だして、ペンでサラサラと書いていく。最後にギルドのバッチを出すと、そのバッチの裏面を外してその裏面を紙に押し付ける。するとそこに判子のような絵が付き、
「これをギルドに見せればこの金額を受け取れる筈だ」
「え?バッチってそういう使い方もできるんですか?」
勇誠は驚きながら、自分の金色バッチを見てみるがどういう仕掛けはない。
「これは銅級以上の冒険者に与えられるものでな。このバッチの判を押しておくと、後でギルドに届ければ、自分のギルドの口座から金を出して貰える。ギルドからの信用が厚ければ、ある程度は貯蓄以上の出費もギルドが一時的に負担してくれるしな。勿論返済はしないとならないが」
「用途としては小切手とクレジットカードの、それぞれ両方の使い方が出来る感じですわね」
カラマーダの説明に、美矢がフムフムと頷く中、勇誠はその紙を受け取り、
「それではこの剣は貰っていくよ」
「えぇ」
カラマーダは剣を腰に差すと、
「それ言えば君達も冒険者のようだが、名前を聞いても良いかな?」
「あ、鶴城 勇誠です」
「杖島 魔実です」
「乾藤 空」
「……暗夜、刹樹です」
「白閖 癒羅……です」
「弓柄 美矢です。以後お見知りおきを」
「クルルーラと申します~」
「フラメだよ!」
「た、タケルです!」
皆がカラマーダに促されて慌てて挨拶。それを聞いたカラマーダは笑みを浮かべ、
「そうか。私はカラマーダ・ハグルワナ。私も冒険者だ。もしかしたらまた会うかもしれないな」
そう言って笑うと、カラマーダは別れの挨拶をしながら店を出ていく。
「金級のバッチか……すげぇな」
「そりゃそうですよ。救国の英雄・カラマーダと言えば有名ですからね」
そうなんですか?と店主に魔実が問うと、
「あの人はハーガルド王国っていう国の騎士団長でしてね。元々ハーガルド王国は小さな国なんですが、資源が豊富で近隣の国から狙われてたですよ。そんなある日、その近隣の国が手を組んでハーガルド王国に攻め込んだ。一応それぞれの国の共有財産とすると言う建前はあったそうですが、まぁ出し抜く気満々の連合。その数100万。対するハーガルド王国は、一般人からも募って、合わせて2万ギリギリ越す程度。精鋭の100万と寄せ集めの2万。勝負になるはずがなかった……」
ですが、と店主は続ける。
「そこに立ち上がったのが当時25才の最年少で騎士団長に就任したカラマーダ様。あの人は一人につき一人倒せ、そうすれば後の溢れた連中は俺がやる。と言って一人突撃され、敵の連合と戦われました。味方達は弓矢や魔法による援護を行いましたが、本来どうにもならない戦力差。ですがカラマーダ様は次々敵を倒し、自らの剣が壊れれば相手の武器も使って戦い、殆ど一人で三日三晩戦い続け、連合の中心となっていた近隣の王の首を取ったんですよ。その後は瓦解した連合を各個撃破し、逆にハーガルド王国は巨大な国家になったんですよ」
そう言う店主は随分興奮して話す。
「もしかして……店主さんはハーガルド王国の人ですか?」
「ん?あぁ、昔の話ですがね。生まれはハーガルド王国。でも色々あった末に冒険者になって武器の目利きを磨き、今はこの街で小さな武器屋の親父です」
癒羅に店主は照れ臭そうに答え、
「ハーガルド王国じゃ、カラマーダ様の話しは、親からや学校の授業でも習いますからね」
そんなやり取りを見ながら、勇誠はソッと空に耳打ちする。
「なぁ、あのカラマーダって人強いのか?」
「滅茶苦茶強い。この店に入ってくる時に気配も出してなかった。私はこの世界では、気を張って気配に対して鋭敏にしてるんだ。それに引っ掛からずに背後を取られた」
「キングダムで戦った奴等と比べたら?」
「いやいや、淳って奴やあの三人とじゃ、全然比べらんないって。例えるならあの四人の力を合わせても、受精卵と成人男性だぞ?」
よくわからん例えではあるが、とにかくあのカラマーダが凄いことだけはわかる。そして勇誠は、
「まぁないとは思うけど……もし空が戦ったらどっちが勝つ」
「ん~。多分だけど十中八九負けるかな」
殺す気でやれば少しは勝つ確率も出るけどさ、と空が呟き、
「え?どうした?」
「あ、いやなんでも。ってかその紙っ切れだけじゃ買い物できるんの?」
「あ、出来ますかね?」
空に指摘され、勇誠は店主に問うと、流石にそれではと言われてしまい、
「じゃあ結局ギルドに先に行くしかないか。タケル、申し訳ないんだけどギルドに案内して貰っても良いかな?」
「そ、そんな!案内くらい幾らでも致しますよ」
そうして、武器屋にはまた後で出直しますと伝え、勇誠達は冒険者ギルドに向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます