激戦

「うぉおおおお!」


優勢は拳を握って振りかぶって殴り掛かるが、淳は軽々と避けると勇誠の腹にボディに入れ、勇誠が怯んだところに右フック。


「うぐっ!」


よろめいた所に淳は勇誠の胸に前蹴り……と言うよりはヤクザキックを叩き込み勇誠は転がり、ゲボッと仰向けのまま胃液を吐き出す。すると淳はそのまま馬乗りの体勢になり、拳を勇誠の顔面に叩きつけた。


「ぶっ!」

「おいおいマジ?弱すぎじゃないか?くそ雑魚じゃん。あの女とどういう関係なのか知らないけどさ、もっと厄介なのかと思ったよ!」


淳はそう言って、ぐったりと体から力が抜け始めた勇誠に、更に拳を叩き下ろそうとしたその時!


「勇誠を離して!」

「ん?」


バキッ!と魔実がモップをフルスイングして淳の頭をぶん殴ったが、逆にモップの方が折れてしまった。


「え?折れた!?」

「俺の能力は落とした女の力を重ねがけするんだ。タフさも尋常じゃないよ。まぁ流石に金的は無理ぎゃ!」


淳はよそ見をして、魔実の方を見た瞬間、勇誠が手を伸ばして淳の顔を掴むと、そのまま親指の指先から淳の片目に差し込む。


「ぬぐぉおおおおおおお!」


そのまま指の眼の中に突っ込み、頭を持つようにして、そのまま横に引っ張って強引に自分の上から下ろすと、馬乗りを無理矢理止めさせた。


「はぁ……はぁ……」

「ぐぁああ!目がぁ!」


勇誠は息を整えながら、急いで立ち上がる。


(あの能力は、やっぱり急所は急所のままってことなのか……金的は普通に効いてたから咄嗟にやったけど、つうか気持ち悪い。めっちゃ親指がヌルヌルする)

「はぁ、く。君イカれすぎだろ!普通何の迷いもなく目を抉りに掛かるか!?」

「そりゃすいませんね。手段選んでる場合じゃなかったもんでよ!」


勇誠がそう言って淳に飛びかかると、淳は片目を抑えながら拳を握って迎撃。しかし勇誠はそのまま潰した目の方に飛び込み、淳の反応が一瞬遅れたところに、勇誠が腰にタックルを決めると、力一杯締め上げる。


「ぐっ!バカだな。その程度の力じゃ俺の力には……」

「やれぇえええええ!魔実ぃいいいいいいいいい!」


は?と淳がポカンとした次の瞬間、ズン!と衝撃が腰に走り、


「アギャアアアアアアアアアア!」


淳の絶叫が響いた。


「あがっ!ちょ!止めろ!」


淳が慌てるのも当然だ。なにせ勇誠に合わせて駆けて来た魔実は、折れたモップ先を、渾身の力で淳のケツ……厳密には肛門に突き刺したのだ。


「ぐぁああああああ!ホ、ホントにやめろ!」


淳は暴れようとするが、勇誠はそのまま淳を持ち上げ、動きを封じる。それを淳は勇誠を殴って離させようとするが、勇誠がジッと耐えて、


「この!」

「なっ!」


淳の両腕にそれぞれ美矢と癒羅が飛び付き邪魔をすると、


「えい!」

「っ!」


刹樹が私服の腰に巻いていた紐を取って、それを淳の首に巻き付けて締め上げてきた。


「ぐげっ!ぐぐぐ」


顔から血の気が失せ始め、淳はパクパクと口を動かしながら、手をバタつかせて、美矢と癒羅を振り払うと首を引っ掻くようにして、首を締め上げる紐を外そうとするが、意味はなくどんどん意識が遠退いていく。


「っ!」


すると突然、ガクンと淳の体から力が抜けた。


「落ちた!」


そう勇誠がいって下ろすと、完全に意識がトんでいる。


「えぇと……モップどうしようか?」

「抜いて使いたいか?」


うぅん……と魔実は勇誠に首を横に振って否定すると、


「取り敢えずさっき折れたモップの先の方で代用するか」


勇誠はそう言って地面に落ちていた、モップの先を拾って魔実に渡し、


「サンドウォール!」


と壁を作る。


「少し空さんと距離ができましたわ。すぐに向かいましょう」


美矢の言葉に、皆は頷いて走り出すと、


「皆さん結構手慣れてましたね……」


クルルーラがそう言うと、


「いやぁ、前にもこういうことがあったので」


と、勇誠は少し恥ずかしそうに言うのだった。



(よかった。対処できたようだな)


空は少しホッとしながら、住民を殺さないが、次々再起不能にしつつ倒していく。


そんな中、少し違和感を覚えていた。淳が倒された途端。住民が次々逃げ出し始めたのだ。


これは淳が倒されたことで洗脳による命令が弱まり、倒すことより自身の身を案じてしまう方に、思考がシフトしてしまったためだ。そして一人逃げ出せばそれは連鎖的におき始め、勇誠達が追い付き、一息着いた頃には殆ど逃げてしまっていた。


「何だ?急にあっさり逃げてったな」


空はそう言って手にベットリと着いた血を服の裾で適当に拭き、


「ま、久々に暴れたしいいか」


とにっこり笑って振り替える。それを見た勇誠が苦笑いし、


「お前ほど返り血が似合う女もいないよ」

「そうか?」


何てやり取りをしつつも、足早に街の外を目指す。住民が逃げ出したとはいえ、ここは安全ではない。すると、


「ん?」


やっと門が見えてきた。そう皆が思ってると、門の前に三人組の男が立っていた。


「あ!」


それを見たフラメがその三人組を指差し、


「お姉ちゃんにフラれてた人達!」

『だぁ!』


三人組の男達はずっこけて、慌てて体勢を戻すと、


「お前ら。そこに止まれ」

「おいおい。もしかして邪魔しにきたのか?」


邪魔っつうかなぁ……と言いながらリーダー格の男が空を見て、


「ギルドから通達でな。現国王に対して謀叛を企てた輩がいるからその身柄の確保。但し生死は問わない。ってな」

「一応いっとくとですね。事情があったんですよ」


勇誠が説得を試みるが、


「まぁ余り良い噂きかねぇからな。とは言えこんな辺境のギルド支部は、冒険者が殆ど来ねぇから金がなくて、どうしても国に頼らなくちゃならない。そうなると国とズブズブの関係になりやすいんだ。そうなると国からの要請を断れない」

「見逃す訳にはいかないということかしら?」

「そうはいうことだ。俺たち以外丁度ここのギルド支部に冒険者はいねぇし、こっちも事情があってな。あ、別に変な事情じゃねぇぞ?」


美矢にリーダー格の男が答えつついると、


「んじゃさっさと倒すか」


そう空が言って前に出た。


「下がってろよ。危ないからな」


指を鳴らし、スーハッハッハと一回で息を深く吸い短く吐いて、何回かに分けて吐ききる。と言う呼吸法で高揚した気分を静め、三人と対峙する。


さっさと倒すか、とあっさり言っているが、空は緊張感を持って歩みを進めた。


強い。空は直感的に感じていた。それはリーダー格の男も同じで、


「まずはあの女を確実に倒す。殺す気で行くぞ」

『あいよ!』


リーダーの指示で残りの二人が空を挟むように両サイドに立ち、三角形になるように立つ。


「……」


空は全身をリラックスさせ、ゆっくりと周りを見回す。小柄な男は弓矢を、大柄な方はハンマーを携え、リーダー格の男が剣と全身に鎧を着ていた。


そして、


「っ!」


素早く弓矢を構え、空に発射。それを空は胴体に向けて射った矢を、体を逸らして避け、矢をキャッチ。そこに大柄な男がハンマーを振り下ろし、空は前に転がってハンマーを回避。そこにリーダー格の男が剣を振り下ろす。


「くっ!」


空は横に転がりつつ立ち上がり、続けざまに飛んできた矢をバク転しながら回避していくが、


「ふぅん!」

「っ!」


矢に気を取られた瞬間、大柄な男のハンマーが空をぶっ叩き、横に吹っ飛ばしてそのまま民家に突っ込んだ。


「空!」


皆が息を呑み、勇誠が叫ぶと、


「へーきへーき」


頭から血を流しながら空は民家から飛び出してきた。


(いってぇ~。咄嗟に殴られる勢いに逆らわず、自分からも飛んだけど効いたぜ)


空は痩せ我慢しながら三人を見る。三人は程よく距離を取り、援護もできるが同時に攻撃されない絶妙な距離にいる。


連携を取り慣れてる連中と言うのは中々に厄介だ。しかし、


(やりようはある)


空はそう考え、そこで構えを取った。乾藤流古武術には構えは基本的にない。殆どは構えを取らずに行う技が殆ど。だが今、空は構えた。空が構えたのは淳と戦った時くらいだ。これは一種のルーティーン。意識を完全に戦闘モードにするため。


常在戦場何て言葉があるが、乾藤では寧ろそれは非効率だと考える。そんなことをすれば緊張状態が続くため精神はすり減り、いざというとき力が出せなくなる。だから乾藤では5:5位にしておく。思考の半分を戦いに。残りを日常に置くことで、いざというときの判断を出来るようにしつつも、リラックスした状態で日常生活を送れる。


そして構えを取ることで全身に殺気を行き渡らせ、三人と対峙する。


「おいルーワ、ヤオル。いくぞ」

『おう!』


ルーワと言うのはデカい方で、ヤオルと言うのは弓矢を持ってる方らしい。と目線で判断しつつも、空は呼吸を整え、力を抜いていく。しかし、額から垂れてきた血が空の目に入り、思わず片目を瞑った瞬間、


「おぉ!」

「っ!」


ルーワのハンマーが空に振り下ろされ、更にヤオルがルーワの斜め後ろから狙撃。しかし空は咄嗟に腕を交差させてハンマーを止め、矢は腹で受け止めた。


「!?」


ルーワが困惑する。ハンマーの重量、自身のパワー、更に勢いも十分に込めてある一撃だ。しかもヤオルの矢もある。なのにだ。空に放った一撃はこれ以上ないほど完璧に入ったのに、びくともしない。まるで巨大な岩石を叩いた気分。自分より遥かに小柄な少女だと言うのに。


「っ!」


その次の瞬間、ルーワの目の前で猫騙しが発動。一瞬固まったルーワの股間を蹴り砕く根絶を叩き込む。


「っ!」


ルーワが白眼を剥いて膝を突いた瞬間。空はそのまま肩を竦めて首を固定。そのまま前傾姿勢になるとルーワに体当たり。


肩・頭・拳の三つが同時にルーワにぶつけられる様に構えた体当たりは、ルーワをヤオルに向かって吹き飛ばす。


「うぉ!」


ヤオルは咄嗟に避けつつ弓矢を構え、空に向け発射!


「ぐっ!」

「な!?」


だが空はそれを腕で受け、先程射たれて腹に刺さった矢を引き抜いてヤオルに投げる。


「ヤオル!」

「っ!」


リーダー格の男が走り込み、横凪ぎの一撃で空の首を狙ってきた。それを空は上半身を大きく逸らし、頭が地面にぶつかりそうになりつつも、膝を折って膝スライディングをし、リーダー格の男の剣をギリギリで避けつつ、ヤオルを狙う。


「うぉおおおお!」


空は拳を握り、ヤオルは至近距離で弓矢を構えるが、ここまで来たら素手の方が早く、ヤオルの手を殴って弓を弾くが、ヤオルは矢を握って空の脇腹に突き刺す。しかし、


「かたっ!?」


ヤオルは驚愕する。矢を思いっきり突き刺したのに、思ったより矢が刺さらない。


「オラァ!」

「あが!」


空は驚愕し、一瞬動きが止まったヤオルの耳の少し前辺りを両手で挟み、手で捻りながら下方向へ両手を押し込むようにしつつ引っ張ると、ガゴン!と顎が外れ、ダランと口をだらしなくあけたままになり、


「あぐ!」


空は手を指を揃えて開き、抜き手と呼ばれる動作でヤオルの開きっぱなしなった口に突っ込み、そのまま喉奥を貫く。


ズルリと肘の近くまで刺し貫いた手を引き抜き、ヤオルが仰向けに倒れたのを確認。空はそれからゆっくりとリーダー格の男を見ながら脇腹に刺さった矢を抜き、


「後はあんただけだな」

「お前恐ろしい技を使うな……」


あぁ、禍黙か。と空はヤオルを少し見ながら言う。


「今のは禍黙かもくって言ってさ。顎はずしたところに抜き手を相手の口腔から喉をぶっ刺す技。因みにそこのルーワってやつに使ったのは根絶。その後の体当たりは突貫とっかん。攻撃を防御してたのは鋼体こうたいって言う技」


突貫は、全身の筋肉を緊張させ、頭・肩・拳の三点で体当たりをし、相手を吹き飛ばす技。全身の筋肉を緊張させた状態から三点での体当たりは、空の小柄とはいえ、体重をほぼ100%乗せてぶつけれる。


空は身長160㎝で体重70㎏。これは太っているのではなく、筋肉量が多いためだ。


その空の突貫であれば、70㎏程の塊が、50m5.5秒(非公式)で駆け抜ける速さ(しかも空の瞬発力と脚力を持ってすればほぼ一歩目の初速からその速さに行くので、加速の必要がない)で突っ込んできた場合の破壊力は、底知れないものになる。


そして鋼体だが、これは相手の攻撃を受ける際、人間は誰しも力を込めて踏ん張るものだが、筋肉の緊張は維持し続けることができず、緊張は最大までいくと、すぐにそのまま解けていく。そのため乾藤では、攻撃のインパクトの瞬間まで力を抜いておき、当たる瞬間に筋肉を緊張させる事で、相手の攻撃を耐える技。


さっきヤオラが矢を射ったり直接刺してきた際にも、内臓まで矢先が届くことがない程、筋肉を固く緊張させることができる。


まぁ、タイミングをミスると危険な技でもあるのだが。


「さて……」


空は少し肩を回しつつ、


「あ、あのー空さん?」

「んー?」

「一度元の世界に戻ってすぐこっちに来ればダメージや疲労回復しますよ?」


クルルーラは空に助言するものの、


「ありがとなクルルーラさん。でもさぁ、寧ろ今良い感じなんだよなぁ~」


空は笑いながら言い、首をグルンと回す。


「良い感じに今燃えてきてるんだ。それにそんな狡い事出来ませんよ」


と空は相手を見て、少し眉を寄せる。


(鎧か……面倒だな)


普通に殴ったり蹴ったりしても、効果は薄い。しかもこうして対峙してても分かるが、かなり強い。


(油断はできないな)


そう決めると、空はゆっくりと構え直す。


対するリーダー格の男も、空に対してかなり緊張感を持って見ていた。正直、一見すれば小柄な少女。だが持っているオーラが、野生の猛獣もかわいく見えるくらいで、挙げ句相対して分かったが、あの服の下は異常なまでに鍛え上げられている。


何より、かなりえげつない攻撃を迷わない。一切の躊躇いなく行う。ルーワもヤオルも生きてはいるようだが、今すぐ戦闘に復帰はできなさそうだ。


(だから嫌だったんだ)


リーダー格の男が苦虫を噛み潰した顔になる。この依頼を頼まれた時から嫌な予感はしていた。こいつらの……特にこの娘との戦いは正直嫌だった。


しかし色々事情があったとはいえ、受けたのは自分達だ。


「なぁ、まだ名前を聞いてなかったな」

「ん?あぁ、アタシは乾藤 空。乾藤流古武術の……何代目だったかの継承者。正直何代目かなんて興味ねえから忘れちまった。うちの家系図無駄に長いからな。一応武士ってものが出来始めた頃にはもう流派としてはあったらしい。アンタは?」

「俺はガラージュ。冒険者ギルド所属で先日やっと銀級になった冴えないへっぽこ冒……」


険者さ!とリーダー格の男改め、ガラージュは腰から投げナイフを抜くと、言葉を続けながら空に投げた。


「な!卑怯です!」


見ていた癒羅が思わず叫ぶと、


「違いますよ先輩」


ナイフを噛んで止めた空は、ニィっと笑いながら言う。


「命の取り合いやってんだ。卑怯なんてない。勝ったもんの正義だ。寧ろ卑怯だろうが何だろうが、勝つために努力しない方が失礼さ!」

「分かってるじゃねぇか!」


ガラージュは空に向かって走り、剣を振り下ろす。


「っ!」


それを伏せて避けながら、空は地面に手を付くと、伏せたまま回し蹴り。しかし鎧を着込んでいるガラージュには効かず、そのまま剣を振り下ろされるので横に転がって避けた。


「いてて、流石に鎧相手に蹴りはこっちがいてぇわ」


空はそう言って笑う。そこにガラージュは走り、剣を凄まじい速さで連続で振り抜いてくる。


まるで嵐だな。と空は内心思いつつ空はそれを全てスレスレで避けていく。


(こいつ、なんつう反射速度してやがる)


ガラージュは舌打ちしながら、それでも剣を振り、合間に蹴りを放つ。


「っ!」


空は咄嗟に防御しつつ、後方に自分から跳んで距離を取る。


「おぉ!」


しかしガラージュは、取られた分距離を詰め、剣を更に振ってくる。


「くっ!」

(隙がない。ただでさえ鎧着てるからこっちの攻撃は顔を狙うしかないのに)


空はそう毒づきながら、ガラージュの剣を回避しつつ、どうするか考える。普通に狙っても、身長差から考えて届かない。ガラージュは結構長身だ。こういう手合いは懐に飛び込んで、ボディを狙う方が良い。しかし鎧を着た相手に殴ったり蹴ったりしてもこっちが痛い。


(となれば……)


空はガラージュの剣を避けつつ、決めようとした次の瞬間!


「っ!」


ブシャ!と突然空の胸から反対側の脇腹に掛けて一本の傷が走り、血飛沫が舞う。


「うぉらああ!」

「くっ!」


ガラージュは剣を更に振ると、空は避けた筈なのに更に傷が増える。


「空さん気を付けてください!恐らくそれはマジックブレードです!」

「はぁ!?」


なんじゃそりゃ!と空が叫ぶと、


「剣士の適正がある人が使う技で、魔力を刀身に変えてリーチを伸ばせるんです!厄介なのは刀身自体は肉眼で見えません!あくまでも魔力で作られた刀身なので!でも刀身を延ばしすぎると重くなって持ちにくくなりますから、長さにも限度があります!」

「なら!」


空は今度は刀身と切っ先の延長線上から外れるように避け始める。


「確かにそうするよな!」

「っ!」


ガラージュはそう言って腰からナイフを抜くと、切っ先を空に向けた次の瞬間、空の腹に穴が開き、背中にも同じ穴が開いた。


「ごほ!」

(しまった、ナイフでも出来るのか!)


空の動きが止まる。そこをガラージュは見逃さず剣を振り上げ、一気に横凪ぎで首を切り落とそうとした。だが、


「あぐ!」

「はぁ!?」


空は咄嗟に剣の方を見ると、迷わず口を開けて剣を噛んで止め、片手を開いて掌をガラージュの体に当てた。すると、


「っ!」


突如、まるで中から爆弾でも爆発させられたような衝撃と振動が発生し、ガラージュは血反吐を吐いた。


「がはっ!げおぉ!」

「乾藤流古武術・鎧通し。って言う技だ」


地面に膝を着き、血を吐き散らしながら苦しむガラージュには聞こえていないだろう。


この技は力を溜め、上半身の筋肉を震わせて振動を生み出し、掌を当てた場所にゼロ距離から直接相手に叩き込む技。振動を相手の内部に送り込むことで、相手の内臓を傷つける事を狙いとしている。


「うちの技では、この振動を生み出して利用するってのは基礎中の基礎でな。この鎧通しはその入門技だ。何せ昔っから素手で色んな奴等とやりあってた一族だ。鎧着た相手との戦いに使える技も結構用意してるんだぜ?」


空はそう言いながら、ガラージュから剣と鞘を奪うと、剣を鞘に戻して、


「勇誠!武器あった方が良いだろ?」

「お?」


空に剣を投げ渡され、それを慌ててキャッチ。更に空はヤオルの弓矢を頂戴し、


「こっちは美矢先輩かな」

「やってることは山賊の類いですわ」

「仕方無いですよ」


空は少し嫌そうな顔をする美矢に笑って言うと、


「す、凄いんですね空さん!」


クルルーラが興奮気味にそう言ってきた。


「んまぁ、これくらいなら」


空は頭を掻きながら言うと、


「大丈夫かな……」


とフラメが倒れているガラージュ達を心配そうに見ていた。それを見た癒羅がフラメを抱き上げ、


「い、急いだ方が良いと思う」

「ですね」


由良の言葉に刹樹も同意。他の皆も頷くと、門に向かって走り出す。


「ですが皆さんも慣れたものですね」

「え?」


クルルーラに勇誠が疑問符を浮かべた。


「だって普通あんなの見たら驚くと思うんですけど?」

「あぁ、まぁそれなりに色々あったのもありますけど、素人目に見てもヤバイやつらだったのがわかりますし、助けて貰ったのに文句言えませんよ」


勇誠はそう言って少し困ったような、そんな微妙な笑みを浮かべるのだった。

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