殺人犯になった僕

ミヤシタ桜

 ここにいると、吸い込まれそうになる。どこまでも広がる青色は、僕でさえも包み込んでくれるのだろうか。はたまた、包み込んでくれないのか。

 その答えには、今はまだ辿り着けていない。けれど、それでも僕は信じている。包み込んでくれると。

 証拠も確証もない。けれど、逆に考えて欲しい。これだけ、広いのに包み込んでくれないなんて、おかしいではないか。

 そんなこんなで、僕は海が好きなのである。そのため、僕は何かあるたびに海に行ったんだ。

 誰にも期待されない、見放された僕を受け入れてくれる海は、夕日に照らされ泣いているように見えたんだ。

「ねぇ、今日ね、親に殴られたんだ」

 僕は、海に話しかける。すると

「それは、きっと痛かっただろうね。いたいのいたいの、とんでゆけ」

 と優しく語りかてくれている気がするんだ。

 そんな海が、僕は大好きだった。

 唯一受け入れてくれるその存在が。

 でも、ある日を境に僕は海に会いに行けなくなったんだ。

 その理由はいたって単純。僕は、殺人を犯したんだ。

 その理由もいたって単純。殺されかけたから。 ただ、それだけ。自己防衛だ。

 でも、世間は認めなかった。何も知らないくせに。僕が、暴力を受けていることも。痛いことを。その痛みを避けるには、そうするしかなかったことを。誰も知らない。そのくせ、メディアは親を殺した令和最恐の殺人犯という違う僕を作ったんだ。

 釈放されても、世間の目は変わらない。冷たい眼差ししかないんだ。

 そんな僕さえも、包み込んでくれたのは海だった。本当に包み込んでくれているかはわからない。けれど

「僕ね。今、すごく痛いんだ。胸の隅に確かに刺さってるんだ」

 と言えば

「うん。みえるよ。いたいのいたいの、とんでゆけ」

 と言って、励ましてくれる。元気付けてくれる。

 でも、その言葉を今回ばかりは信じることができなかった。

 いままでは、その言葉を聞けば自然と楽になれた。痛みがなくなった。でも、今回は胸の痛みは消えやしない。

「ねぇ。本当に、そう思っているの?」

「あぁ。思っているさ。信じてくれないのかい?」

「だって、痛みが消えないじゃないか。それとも、君を信じることが出来る何かがあるのかい?」

「あぁ。あるとも。」

 海は、広く優しい声で言った。

「一体、どんなものなの?」

「僕のところに来てごらん?そうすれば、僕のことを信じていい、と思うことが出来るよ」

 僕は、飛び込んだ。

 冷たい。

 冷たい。

 冷たい。

 ものすごく、冷たい。

 でも、僕にはその冷たささえも、暖かく感じた。





「いたいのいたいの、とんでゆけ」

 






 



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