第4話 聖女は寂しい

「カティ!アンナ!」


2人で子供部屋で駄弁っているとベル先生がロザリー先生を連れて戻ってきた。

ロザリー先生は2人の顔を見るとやはり驚いた顔をしていた。


「本当に…目の色が変わったのね………。」


ロザリー先生は確かめるように何度も2人の顔を交互に見ていたが、そこに地鳴りのような音が鳴った。

音の出所は、間違いなくカティのお腹からだった。


「ひとまず、朝ごはんを食べましょう。」


苦笑いしたロザリー先生がそう言うので、4人は食堂へ向かうのだった。


食堂には他の子供達が行儀良く座って待っていた。


「おそいよー、おなかすいたー。」


小さい子供達が急かすので慌てて席に座り、頂きます、とみんなで食べ始めた。


最初は食事に夢中で大人しく食べていた子供達だったが、ふと、カティの顔を見た子供が大声をあげる。


「カティの目がまっかー!」


一斉に子供達の視線がカティに集まるが、カティは気にした様子はなく食事を続けた。

聖女であることが理解できる子供は、カティが聖女になったことに驚き、理解できない幼い子供達はなんで目の色が変わったのかカティに興味津々に聞く。


「そんなことより、もう食わないなら私が貰うよ!」


カティが手が止まっている子供の皿に残っているウインナーに手を伸ばしたので、慌てて子供は自分の食事を再開した。

しかし聖女はカティだけではない。

今度はアンナの対面に座っていた子供が声を上げる。


「アンナの目があおいー!」


再び子供達の手が止まり、視線がアンナに集まる。しかし、アンナも気にする様子はなく、食べ続けていた。


「今は食事の時間だから、食べようね。」


アンナはいつもの様に落ち着いており、子供達は混乱しながらも食事に戻った。



食事が終わり、皆でお皿を片付け始めたところでカティとアンナはロザリー先生に呼ばれて、応接室へ向かった。他の子供達も興味津々でついてこようとしたがベル先生に止められていた。


応接室は役人が来たときに使う部屋で、机と椅子が並べられており、ロザリー先生と机を挟んで対面するように2人は座った。


「落ち着いて聞いてちょうだい。2人は聖女になったわ。目の色が変わるのは聖女として覚醒した証であることは、知ってるわね?」


先生が確認をとるので2人は頷く。聖女のお話は寝る前の小話でよく先生が話してくれていたので、覚醒した聖女の目の色が変わることも知っていた。



「それで聖女は、国に保護される決まりになっているの。今から私は王宮宛に手紙を書いて、街でその手紙を届けてもらう様に頼んでくるわ。だから貴方たちは、王宮に向かう準備をしなさい。」


「イヤだ!」


間髪入れずに断るカティに、先生は優しく尋ねる。


「何で、嫌なの?」

「だって、王宮ってことは貴族ばっかだろ!そんなとこ絶対にヤダよ!」

「カティは…やっぱ貴族が苦手?」

「嫌いだ!いっつも汚いものでも見るような目で見てきて…イライラする!」

「………アンナも苦手?」

「私も好きじゃないです。孤児院はギリギリのお金で過ごしているのに、いつも節約しろばかり言ってきて先生を困らせる人達だから。」

「部屋の外で聞いてたのね……。」


孤児院の応接室は薄っぺらい扉なため、声は簡単に漏れる。重要なことを話す機会がないため、それでも構わないのだ。


「そんなとこに行くより、大好きな先生達といたい……王宮なんてくそ……。」


カティの目には涙が滲んでいる。


「私も……あなたを王宮へ行かせるのは、心配だわ…。でも、その言葉遣いはだめよ?」


先生は優しく言い聞かせる。


「行かないと、いけないんですよね…?」


賢いアンナは理解が早い。我が儘が少なく、こんな時でも落ち着いてるアンナだからこそ、先生は余計に申し訳ない気持ちになる。


「その通りよ、アンナ…。ごめんなさい。」

「謝らないで、先生。」


アンナはそっとカティの手を握る。カティの目からはポロポロと涙が溢れていた。


「カティのことは、私が守ります。」

「うぅっ……アンナ……ぐすっ…。」


カティがアンナに抱きつく。アンナの目も潤んでいたが、我慢しているようだった。


「2人とも……、大好きよ。」


立ち上がった先生は、そんな2人をまとめて抱き締めた。

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