第97話一八三一年、予言と飢饉対策

 今年も予言したが、今年起こるのは「浜田焼」と言われた富山藩での大火事だが、一年かけて準備をしているから、被害は最小限にできると思う。

 火元の分からない火事はどうにもならないが、火元に分かっている歴史の残るような大火事の方が、今迄は確実に防げていた。

 そして防災の観点から見て、一年前二年前に予言して事前準備しておいた方が、被害を少なくできると分かっているので、先々の予言をすることにした。


 一つは一八三二年十一月( 天保三年の十月中から十一月上旬)に発生するインフルエンザの大流行だが、これはマスク・うがい・手洗いの徹底など、予防医学と衛生学を広めたので最小限に抑え込めるはずだ。


 二つ目は一八三三年(天保四年)の大雨が原因で冷害や洪水が発生して大凶作となる、天保の大飢饉なのだが、この対応に失敗すると人肉を食べるような状況となり、一八三三年からの五年間で、人口が百二十五万二千人も減少するほどの死者を出す。

 今から食糧の備蓄は進めているが、諸藩には米に偏らないように、冷害対策の大麦や蕎麦を植えるように指導もしている。


 特に巫覡として指導しているのは、新田開発を盛んに行い実高が百万石を超えていた仙台藩で、仙台藩が自給自足できるかどうかが大きな鍵だった。

 いや、仙台藩に限らず、冷害被害の分かっている年に、米ではなく大麦や蕎麦などの耐寒性の高い穀物を植える事で、飢饉だけは防ぐことか可能だ。

 そういう意味では、俺の巫覡としての名声は大きな力となった。

 たぶんだが、備蓄食糧を使わなくても飢饉を回避できると思う。


 俺は、幕府直轄領と俺を支持してくれる藩には、商品作物を指導した。

 綿花栽培や養蚕のための桑栽培といった、海外交易によって利益が出る作物を教えたり、蒸留酒として莫大な利益が上げられる、蕎麦や粟、大麦や小麦を相場より高値であるだけ購入した。

 それが諸藩の勝手向きを少し改善させ、俺の名声を更に高めた。


 特に大きかったのは、牛馬の購入だったと思う。

 相場が暴落する中で、去年の相場より少し高めで持ち込まれた牛馬を全て購入したので、諸藩は来年も同じ値段で買って欲しいと思い、俺の指導に逆らい難くい。

 巫覡としての予言ではなく、単なる指導であろうと、今の俺には逆らえない。

 それくらい俺が牛馬購入に使った六十万両は、諸藩の勝手向きには大きいのだ。


 まあ、それ以前に、俺と父上は二人して大老参与であり、俺たちの胸先三寸で、幕府の手伝い普請を命じられる可能性があるのだ。

 そして諸藩は、俺と父上が幕閣に手伝い普請を命じないように指導している事を知っているので、俺と父上を怒らせて手伝い普請を命じられたくないと思っている。

 だから俺の凶作対策には素直に従ってくれる諸侯が多い。

 それに、全てはまだ先の話で、俺にはもっと気になる大事が今年発生するのだ。

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