第96話一八三〇年、改元

「父上、御爺様、京都所司代の本庄殿に、この度色々と手数をかけた御礼がしたいのですが、何が宜しいでしょうか」


 京都所司代は、俺の代わりに改元について朝廷と話し合ってくれた。

 堅苦しい場が大嫌いな俺は、全てを京都所司代の本庄宗発に丸投げした。

 その詫びと御礼をしたいと思ったのだ。


「一番は老中の就任だろう、余とお前が推薦すれば、何の問題もない」


 父上の申される通りだろう。

 誰もが名誉と袖の下のために、老中に就任する事を夢見ている。

 異国との交易を俺が独占したことで、長崎奉行に旨みがなくなったのだ。

 今なら、幕府の役職を差配できる老中・若年寄・奥右筆・小普請組支配組頭などが美味しい役職だろう。


 本当なら、役職を能力以外で選ぶのは嫌なのだが、元々京都所司代が次期老中の一番手なのは確かだし、よほど能力のある者が他にいなければ、そのままで構わない。

 それに老中格の植村家長が先年死んでいるから、空きが一つあるのは確かだ。

 同時に、水野忠成を不正を行ったという事で老中から罷免したから、縁者の水野忠邦の老中就任が遅れている。

 寛政の遺老の一人、牧野忠精を二ノ丸老中にして、徳川家斉の監視をさせている。

 本庄宗発の後任京都所司代には、大阪城代の太田資始を選んだ。

 太田資始の後任大阪城代には、寺社奉行の松平信順を選んだ。


 史実では、一八三一年一月二三日(文政一三年一二月一〇日)に改元されているのだが、その理由として上げられたのは、改元前年の文政一二年三月二一日(一八二九年四月二四)に発生するはずだった、約三七万軒が焼失し二千八百余人もの人が死亡した、江戸三大大火の一つ、己丑(きちゅう)の大火が理由の一つだが、それは俺によって事前に防がれている。


 改元の年の七月二日(一八三〇年八月一九日)に起きた京都及び畿内の大地震で、千六百余人が死傷したことも理由にされていたが、これも俺が予言した事で事前に準備が整えられ、被害を最小限に抑えている。


 それは一八三〇年九月三日から四日(文政一三年七月一七日から一八日)に洛中と宇治地域が大風雨に襲われた、宇治の大水害も同じで、俺の予言で事前に準備していたので、被害は最小限に抑えられている。

 

 だが改元されないと、俺の記憶と年号に違いが出てしまうので間違いやすいのだ。

 そこで徳川家慶に頼んで、無理矢理改元してもらったのだ。

 そのために幕府と朝廷の間で奔走してくれた本庄宗発には、御礼をする必要があったのだが、後で聞いた話では、洛中を災害から守った俺の言う事なら、朝廷も二つ返事で改元に同意してくれたそうだ。

 

「現時点の幕閣と若年寄」

大老参与:徳川権大納言斉義

大老参与:松平権中納言斉恕

老中  :青山下野守忠裕

老中  :大久保加賀守忠真

老中  :松平和泉守乗寛

老中  :松平周防守康任

老中  :本庄伯耆守宗発

二丸老中:牧野備前守忠精

若年寄 :森川内膳正俊知

若年寄 :増山弾正少輔正寧

若年寄 :林肥後守忠英

若年寄 :永井肥前守尚佐

若年寄 :堀大和守親寚

若年寄 :小笠原相模守長貴


京都所司代:太田備中守資始

大阪城代 :松平伊豆守信順

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