第77話一九二七年、牛馬の購入

「殿、奥州路を北上している元野非人の開拓団から連絡でございます」


「何事だ」


「出羽奥州の諸藩が、牛馬を多数販売したいと言ってきているそうです」


 近習一人が、旗振り通信で届いた情報を伝えてくれる。

 予定通りといえば予定通りである。

 蝦夷樺太の開拓に必要だからと、三百諸侯や牛馬親方に牛馬を購入すると持ち掛けて数年、そろそろ大量に繁殖させた牛馬が売れる歳になっているのだろう。

 特に勝手向きが苦しい出羽奥州の諸藩では、藩が主導して牛馬を育成していた。


「開拓団には牛馬の目利きができる穢多に加わってもらっている、その者に適正に判断させて買い取らせよ」


「受けたわまりました」


 江戸から開拓団に向けて、旗振り通信で情報が伝えられる。

 護衛と監視を兼ねて随行している若党隊や、開拓団の頭格の者には予めこうなる事は伝えてあるし、一万頭は買い取れるだけの資金を預けてある。

 できれば一家に一頭の牛か馬を貸与したい。

 そして開拓団や若党隊で繁殖育成して欲しい。


 だが、繁殖に適した若い雌や、体格も気性もいい雄は売ってくれない。

 牛馬の価格もぴんきりで、気性が荒くて体格が小さく、調教もされていない年老いた馬は金一分で売られている。


 それに対して、軍用馬の調教を終えている、気性が穏やかで体格のよい馬は、金八両はくだらない高価な値が付く。


 一方軍用には使えない牛だが、農耕に使うなら馬よりも力強くて役に立つ。

 だから購入層も武士ではなく農民が多く、取引も商人や農民が使う銀や米で支払いが行われる。


 江戸時代は金銀銭の三貨制度なのだが、支払いは売り手が望む貨幣を用意するのがマナーとなっている。

 だから標準的な雄牛の値段が米十俵で値付けされることもあれば、繁殖に適した若い雌牛が銀五百匁に値付けされる事もある。

 売り手が米を求めたのは、年貢の支払いに使うためだろう。

 銀を求めたのは、馬喰が転売しているのか、農民が商人から借りた金を返すために、大切な農耕牛を泣く泣く手放したからだろう。


 開拓や農業だけを考えれば、力のある牛がいいのだが、若党団に軍馬を与え騎兵隊を創設するためには、今から商場や開拓地に駐屯する若党隊に馬の繁殖育成を任せて、乗馬を覚えてもらう必要がある。


 それに越冬集団屋敷の中心に、鍛冶や陶芸、炭焼を据えるのも限界がある。

 少しでも越冬費用を抑えるためには、馬の糞を発酵させて室温を上げる、馬を飼う曲り屋を蝦夷樺太の標準的な家にしなければいけない。

 その為には多少の出費は仕方のない事だ。


農耕馬 :金一分から二両

軍馬  :金二両から金八両

農耕牛 :米十俵(金二両二分)

繁殖雌牛:銀五百匁(金八両)

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