第41話一八二六年、薩摩藩島津家対策六

 今回の徳川家斉は根性が座っていた。

 余程茂姫が怖いのか、俺に反感を持ち出したか、それとも祟りに対する恐怖心を克服して正気を取り戻してきたのか、理由は分からない。

 だが本気で警戒すべきなのは確かだ。

 今の俺では、幕府が本気で潰しにかかってきたら勝てない。

 負ける勝負はすべきじゃない。


 だから妥協した。

 元々内乱をおこさずに島津家を潰せるなら、十万石程度は与えてもいと思っていたから、幕府に寝返った家臣の領地分を考えて、三万石くらいなら与えてもいい。

 幕府に寝返った家臣は、元の半知くらいで親戚に召し抱えさせればいい。

 その分の領地は、薩摩大隅に飛び地を与えればいい。

 そうすれば、元々実高が表高の半分しかない薩摩藩の家臣が、得をする事もない。


 そうなのだ、実際の収穫量が表高の半分しかないという評判の薩摩藩士だと、他藩に仕官して以前の半分の領地を与えられても、手元に入る収入は同じになるのだ。

 もっとも、領地はもらえずに蔵米取りか扶持取りになるだろうが、それでも浪人するよりははるかにましだ。

 

 幕府のために島津本家を裏切り、密貿易と失政の証言した四八家十六万四千三百石の家臣が、総額八万二千百五十石で縁戚大名に召し抱えられた。

 縁戚大名家も、思いがけず加増されることになって喜んでいる。

 だが、召し抱えた元薩摩藩士が問題をおこせば、厳罰処分は避けられない。

 そこで本領から出すことなく、江戸にも飛地の薩摩大隅にも関わらせなかった。


 島津重豪、島津斉宣、島津斉興、島津斉彬の処分が決まった。

 俺はもう城に上がらず、尾張徳川家当主の父上が差配してくれた。

 正直な話、徳川家斉が乱心したり正気を取り戻したりして、俺を処断する事を恐れたのだ。


 父上はきっちりと島津本家を処分してくれた。

 表向き隠居しているが、実権を握っていた島津重豪を、失政と密貿易の罪で閉門蟄居処分とし、自分が強制隠居させた島津斉宣の先室の実家で、六男の島津忠厚や分家が仕官した佐竹家に預けられた。


 島津斉宣は島津重豪によって強制的に隠居させられ、何の権限もなかったので、連座で叱責されたものの、隠居料一万俵が与えられ、江戸に住むことを許された。


 島津斉興は、実権はなかったとしても当主なので、失政と密貿易の罪で閉門蟄居とされ、継室の実家で分家の多くが仕官した鳥取藩池田家に預けられたが、隠居料一万俵が与えられた。


 島津斉彬は、島津重豪と一緒に屋敷に籠城していたが、自分の意志ではなく軟禁されていたとされ、連座で叱責はされたものの、堪忍料一万石が陸奥に与えられた。


 豊前国中津藩五代藩主となっていた奥平昌高は、幕府に遠慮して隠居し、長男の奥平昌暢に家督を譲った。


 桑名藩主の松平定永と婚約していた孝姫は、婚約を破棄されてしまい、島津斉彬に預けられた。


 福岡藩主の黒田斉清の養嗣子となっていた黒田長溥も、養子縁組が解消されてしまい、島津斉彬に預けられた。


 少し可哀想だったのは、日向国佐土原藩十代藩主の島津忠徹だ。

 母親が島津重豪の隠し子で、表向き養女とされていたのだ。

 基本無罪になるはずなのだが、薩摩大隅の近くに島津一族を置くわけにはいかないので、表高二万七千石を減知される事はなかったが、陸奥に転封されてしまった。

 それは三千石で分家した旗本島之内島津家も同じで、陸奥に転封されてしまった。


「島津本家の処分」

島津重豪:失政・密貿易の罪で閉門蟄居・久保田藩佐竹家今和泉島津家預け

島津斉宣:連座で叱責、隠居料一万俵が与えられる。

島津斉興:失政・密貿易の罪で閉門蟄居、隠居料一万俵が与えられる。

    :鳥取藩池田家預け。

島津斉彬:連座で叱責、堪忍料一万石が陸奥に与えられる

奥平昌高:隠居して長男の奥平昌暢に家督を譲る。

孝姫  :桑名藩主の松平定永と婚約が破棄、島津斉彬に預けられる。

黒田長溥:黒田斉清との養子縁組が解消され、島津斉彬に預けられる。

島津忠厚:分家の今和泉島津家を継いでいたので無罪だが薩摩藩自体が改易処分

    :久保田藩佐竹家に七千五百石で仕官。

島津忠徹:連座で陸奥に転封。

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